針穴写真で遊びませんか?

デジタル万能のせわしなく、とげとげしい社会では、人はレトロな世界への回帰を夢見るのか、針穴写真や万華鏡などの遊びが静かに続いています。
部屋全体を針穴カメラに見立てたパフォーマンス、8X10 インチフィルムを使った精密描写?、暗箱自体の作品化など、その幅の広さには目を見張ります。
レンズを使わず、小さなピンホールだけで対象を切り取る-----甘いピントとデフォルメの少ない、何故か心休まる写真が撮れますよ!


撮影の道具

針穴写真機の構造は至極簡単。原理は、暗箱の後ろにフィルムばどの感光材を取り付けられるようにし、全面に針穴をあければ良いわけです。
右写真は、ボール紙の暗箱に針穴をあけたアルミホイルを張付け、ポラロイドのフィルムホルダーの撮影面に会わせて接着したもの。ポラロイド8枚が収納されています。
ただし、写真の品質を上げるには、針穴が極めて重要になります。
多くの先達者もそれに苦労し、研究されています。その結果、針穴の径は「0.2〜0.3mm」が適当のようです。
限り無く正円に近く、針穴の周辺に「バリ があってはいけません。
よく使われるのが「アルミホイル」です。堅木の板などの上にアルミ箔などを置き、絹針などを軽く叩いて開けるわけですが、この針穴づくりが一番大変。 試行錯誤の繰り返しで、いい穴が出来たときの喜びも大きいわけです。

現在ではレーザー用などの光学部品として、各種サイズのピンホールが販売されていますから、それらを利用する方法もあります。
また、最近ではトイカメラとしてピンホールカメラや、ピンホール板が安く売り出されおり、以前程苦労することもなくなりました。

左の写真は、35mm 一眼レフに、針穴を装着したボデーキャップを着けたものです。 TTL 測光の有り難いところで、屋外の晴天下なら自動露光でバッチリ。 50mmレンズで構図を決めてから針穴キャップに交換するなど、極めて便利ですが、焦点距離が短くならないことと、フィルム面積が小さいことが欠点です。
現在では、一眼デジカメで簡単に試せます。
右写真は、旧式なレンズ着脱式の二眼レフを改造したもの。下のレンズを外して針穴プレートを付けたものです。上のレンズで構図が確認でき、ブロニーサイズなので引き伸ばしなどに有利です。しかしこれも焦点距離が65mm(35mm換算で約35mm)なので、やや面白みが欠けます。
左写真は、現在主機材の4X5版と6X9番の2機種です。夫々の画角は------
計算式 『 (arc tan (対角サイズ÷(2X焦点距離)) X 2 』 から算出すると-----
4X5 の対角サイズは 約162.6mmなので、対角画角は 122°。
6X9 の対角サイズは約99.8mm なので、対角画角は 110°。
35mmカメラに換算して焦点距離 12mm と15mm の超広角になります。

ビューファインダーは21mm用なので目安程度。実際は、焦点を合わさず左右に意識を集中した目視(100°を超える)の方が正確です。ただし、上下には弱い。


露出の決め方

リバーサルフィルムなどを使用する際は、特に露出の目安に苦労するので、使用機材の F値を知ることが第一歩になるうでしょう。
F値の算出方式は,「焦点距離÷針穴径」。焦点距離45mm、針穴径0.2mm の4×5版では、F225 です。

F値は、f2、f2.8、f4、f5.6、などと √2 倍で増えています。一方露光量は、F値が一段増す毎に2倍(√2の2乗)になります。そこで、簡易計算 『 (( F値÷基準F値)の2乗×基準シャッター速度)』を使います。

今、F225 の針穴写真機で撮影する場合------露出計で測った撮影対象が F5.6 で 1/500秒だとすると------
『 (225÷5.6)×(225÷5.6)×1/500 』で、約3.2秒ということになります。

しかし、何回か試しているうちに、光線の状況などを勘案しての露出操作にも感が働くようになり、馬鹿ちょん万能の現代では得られない原始写真の醍醐味をあじあえるようになります。


撮影

4X5 使用。埠頭のブイ手前30センチほどからの撮影だが、歪曲もなく、超広角12mm(35mm換算)とは思えない。 4X5 使用。逆行撮影でもゴーストは出来ずに、光がスペクトルになって画面を横切る。
6X9 使用。超広角15mm(35mm換算)で、上の4X5版より画角がやや狭い。その為、周辺光量の落ちが少ない。
4X5、6X9 ともに、案外ピンとがよい。また、淡い色彩は、より柔らかく映り込み、趣きを増す。

20年以上も前-----撮影しているとぺったんこの暗箱がよほど奇妙なのか、必ず人が寄ってきました。最初の鬱陶しさも次第に消え、やがて会話が生まれ、邪気のない笑いが広がります。

シャッター代わりに暗箱の前面にマグネットシートを着けていたので、シートをはがして頭の中で露光時間をカウントしていると、目の前の風景がじんわりと暗箱の中にしみ込んでくるような錯覚を覚えます。
瞬時に射止める射撃型のスナップ写真とは全く異質な、写生用の自動絵筆の感覚でしょうか。

4X5 のポジ原盤を観ると、気のせいか青みなどは深みがありまろやか。最近のデジカメの派手な色合いとは全く異質----レンズやデジタル処理が無い故か、自然の光の波長がそのままフィルムの分子に感光し定着するからだろうか? 白や淡い色は柔らかく滲み、ふっと印象派の絵画を思い起こさせます。
アナログ世界の代表、写真の原点、そんな針穴写真をどうぞ忘れないでください。