
チーズとパンにはもう飽きた!
長く滞在したカルカッソンヌともとうとうお別れ。旅の針路は南仏を離れていよいよ ロワール地方へ!ロワール地方はパリの周辺地区イル・ド・フランスのさらに南西。 気候温暖で地の利がよい、フランス本土を大きく横切るロワール川のほとりに、か つて多くの城が作られた場所。俺はここでロワール古城めぐりがしたいと思って やって来た。フランスツアー旅行のパンフレットなどをのぞくと、ロワール古城めぐり というツアーが必ずといってよいほど目に付く。中世からルネッサンス期にかけて、 ラ・シテのように実用的な要塞としての機能を持つ城ではなく、いわば王侯貴族の ステータスとしての美麗な城がこの地方にできた。白亜の宮殿などといった言葉に 魅かれて、俺の脚はここに向かっている。 目的の場所はとりあえずブロワである。この街はそれほど大きな街ではないの だが、ロワール古城の中で最大級を誇ると言う「シャンボール城」にいく為のバスが この街から出ているのだ。カルカッソンヌから半日以上かけて着いた時、もう夜の 8時頃であたり一面真っ暗だった。この頃20日あまりの旅も半分を過ぎ、俺は一つ の病気にかかっていた。 その病気の名前は困った事に名づけて「ライス食べたい病」である。 この頃、その名の通りライスが非常に食いたかった…。 フランスでは当然のごとく料理にパンがついてくる。そして多くの料理にはチーズが 入っている。早い話がそれに、飽きてしまった。 レストランで肉だとか美味しいものを食べても、パンじゃ何か物足りないのである。 ライス…日本のようにご飯と一緒に食べたい。 もう固いパンとか、パサパサしたパンとかこりごりなんだ。 嗚呼…温かいご飯をがつがつと箸で口にほおばる事の、なんと素晴らしく懐かしい 事か…。旅先で日本と違う文化に接し、日本で当たり前の事が、外国では当たり前 でも何でもないという事に気付く事はよくある事だが、このご飯についても大抵の日 本人なら同じ感想を持つ人は少なくないと思う。 父が、そうだった。 彼は俺よりもずっと重症で、外国に行くと数日で必ず「日本食やご飯が食いたい」と 駄々をこねた。どうやら俺にもしっかりと同じ血が流れている。 ニースと比べてカルカッソンヌは田舎だった。 日本食の店や中華系の料理を出す店はほとんどなく、あっても高価なので食べら れなかった。俺はまず、ブロワで宿を取ると街に出てライスの食える店を探そうと した。するとホテル近くに中華の惣菜屋があったのである。 惣菜屋は便利だ。店に入るとショーウィンドウがあり、中に入っている色々な料理を 指差し、選ぶだけでいい。それを温めて出してくれる。安価でファーストフードに近 い。俺はこれが、気が楽だった。フランス料理のレストランのメニューは全てフラン ス語表記である。英語で並列表記してある所ですら多くない。 メニューがどんなものなのか全くわけわからんのだ。 ガイドブックに載っているわずかなフランス語を頼りに、メニューの読解を試みたが 魚料理か、肉料理かという非常に大まかな判別しかできない。これでどーせいって 言うんじゃ(笑)。仏語辞典を持っていくべきだった。フランスでは、レストランで辞書 を引いてゆっくりメニューを調べていても構わない。 見つけた中華惣菜屋は夜も遅いので閉まっていたが、翌日昼になって行った。 大盛りのチャーハンと肉の炒め物を頼んで6ユーロほど。何て安いんだろう。 「う、美味え(うめえ)…!!」 久しぶりに食べたライスに感動して一瞬のうちに平ら げてしまった俺は、この時何ヶ月もの長期旅行は俺には無理だな。少なくともヨー ロッパ圏での旅行は。と感じた。 俺の中には子供の頃から育まれてきた日本文化(特に料理)が確かに存在して、 それはもう大きな根が張ったように俺の中から動かしがたい。自分と向き合う為 ――そんなロマンチックな理由の旅ではないが、一人旅には望むと望まざるとに関 わらず自分を知る機会がある。 フランス人が四六時中パンをかじっているように、俺も本当は毎日ライスが食べた い。フランスに来ているからといって、朝から晩までパンで我慢するのはもうやめよ う。日本人だ。フランス行ったから毎回フランス料理食べなきゃならない規則なんて どこにもない。 旅行の為の自分じゃない。自分の為の旅行なのだ。 無理しないで、自分が心の底から本当に楽しめる旅行をしよう。 そんなわけで、今や俺の封印は完全に解かれたのであった。 食べたくて食べたくてたまらなかったライスを、何回も何回も食べ続けた…。 …そう、6食連続で同じ店に通い続けるほどに…(笑)。 店主の驚いたような顔が忘れられない。しかしこのブロワでライスを大量に充電し た事は、中だるみしそうだった旅行と俺に改めて活力を吹き込んでくれるのだった。 俺は生活していく中で、食事というものがいかに大事かという事を再確認した。 |

白亜の宮殿シャンボール城。
この時期ブロワ駅から一日2回のバスで30分ほど走った距離にある。
林の間を真っ直ぐに伸びる一本道から、
複雑な尖塔を持つ城が見えた瞬間、まじで感動。
観光客も多く来ていて、皆記念撮影とかしていた。
城内は多くの由緒ある部屋があるが、
ヴェルサイユ宮殿を見た事があるのですぐに飽きてしまった…。
ガイドでもついてれば楽しめそうなのだが。
11時にここに着いて、帰りのバスが6時にならないと来ないので
城の脇のカフェでガタガタ震えながらバスを待っていた。
有名観光地なんだからもう少し交通の便をよく…。

問題の中華惣菜屋のチャーハン&酢豚。
6〜8ユーロくらい。