訓告の適法性
−授業での校長批判−
東京地方裁判所八王子支部平成16年5月27日判決・判例地方自治266号49頁 |
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事件の概要
Xは、Y市立A中学校の教員であり、卒業式で国旗掲揚・国歌演奏を行うことに対して反対であった。平成一一年二月一五日、Xは、B校長とC教頭に対し、学校教育における日の丸・君が代の変遷や近隣諸国が日の丸をどう見ているかについての各種資料のほか、Xが学校教育において日の丸掲揚等を行うことに反対している理由や、校長がXと一緒に行動することを期待する内容が記載された本件資料プリントを手渡した。その際、Xは、本件資料プリントの七枚目を開き、教員に関わる部分を除き、君が代・日の丸について授業で採り上げる旨を述べた。それに対して、B校長は、良識に沿った話をしてほしいとの発言をしている。
二月一六日、Xは、中学三年生に、本件教材プリントを使用した授業を行った。本件教材プリントの上半分には、地下鉄サリン事件の実行犯の一人の裁判に関する新聞記事が複写されていた。その記事は、「かつて『指示待ち』、今、教祖を『告発』」との見出しの下で、実行犯の証言を引きながら、「自分で考えて行動しようとせず、周りや上からの指示に黙々と従うことで身の安全を保とうとして、結局自分を失ってしまう現代日本の人間像」の典型であると指摘するなどしたものである。それを受けて、本件教材プリントの下半分には、Xが手書きした次のような文章が記載されている。
(ア)「丁田被告のことばをあなたはどう捉えますか。『卒業・入学式に『日の丸』を掲揚せよ、『君が代』を斉唱させよ』と、教委から指導された全国の校長のことばと同じに聞こえませんか。思考は同じ、だと思いませんか。」
(オ)さて、『日の丸・君が代』の歴史や意味、また揚げたり歌ったりすることの『意義』を校長先生から説明もされぬまま、あなたたち子どもが見させられたり、歌わされたりすることを、あなたは、どう思いますか。卒業式の主人公はあなたがたです。」
本件授業において、Xは、本件教材プリントを生徒に配布した上、「生きていく上で私が一番大切にしていること、そしてみんなにもこれからの生活の中で考えていって欲しいことを今日は話したい。」と前置きをし、本件教材プリントの新聞記事を読み、「あなたたちは良いことか悪いことかを考えずに、この記事のように、指示や命令に従ってしまった体験はなかっただろうか。」と問いかけた。また、Xは、生徒に対し、「私は学校や社会の中で判断を迫られることがあり、そのときはいいことか悪いことかをひとつひとつ考える。これは大変なことであり、時には勇気や決意が必要となることもあるが、私は自分の頭でよく考えておかしいと思ったことはやらず、正しいと思えば一人でも行動しなければと思っている。」などと話し、プリントの手書部分を読み上げた。さらに、Xは、「これは思想・信条の問題であって、どちらが良いとか悪いとかいう問題ではなく、考えずに指示に従う姿勢についていいことかどうかを考えよう。」と話した。また、Xは、生徒から、卒業式に校長が日の丸を掲げるかについて問われると、「校長先生は職員会議で、『日の丸を舞台に三脚で置く。君が代は奏楽で流す。』と言っている」と伝えた。
二月一九日、市教育委員会から問い合わせがあったので、C教頭は、B校長の指示を受けて、Xから本件教材プリントの交付を受けた。翌二月二〇日、B校長は、Xに対し、本件授業プリントを使用した授業はやめるよう口頭で指示したのに対し、Xは、「すでに三年生全組で授業を終えた」などと話した。
B校長は、三月三一日付で、本件授業に関する経過や自己の見解を記した報告書を市教委宛に提出、市教委は、四月から六月にかけて、都教委に対してXに対する懲戒処分を求めた。しかし、七月頃、都教委は、B校長によるXに対する適切な職務命令がなく、その職務命令違反を問えないことなどを理由として、懲戒処分には至らない旨の判断をした。そこで、Y市教育委員会は、Xに対して、校長の学校運営方針を批判するに等しい授業を行ったことを理由に、訓告を行った。それに対し、Xが損害賠償を請求したのが本件である。
田中洋(月刊高校教育06年8月号参照) |
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退学処分の性格と裁量権の範囲
―都立高校の校長が行った知的障害を有する生徒に対する退学処分をめぐって―
東京地方裁判所平成17年9月27日判決平成15年(行ウ)第418号・判例地方自治275号10頁 |
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事件の概要
Xは、平成一四年四月、A都立高校(校長Y)の定時制課程に入学したが、入学当初から多動性の傾向を有する知的障害を有していた。Xは自分自身の名前の書き方すら習うことを拒絶したり、教職員からの呼びかけに対しても、学校は遊びに来る所だと言って、自分の興味に沿うこと以外はなかなかしようとしなかった。Xは授業中、休憩時間中を問わず、他の生徒や教職員を素手で殴る、バットや定規でたたく、蹴る、突き飛ばす、髪の毛を引っ張る、女子生徒を追いかけたり胸を触ったりする、備品や他の生徒の持ち物を壊す、辺りに放尿したり大便を漏らしたりするなどといったことを教職員及び他の生徒による制止や抗議などにもかかわらず、執拗に繰り返していた。一四年秋に行われた保護者を交えた面談では、YはXが他の生徒の学習権を侵害しており、本校での教育には限界があるなどとして、養護学校に転学することや、職業訓練を受けさせることなどをXの保護者に勧告した。その一方で、Xが暴行等を繰り返し行っていたため、一五年三月三一日、YはXの保護者と面談し、退学の勧告を行うとともに、四月七日及び五月一日、それぞれ五日間の自宅謹慎を言い渡した。しかしその後もXの行動が学校における正常な教育活動の妨げになっており、「性行不良で改善の見込みがないと認められる者」に該当するとして、Yは一五年六月三日付でXに退学処分を行った。
Xは、この退学処分が違法であるとして処分の取消訴訟を提起した。違法であるとする理由は概ね@Xの行為はXのコミュニケーションの手段に過ぎず、暴力行為であるとしたことは事実誤認であり、このような事実誤認に基づく処分はYの有する裁量権を逸脱している。A知的障害を有し、自己の行為の意味を十分に理解することができない者の行為をもって「性行不良」とすることはできない。B懲戒処分に先立ち十分な弁明の機会が付与されず、また職員会議による諮問を経ていない手続上の違法がある、の三点である。
判決要旨
請求棄却。
退学処分は「他の懲戒処分と異なり、生徒の身分をはく奪する重大な措置であることにかんがみ、当該生徒に改善の見込みがなく、これを校外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであるとの趣旨」であるが、「具体的事案において当該生徒に改善の見込みがなくこれを校外に排除することが教育上やむを得ないかどうかを判定するについて」は、「それぞれの学校の方針に基づく学校当局の具体的かつ専門的・自律的判断にゆだねざるを得ないことがらであるから」、「その退学処分の選択が、全く事実の基礎を欠き、あるいは、社会通念上合理性を認めることができないようなものでない限りは、同処分は、懲戒権者の裁量権の範囲内にあるものとして、その効力を否定することはできないものというべきである。」
Xは、「加害や行為の意味内容の理解が全く欠如していたわけではなく、それをある程度は認識しつつ、自己の欲求のままにこれらの行動を引き起こしていたものと評価せざるを得ない。」Xが「障害者であることに配慮して、その逸脱行動に一定の理解が必要であるとしてもなお、その意味内容を相応に理解した上で実際に行った暴力行為や自ままな行動ゆえに、『性行不良で改善の見込みがないと認められる者』に当たるとしてなされたものである以上、もとより不当な差別的取扱などではな」い。「『性行不良で改善の見込みがないと認められる者』に当たると判断した〔Yによる〕本件退学処分が、全く事実の基礎を欠き、あるいは、社会通念上合理性を認めることができないということはできない。」
「複数回にわたる面談を通じて、当該行為を報告し、その改善を求めてきたこと、それにもかかわらず、〔X〕の行動が改まらなかったため、口頭及び書面をもってあらかじめ退学を勧告したこと」「等からすれば、〔X〕やその保護者には、弁解の機会は十分に与えられていた」。懲戒処分の「要件の認定につき他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要することから、校長の有する裁量権の逸脱・濫用が生じないようにすべく、できる限り職員会議を経ることが望ましいものとはいえても、校長が退学処分を行うに当たり、職員会議の諮問を経なければ、退学処分が当然に違法になるものとはいえない。」
山口亨(月刊高校教育06年7月号参照) |
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公立幼稚園就園許可の仮の義務付け
―障害を有する幼児の保護者に対する就園不許可処分をめぐって―
徳島地方裁判所平成17年6月7日決定平成17年(行ク)第4号・判例地方自治270号48頁 |
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事件の概要
A県Y町(被申立人)内に居住する申立人Xは、次女(平成一一年九月生)を一七年四月からY町立幼稚園に就園させたいと考え、Y町立幼稚園長に対し、一六年一二月、次女の就園を求める申請をした。Y町教育委員会は、同女は先天的に二分脊椎(脊椎骨が形成不全となり、脊椎の管の中にあるべき脊髄が脊椎の外に出て癒着や損傷しているために起こる神経障害の状態)という障害を有し、希望する幼稚園では職員の加配措置など人的・施設設備面等においては十分な配慮をすることは困難であるとして、一七年三月、不許可決定をした。Xは、現状の施設のままでも支障はなく、園舎の一階と二階の間を移動する際に介助するための職員を加配すれば、就園は十分に可能であるとし、かつ五歳児の保育は一七年四月八日から既に始まっており、本案訴訟(Xは本件申立てとは別に、不許可決定の取消しと次女の就園の許可を命じる訴えを提起している。)の判決を待っていては次女が就園できる期間があと一年を欠けることになり幼稚園に就園することができなくなることから、不許可決定により次女に償うことができない損害が生じることは明らかであり、このような損害を避けるために緊急の必要があるとして、Y町に対して、主位的に幼稚園長、予備的にY町教育委員会につき、就園を仮に許可するよう求めたものである。
決定要旨
「就園を仮に許可せよ。」
1 不許可決定の違法性について
「幼稚園長又は教育委員会は、公立幼稚園への入園申請を許可するか否かについて裁量権を有するというべきである」が、「地方公共団体としては、幼児の保護者から公立幼稚園への入園の申請があった場合には、これを拒否する合理的な理由がない限り、同申請を許可すべきであり、合理的な理由がなく不許可としたような場合には、その裁量権を逸脱又は濫用したものとして、その不許可処分は違法になると解するのが相当である。」「財政上の理由、採用手続上の理由等から」同女のために「教職員を加配する措置を採ることが不可能ないし著しく困難であるということはできず、」「就園を可能とするために教職員の加配措置を採ることができないとの判断は合理性を欠くというべきである。」同女の「心身の状況やその就園を困難とする事情の程度等、その困難を克服するための手段について慎重かつ柔軟に判断するならば、本件不許可決定について、合理的な理由があるということはできない。」「本件不許可決定は、町教育委員会がその裁量権を逸脱又は濫用した違法なものとして取り消されるべきであ」る。
2 仮の義務付けの要件について
「本件訴訟の判決を待っていては」同女は「幼稚園に正式入園して保育を受ける機会を喪失するということができる。」同女に体験入園しか認めないことは「必要以上に」同女に「差別感を抱かせるものであり」「心身の成長や障害の克服等にとって障害となるおそれが十分に考えられる。このような損害は、後に回復するような性質のものでないことは明らかである」。就園許可を義務付けたとしても、「他の幼児についての安全及び適正な教育の実現を脅かす状況を生じさせる」「おそれがあるとは認められない」から、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとは認められない。
山口亨(月刊高校教育06年4月号参照) |
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部活動の指導方法と国家賠償
−野球部練習中の事故を巡って−
福岡地方裁判所小倉支部平成17年4月21日判決・平成16年(ワ)第362号 |
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事案の概要
原告(X)は,本件事故が発生した平成一四年二月当時,Y県立A高等学校の第一学年に在籍する野球部員であった。Xは,同日,他の部員とともに午後四時過ぎ頃から同校の運動場で練習を始めた。準備体操の後,ランニング,ストレッチ等を経て,キャッチボールに移行し,午後五時頃からは,担当教員であるB,Cも練習に加わり指導を開始した。その後,練習は,キャッチボールからノックに移り,さらに,Xを含む内野手は,ティーバッティング(一人がボールをトスし,別の部員がそのボールを防球ネットに向けて打つ練習)に移行していった。
その日のティーバッティングには,BやCは立ち会っておらず,部員が二人一組となり,運動場の北側にあるバックネットの手前に張られた防球ネット付近において,三組が並んで練習をしていた。そこに,かつて同校の野球部長を務めていたDが加わり,三組のうち最も西側で練習をしていたEの指導を始めた。Dの指示した練習内容は,バットを振らせ,スイングの中途でバットを手離させて防球ネット方向にバットを放らせるというものであった。EがDの指導に従い,スイングの途中でバットを手から離したところ,バットは,防球ネットの方向へは向かわず,Eの右斜め後方で他の部員のティーバッティングの相手をしていたXの方向に飛び,その左眼に当たった。
Xは,事故発生当日から同年三月二二日まで入院し,さらに,同月二七日から平成一五年二月二七日まで通院したが,左眼を失明した状態で症状が固定した。Xは,本件事故はDの職務上の過失により発生したものであり,A高等学校の設置者であるY県に対し,国家賠償法一条一項に基づき,六二〇四万〇三九〇円及び遅延賠償の支払を求める訴訟を提起した。その最大の争点は,本件事故に関してY県に安全配慮義務違反が存在するといえるか否かにある。
判決要旨
一部認容。
「本件野球部の練習が,本件高校における教育活動の一環として行われる課外のクラブ活動であり,[D]教諭による[E]部員に対する本件練習方法の指導も本件野球部の活動の一環として行われたものであることは当事者間に争いがないところ,本件野球部の練習の指導に当たる者は,部員の生命や身体に危険が及ばないように配慮して事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負うところである」。
「そして,[D]教諭が[E]部員に対して指導した本件練習方法は,バットでボールを打たせるのではなく,スイングの中途で重量約一キログラムあるバットを手離させてバットを放らせるというものであり,それ自体が危険性を伴う練習方法であることは明らかであり,また,本件練習方法は必ずしも一般的な練習方法ではなく,[E]部員も本件練習方法をそれまで一度も行ったことがなかったのであり,証人[D]自身も,本件練習方法に慣れていないとバットが右や左に飛んでいったりすることがあると聞いていた旨の証言をするとおり,バットを振る速さについては指導を受けていなかった[E]部員の放るバットが[E]部員の右斜め後方約七メートルの原告がいた場所まで勢い余って飛んでいくことも十分に予想されたというべきである。したがって,[E]部員に本件練習方法を指導し行わせた[D]教諭には,原告に対して注意を促し移動させるなどして原告の生命や身体に危険が及ばないように配慮をすべき職務上の注意義務があったと認められる。しかるに,[D]教諭は,これを怠り,・・・原告には声はかけずに注意を促したり移動させるなどの配慮を行わなかったのであるから,[D]教諭には,職務上の注意義務を怠った過失が認められ,本件事故のために原告が被った損害について被告はこれを賠償すべき責任を負うというべきである」。
被告は,原告がティーバッティングの相手をしていたF部員の移動により練習が終了又は中断した事実を認識できる状況にあったから,周囲の状況の確認とその認識に応じた適切な対応が当然に求められていた旨を主張している。しかし,F部員が本件事故発生前に移動していたと認めるに足りる的確な証拠はなく,これを前提として原告に周囲の状況の確認が求められていたということはできない。また,「原告は本件練習方法をそれまで一度も経験したことがなかったのであり,バットを放り投げるという本件練習方法が行われることをも想定して更に周囲の状況に注意すべきであったとまではいえないのであって,原告に過失相殺すべきとする事情は見当たらず,被告の過失相殺の主張は認める余地がない。」
「原告の請求は,五七九五万六四五五円及びこれに対する本件事故が発生した日である平成一四年二月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある」。
坂田仰(月刊高校教育06年2月号参照) |
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学習指導要領と国歌斉唱
福岡地方裁判所平成17年4月26日判決・判例集未登載 |
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事実の概要
北九州市立の学校の教職員である原告らは、当時の勤務校の校長から卒業式又は入学式における国歌(君が代)斉唱の際に起立して歌うよう命じられたにもかかわらず、起立しなかったことを理由として、一九八九年から一九九九年にわたって戒告、減給の処分又は厳重注意、文書訓告の指導を受けた。北九州市教育委員会が行った処分の取消を求めるとともに、上記の職務命令、処分及び指導が不法行為にあたると主張し校長・北九州市に対して賠償を請求した。
判決要旨
請求一部認容、一部棄却
原告の請求のうち、「減給処分」の取消のみが認容され、他はすべて棄却された。
「個々の教育課程の実施においては、各教科を担当する教員の教授の自由が認められる部分が存在するとしても、卒業式、入学式が、学級、学年の区別なく行われる学校全体の行事であり、保護者、地域住民等の協力も得て行われるものであって、各教員が独自にその式次第や場所、時間等を決定することは適切でないことからすれば、卒業式、入学式の式次第については、校長が、その裁量の範囲においてこれを決定する権限を有し、校長は、その実施のために、各教員に対して、職務命令を発することもできると解される。」
「文部大臣が定めた学習指導要領は、許容される目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な基準として、各教師が行う教育活動に対しても、拘束力を有するといえる。」「もっとも、学習指導要領には、必要かつ合理的と認められる大綱的基準から逸脱し、細目にわたり、若しくは詳細にすぎ、又は、必ずしも法的拘束力をもって地方公共団体を制約し、若しくは教師を強制するのに適切でなく、又、はたしてそのように制約し、ないしは強制する趣旨であるかどうか疑わしい定めが含まれており、このような個別の定めまでもが、各教師が行う教育活動に対して拘束力を有するものと解することはできない。」「そこで、学習指導要領中、国歌の指導について定めた部分について、その拘束力を検討するに……普通教育においても、日本人としての自覚を養い、国を愛する心を育てるとともに、児童、生徒が将来国際社会において尊敬され、信頼される日本人として成長していくためには、児童、生徒に国歌に対しての正しい認識を抱かせ、それを尊重する態度を育てることは重要なことであると解され、国歌を尊重する姿勢を育むことは、その性質上、全国的になされることが望ましいといえるのであって、これらの定めは、必要な基準ということができる。」
「君が代を歌うことに対する個人原告らの嫌悪感、不快感に一定の配慮をすることが必要であるとはいえるとしても、本件職務命令がただちに憲法一九条に違反するということはできない。」「この点、本件職務命令の中には、『心を込めて』斉唱すること、『厳粛に』斉唱することをも命じているものがあるが、各校長において、歌っていたか否か、発声状況、起立態度について調査、確認したという事実は認められないことからすれば、『心を込めて』や『厳粛に』という言葉は、歌うという外部的行為において、児童、生徒の範として、また、卒業式、入学式にふさわしい雰囲気を形成するものとして相当な歌唱態度を命じるにすぎないものであったといえ、君が代の歌詞に敬意を表すことを命じるものではなく、まして天皇制に賛同することを要求しているものとは到底解されないから、個人原告らの思想、良心に反する精神的活動を強制するものとはいえず、その他の職務命令と異なるところはない。」
「被告教育委員会の指導は、校長がその裁量に基づいて行うべき自主的な判断を歪めるおそれがあるものといえ、各校長は教育基本法10条1項にいう『不当な支配』を受けたといえる。」
「君が代斉唱の際に単に起立しなかったにとどまる行為に対して、給与の減額という直接に生活に影響を及ぼす処分をすることは、社会観念上著しく妥当性を欠くものと言わざるを得ない。」「本件処分のうち、戒告処分については、被告教育委員会の裁量の範囲を超えるものではないと認められるが、減給処分については、いずれもその裁量の範囲を超え、これを濫用したというべきである。」
大津尚志(月刊高校教育05年9月号参照) |
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27年後の失職通知
―27年前に失職に該当する事実があったことが判明した場合の措置をめぐって―
横浜地方裁判所平成17年3月22日判決・公務員関係判決速報348号24頁 |
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事件の概要
原告Xは、昭和四八年四月に国家公務員(郵政事務官)に採用され、某郵便局の集配課に勤務していた。Xは、国家公務員に採用される以前の四七年九月、いわゆるベトナム反戦運動に参加した際、公務執行妨害罪で逮捕、起訴された。そして採用後の四八年一二月、懲役四年、執行猶予二年の判決を受け、同月二一日判決は確定した。
Xは、この判決を受けたことを任命権者である郵便局長に告げず、また郵便局長はこの事実を知らなかったため、郵便局長は特段の措置を行うことはなく、Xはその後も勤務を続けていた。
郵政省関東郵政局人事部は、判決確定後約二七年が経過した平成一二年九月、Xが過去懲役刑を受けたことがある旨の情報提供を受けた。同部が横浜地方検察庁に照会しこの情報が真実であることを確認した上、郵便局長は同年一一月一三日、国公法七六条及び三八条二号に該当するとして、昭和四八年一二月二二日付に失職した旨の人事異動通知書をXに交付した。Xは、この通知は@国公法七六条及び三八条二号は憲法に違反する、A権利の濫用に該当し違法である、などとして、郵便局長の地位を承継した日本郵政公社を被告として、職員である地位の確認及び給与の支払を求めるとともに、国家賠償法一条に基づき給与相当額の損害賠償を求めたものである。
判決要旨
棄却。
失職制度は「当該国家公務員が禁錮以上の有罪判決を受け、その判決が確定したことにより法律上当然に国家公務員の地位を失うものであり、任命権者の行為により不利益処分を受けるものではないから、失職の効力発生自体において当該国家公務員に弁明の機会を与える等の正当な手続の保障が要請されるものではない。したがって、〔国家公務員〕法七六条及び三八条二号は、憲法三一条に違反するものではない。」
「任命権者である」「郵便局長が〔X〕に対し失職の旨の人事異動通知書を交付したことは、法律上確定している失職との事実を確認・通知したものに過ぎない。」「郵便局長が〔X〕の失職後直ちに失職の旨通知せずに長年郵便局員として職務に従事させてきたのは、」「郵便局長において〔X〕が本件判決を受けたことを知らなかったからであり、平成一二年一〇月に本件判決の確定を知るに至り、直ちに人事異動通知書を交付しているのであって、」「郵便局長の対応に誤りや不誠実な点があったとは認められない。」などとして「〔X〕に人事異動通知書を交付したことや〔X〕を失職したものと取り扱っていることが権利濫用に当たるとは認められられ」ない。
山口亨(月刊高校教育06年1月号参照) |
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中学生による教員刺殺と保護者の損害賠償責任
−栃木県黒磯市女性教員殺害事件−
宇都宮地方裁判所平成16年9月15日判決・平成11年(ワ)第201号 |
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事案の概要
Aは,平成九年の夏,刃長三〜四センチのサバイバルナイフを購入し,友人に見せて自慢するため,登校時も含めて常時携帯していた。また,平成一〇年一月二〇日,母親であるY1と出かけた際,Y1が買い物をしている間に一人でバタフライナイフを購入した。その理由は,「かっこ良かったので半年くらい前から欲しかった」というものである。しかし,友人に自慢し,あるいはトラブルの際ナイフを出し脅すという護身目的も併有していた。Aは,本件ナイフを購入後,登校時は制服の上着ポケットに入れ友達に見せる他,外出する際も常時携帯していた。Aは,両親がナイフの所持を許可するはずがないという認識を有しており,その購入について相談したことはなく,両親はサバイバルナイフを含めて,ナイフの購入,常時携帯について全く気が付かなかった。また,Aは,ナイフの所持が違法であるとの認識はなく,ナイフの校内への持ち込み禁止,生命尊重等の指導を両親や教員から指導された記憶もなかった。
平成一〇年一月二八日,Aは,体調不良と授業に出たくないという気持ちから,保健室を訪れた。しかし,養護教諭から授業を受けるよう促され,トイレ等に立ち寄った後,遅れて授業に参加し,B教諭から指導を受けた。その後,他の生徒から話しかけられた際,名指しの上,強い口調で「うるさい」と自分が叱責されたことに苛立ちを募らせ,「すげーむかつく。」「刺すかもしんねえ。」「ぶっ殺してやる。」等と放言した。授業終了後,B教諭に呼び止められ,再び指導を受けることになった。その際,ふてくされた態度をとり,その原因を問いただされてもあいまいな返事を繰り返したことから,更にその態度を厳しく叱責された。Aは,くすぶっていた怒りを爆発させ,「なめられてたまるか」という気持ちでバタフライナイフを取り出しB教諭に突きつけた。しかし,B教諭が怯えたそぶりも見せず,逆に馬鹿にしたような目をされたと感じたため,更に激高し,左胸,背中等を刺し,心臓刺切創,左前胸上部刺切創,右背部刺切創等の傷害を負わせ,約一時間後,心臓刺切創による失血により死亡させた。
Aは,教護院送致となったが,心身の不調を訴えるのみならず,凶器と化す性質の物を居室に隠し持ち,職員や他の少年に対して暴力や殺人に結びつく言動をはばかることなく行う等,問題行動を繰り返した。最終的にAは,関東医療少年院に送致され治療を受けることになるが,軽度の脳波異常等の生物学的所見を伴った腹部発作及び不機嫌状態を伴うてんかんとそれに並んで存在する周期的不機嫌状態が見られ,精神障害(てんかん性腹部発作及び不機嫌発作)であると診断されている。
本件訴訟は,B教諭の夫(X1)及び長男(X2),B教諭の両親であるX3,X4が,Aの両親であるY1及びY2に対して,不法行為に基づき損害賠償を求めた事案である。なお,途中X3が死亡し,X4が相続によりその地位を承継した。
判決要旨
一部認容。
Aは,「在籍する中学校の教師である[B]教諭に対して,十数か所にもわたる刺切創等を負わせた上,内臓が破裂するほどのけりをも事後的に加えるなどしており,殺害行為の残虐性は顕著である」。「殺人行為の是非弁別の判断やそれに伴う法的責任発生の認識は,既に中学校に入学し満一三歳に達していた[A]においても,基本的には比較的容易なものであったというべきである」。そして,Aは「その理解力その他知的能力に特に問題はうかがえないこと,本件事件に関する警察官らに対する供述調書や少年審判においても,その応答や供述内容に特に異常性はうかがえず,激発に至った動機・経緯も,極めて短絡的ではあるにせよ,了解そのものは可能であって,[A]は,他者の殺害行為が悪いことであったとの認識は示していること」,成人であれば「心神喪失の条件となるような精神病状態にあったものではなく,・・・人格障害(精神病質)の範囲にあるものであって,それに生物学的背景が存在するといった程度の状態にあり,年齢の考慮を捨象した場合における刑事的な責任能力はこれを肯定してよいと考えられること等にかんがみれば,本件事件当時[A]が精神疾患に罹患していたとしても,これが同人の是非弁別能力に影響を与える程度の重篤なものであったと認めることはできない」。Aは,「本件事件当時責任能力を有していたと認められるので,被告らに対して民法七一四条に基づく責任無能力者の監督者の責任を問うことはできない」。
しかし,「未成年者が責任能力を有する場合であっても監督義務者の義務違反と当該未成年者の不法行為によって生じた結果との間に相当因果関係を認め得るときは,監督義務者につき民法七〇九条に基づく不法行為が成立すると解するのが相当である」。この点,Aは,「義務教育課程を終えていない一三歳になったばかりの中学一年生の少年であり,・・・是非弁別能力等の責任能力は一応認められるにせよ,その程度は相当に低いものであるから,日常生活その他のあらゆる局面において親権者等の監督義務者の広い監督,支配に服すべきであるが,その反射的効果として,このような低い責任能力しか持たない年少少年の監督義務者の監督義務としては,広範かつ重大な責任が課せられて然るべきである」。
Aは,「正当な理由のない刃物等の所持が法律に違反することも知らず,学校にナイフを持って行ってはいけないとの指導を受けたことは一度もないなどと述べており,同供述から親権者らの日常の監護・教育の中で常識的に身につけるべき認識を欠いた状態にあったことがうかがわれ」,ナイフ所持の禁止,生命の尊厳等の基本的な事柄について,「被告らの[A]に対するしつけや指導には重大な過誤があったことが推認される」。また,Aは,中学校入学後,成績が悪化し,欠席の増加,保健室に度々出入りする等,「思春期特有の反抗行動といえる範囲を超えた明確な変化を示していた」。しかし,精神的疾患の発露とも取れる変調の兆しに対し,「被告らはある程度これに気付いていながら,特段の対処を講じていなかった」。さらに,「ナイフ類の購入は本件事件の約半年前に初めてなされ,ナイフ等を常時携帯する習癖もそのころから発現していたことに加え,本件ナイフの購入も被告[Y1]の同伴時になされており,その後本件事件まで約一週間にわたって[A]が本件ナイフを常時携帯していた等の事実があるにもかかわらず,被告らはこれらに全く気付かず,[A]による家庭から学校への本件ナイフの持ち込みは継続していた」。これら事情を勘案すれば,「監督義務の懈怠があったことは否定できず,その懈怠が殺傷能力十分な本件ナイフの校内への常時持ち込みを許すことになった以上,被告らの監督義務違反と[B]教諭の殺害との間の相当因果関係もまた優に首肯し得る」。また,監督義務違反の内容に照らせば,殺害行為自体を具体的に予見していなかったとしても,「一般的な他害行為に及ぶ可能性は十分に予見できたのであるから,予見可能性はあったというべきである」。したがって,被告らは「監督義務違反により共同不法行為責任を負う」。
坂田仰(月刊高校教育05年02月号参照) |
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訪問指導における事故と国家賠償−重度障害児の死亡を巡って−
大分地方裁判所平成16年7月29日判決・平成14年(ワ)第23号 |
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事案の概要
Aは,脳性麻痺による四肢体幹機能障害を有する重度の障害児で,運動麻痺と両側足関節の拘縮があり,ほぼ寝たきりの状態であった。Aは,事故発生当時,Y県立B養護学校に在籍し訪問教育を受けていた。
一九九七年,Aは,四学年に進級し,C教諭が担任となり,毎週三回,午前九時半から午前一一時までの間,訪問教育を受けることになる。Cは,一九七七年に聾学校教諭に任じられて以降,Y県下の養護学校等で障害児教育に携わり,四月から,B養護学校に教諭として赴任してきた。当時,Aは,首が定まらず,下肢(膝・腰・足首)が硬く,自ら両下肢を曲げることもできず,背に側わんがあるため,うつぶせに寝かせるしかないという状況であった。
一九九七年夏,Cは,Aの姿勢を改善することが必要であると考え,健康状態や生活状況に触れ,首がすわらず,常に横抱きにされているAに縦方向の姿勢をとらせ,自分の力で座位を保持できるように訓練を実施したいと説明した。そして,左膝を曲げて床につける形で折り畳み,その上に右膝を立てるという座位姿勢保持指導を,二学期ころから訪問教育に組み込んだ。その際,Cは,脱臼があると無理ができないとして,検診時に股関節が脱臼してないかレントゲン撮影による確認を要請するとともにアドバイスを受けて欲しい旨を告げ,最終的に医師の了解が得られている。
一九九八年一二月二一日,五学年二学期の最後の座位姿勢保持の訓練が行われたが,この頃にはAはある程度床に座れるようになっていた。翌年一月八日,訪問教育が再開され,CはAを座らせようとしたが体が不安定なままであったため母親(X2)に事情を尋ねると,右足の股関節の部分を痛がっている旨の返答があった。Cは,股関節脱臼を疑い指導を中止,大学附属病院での検査を促した。だがX2はAを受診させることをせず,一三日の訪問教育の際も状況が変わらず指導は中止となっている。
一月一八日午前九時前後,年明け三回目の訪問指導の際,X2はCの質問に「大丈夫,よくなった」「心配ない」等の返答をした。訓練が開始されたが,Aの足から骨が折れるような音が聞こえた。近隣の整形外科でレントゲン検査を受けた結果,右大腿骨骨折という診断を受け,ギプスで固定するという処置がとられることになる。同日夜,痛みが引かなかったため,再度整形外科を訪れてギプスを締め直してもらおうとしたところ,顔色が悪いことに気づき,午後一一時三〇分頃,救急車で大学附属病院に運ばれ入院したが,翌一九日,死亡するに至った。死因は,解剖の結果,肺脂肪塞栓であるとされている。
Aの両親であるX1,X2は,Aの死が,地方公務員であるC教諭が指導の際,左足の下に同児の右足を曲げて差し込み,それまで一度も訓練で取り入れたことのなかったあぐらの姿勢を強要した点に原因があるとする。そして,国家賠償法一条一項に基づき,Cの任用権者であるY県を相手として,慰謝料,逸失利益等並びにそれらに対する遅延損害金の賠償を求める訴訟を提起した。なお,X1,X2は,日本体育・学校健康センターから,災害共済給付金として二一〇〇万円の支給を受け,また香典として,Cから一〇〇万円,当時の学校校長から五〇万円を受領している。
判決要旨
一部認容。
1.指導の態様について
被告は,骨折が指導後に生じた可能性がある旨の主張をしているが,「足から異常な音がしたこと」を確認し,直ちに整形外科に連れて行っていること等から,「被告の主張は採用することができない」。本件指導の態様については当事者双方の主張が異なっているが,レントゲン写真に対する所見には「大腿に捻れを加えるような力が働いたものと考えられると記載されており」,「少なくとも,[A]があぐら様の姿勢をとったのち背部から圧力をかけた」という点では,原告の主張を事実と認めるのが相当である。
2.過失の有無について
「養護教諭が障害児に動作訓練を施す場合には,その職務上,対象児童・生徒の健康状態に十分な配慮をし,身体に危険のないよう注意する義務を負っているものであり,場合によっては,医師とも連絡をとる義務があるところ」,特に重度の障害児の動作訓練の場合には,「ささいな外力で骨折等の傷害が生じるおそれがある以上,医師と協議するなどして,健康状態について正確に把握した上で,障害児の状態を注視しつつ慎重に指導を行う必要があったといえる」。「本件指導に先立って,[A]の下半身の状態が従前と比べて安定性に欠け,[A]に脱臼の疑いがあることも認識していたのであるから,[C]自身が医師と直接連絡をとったり,原告らとともに病院に行くなどして,[A]の足や腰部の状態を正確に把握し,座位保持訓練によって身体に危険が及ぶ可能性がないかを慎重に検討し,さらに,当該訓練において[A]に何らかの負荷をかける場合には,[A]の身体の状態に注視し,[A]の身体に過度の負担がかからない姿勢であるか否かを確認する義務があったということができる。しかるに,[C]はこれを怠り,[A]の足や腰部の状態を正確に把握することなく漫然と訓練を開始した上,[A]があぐら様の姿勢をとっていたことを見過ごして背部から圧力をかけた結果,右大腿部を骨折させたものと認められる。したがって,[C]には過失があることが明らかである」。
3.因果関係について
Aは,「本件指導中に右大腿骨骨折を生じ,その合併症である脂肪塞栓により死亡したと認めるのが相当である」。被告は,「骨折から脂肪塞栓を発症することは事例的には稀有であり,本件でも[C]には[A]が脂肪塞栓によって死亡することまでの予見可能性はなかった旨主張しているが」,「脂肪塞栓は,骨折の合併症の一つとされており,骨折に他の特別な事情が関与して生じるものではなく,また,脂肪塞栓が生じた場合の死亡率も低いものではないから,脂肪塞栓により死亡することは,骨折の通常損害(国賠法四条,民法四一六条項)ということができる」。
4.過失相殺について
Cは,本件指導の前にAに「脱臼の可能性があるのでレントゲンをとるよう要請していたにもかかわらず」,X2は,「支障ないものと軽信し,病院に連れて行くことなく,[C]からの確認に対しては「大丈夫」「心配ない」などと回答していたことが認められる」。「公平の見地から,かかる原告[X2]の過失について,[A]側の過失として一割の過失相殺を行うのが相当である」。
坂田仰(月刊高校教育04年12月号参照) |
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担任による暴力行為の誘発−管理者の責任−
千葉地方裁判所平成16年4月28日判決・判例時報1860号92頁 |
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事件の概要
原告X1は,平成一一年度にY1が担任を務めるY4県Y3市立Z小学校四年一組に在籍していた。平成一一年九月中旬頃,X1が,休み時間中に廊下で同級生Aをからかったことから口論となり,授業開始のチャイムで二人は教室に戻ったものの,怒りが収まらないAが,X1の席まできてX1の頭を叩いた。そこへY1が戻ると,AがX1に向かって大声で泣きわめいていたため,Aを押さえつけ,他の児童に聞いたところ,「X1君が,X1君が。」というので,X1がいつものようにまたAにちょっかいを出したと思い,「またやったのか,こんなんじゃ勉強にならないじゃないかよ。どうすんだよ。」「何度言っても分かんないんだから。」「またちょっかい出したんだろう。だったらみんなの前でやってみろ。」などと言って,机がコの字型に並んでいたため空いていた教室の中央にX1を引っ張り出し,X1とAに対し,Aももう収まりがつかないし,先生が見ているからやり合え,などと述べた。
その際,Y1は,X1を後ろから抱きかかえ,X1を叩くようにAに命じると,Aは,あまり力を入れずにX1の腹部や背部を両手で数回殴り,足蹴りにした。次に、Y1は、X1を解放し、今度はX1の番であると述べ、自分の席に戻ろうとしたX1を連れ戻し,再度、Aをたたけ、と命じた。X1は、自分がたたけば終わると思い、Aの頭頂部を弱くたたいて自分の席に戻った。この時、Aは半泣きになったが,Y1は、二人が泣くまで続けるなどと言い、再びX1を連れ戻し、Aに対し、X1をたたけと命じたため、Aは泣きながらX1の腹部を殴った。そのため,X1は半泣きの状態となり、Aの髪をかんで引っ張ると、Aが大声で泣き出したので、Y1は、X1に対し、「それはルール違反だ。」と言ったところ,X1は、泣きながら教室を飛び出した。
また,X1は、授業中にY1の言ったことに疑問があると、Y1や隣に座っている児童に質問をしたり、自分の意見を述べたりすることが多く、Y1にうるさいと叱られていた。二学期に入ってからも、X1は,席替えで隣の席になったBに対し、授業中、繰り返し質問をするなどしていた。そこで,Bは、X1に対し、授業中は話しかけないで欲しいと頼んだが、それでもX1が話しかけるのをやめなかったため、Y1に、X1が邪魔をして困ると相談したところ,Y1は、授業中又は個人的に、X1に注意を与えたが、なかなか直らなかったため、Bが休み時間に相談しにきたときに、「そんなに邪魔だったら横っ面を一発くらいひっぱたいてやれ」などと言い、また、授業中、BがX1に邪魔をされて嫌がっているのを見かけた際、児童らの前で、「ほら、またそこでやっている。」、「やめろと言ったじゃん。」、「本当にもう言うこと聞かないんだったら、やめないんだったらひっぱたいてもいいからやれ。」などと言った。
平成一一年九月二八日,Y1は,三時間目の授業の前に、再びBから、X1がうるさいとの相談を受けたため、授業が始まってすぐに、X1がうるさければたたいていいぞなどと言った。そのため,Bは、その授業中、X1から質問を受け、一回目は何も答えないでいたが、その後何度も質問してきたため、X1に対し、ビンタをした。
平成一一年九月二九日の授業中、Bが突然、同級生Cに対し、「X1君がそっちに来たらたたいていいよ。」というと,Cが「分かった。」と答え、BとCは、着席したまま、交互にX1の顔面を数回たたいた。翌九月三〇日の授業中、BとCは,前日と同様に、X1の顔面を交互にたたいた。両日の事件とも,Y1は、気がつかなかった。
さらに,平成一一年九月三〇日の三時間目の授業中、Cは,X1に対し、突然、「後でたたいてあげるね。」と言い、三時間目の授業が終了した直後、教室から出ようとしたX1を見て、周囲の児童に対し、大きな声で「X1君をつかまえて。」と呼びかけた。付近にいたDとEは左右から、Cは後ろから,X1の腰のあたりをつかまえ、四年一組の教室の後ろのドアの前で押さえつけた。後からきたBは、ドアの前に立ち、Cらに押さえつけられたX1に対し、二〇回以上往復ビンタをした。周囲には、四年一組の児童が集まり、これを見ていたが、そのうちの一人が、Bらに対し、やめろよと言ったため、Bは、たたくのをやめ、X1は、教室から飛び出した。
Y1は、三時間目の終了後、印刷室にいたため、上記暴行を見ていなかったが,教室に戻ると、児童らが騒いでいたので、何があったのかを聞くと、児童が,BがX1をたたいた旨報告したため、X1を捜しに行った。そして,X1から事情を聞こうとしたが、暴行を加えた児童に聞いてほしいと言ったため、昼休みに、Bらから事情を聞き、上記暴行の経緯を知った。Y1は、帰りの会で、Bに謝らせたところ,謝ってくれたのでもういいですという趣旨の発言をX1がしたため、問題は解決したものと考え、校長Y2やX1の両親Y2,Y3には、本件事件を連絡しなかった。
平成一一年一〇月二日以降,X1は不登校となり,その後一〇月一七日に,学区外の小学校に転校した。
以上のような経緯に基づき,X1及びその両親X2、X3は、担任教諭Y1と校長Y2,及びZ小学校設置者であるY3市,給与負担者であるY4県に対し,それぞれ損害賠償及び遅延損害金を請求,さらに,Y3市教育委員会とY4県教育委員会が適切な事後措置を採らなかったことについても,Y3市とY4県に対し,それぞれ損害賠償及び遅延損害金を請求したのが本件訴訟である。
判決要旨
一被告[Y1]の不法行為責任について
「…被告[Y1]は、短時間とはいえ、児童らの前で原告[X1]を押さえつけ、同人及び[A]が泣くまでけんかをさせたものであるから、当該措置が、口頭で何度注意をしても[A]をからかうことをやめない原告[X1]に対し、これをやめさせようとして採られた措置であることを考慮しても、当該行為は、…安全配慮義務に違反する行為であり、不法行為が成立するといわざるを得ない。
また、被告[Y1]は、[B]が、授業中、原告[X1]にじゃまをされて困っていたことから、児童らの面前で、[B]に対し、原告[X1]がじゃまをしてきたら同人の顔をたたいてよい旨指導し、これに触発された[B]をして原告[X1]をたたかせ、また、児童らの面前で原告[X1]に対する暴力を容認する発言をすることにより、児童らをして原告[X1]に対し暴力を行うことが許されるものと誤信させ、ビンタ事件及び集団暴行事件を誘発したものであるから、当該措置が、原告[X1]が授業中に他の児童にちょっかいを出すのをやめさせようとして採られた措置であることを考慮しても、当該行為は、安全配慮義務に違反する行為であり、不法行為が成立するというべきである。」
二被告[Y2]の不法行為責任について
「小学校の校長は、学校の代表者として、生徒間の暴力や教員による体罰が行われないように教員を指導監督すべき義務があるところ、…被告[Y2]は、日常的に校内を巡回して授業を参観し、学級の様子や教員の指導の実態を把握する努力をしていたこと、教員に対し、指導方法だけでなく、日常生活での行いについても指導を行い、殊に児童に対し暴力を振るうことのないよう指導を行っていたこと、被告[Y1]につき、保護者等から苦情を言われたこともなく、被告[Y1]が児童に暴力を容認するような発言をしていたことを知り得る機会は殆どなかったことなどの事実が認められるのであって、これらの事実に照らすと、被告[Y2]に指導監督義務違反があったとまでは認められない。」
「小学校の校長は、学校の代表者として、いじめ、暴力、犯罪、事故等校内における事件や事故を未然に防止すべき義務があるのみならず、これらの事故が一度発生した場合には、事実関係を調査した上、必要に応じ、児童の保護者らに対し、その調査結果を報告するなどの措置を採る義務があるというべきである。
…以上によれば、被告[Y2]が、本件事件に関し採った事後措置について、不法行為は成立しない。」
三被告[Y3]市の責任について
「…被告[Y3]市は、国家賠償法一条一項に基づき、被告[Y1]の行為によって原告らが被った損害を賠償すべき責任がある。」
「被告[Y3]市は、その設置する小学校に在学する児童との間に、公法上の在学契約関係が存在し、在学する児童に対し、学校の施設内において所定の教育を施す義務を負うから、このような特別の法律関係に入った当事者として、当該法律関係の付随義務として、信義則上、学校教育及びそれに関連する生活活動において事故が発生した場合には、被害児童の生命身体の安全を確保し、当該事故の事実関係を調査した上、校長、担任教諭に対する適切な指導、処分等の措置を採る義務があるというべきである。」
…市教委は、原告[X1]が安心して再び学校教育を受けられるよう、同人の転校を速やかに実現するとともに、被告[Y2]に事実関係の調査を行わせ、市教委の職員も自ら本件事件の原因、経緯について調査し、調査結果に基づき被告[Y2]らに対し口頭訓告を行い、被告[Y2]ら県費負担職員に対する処分権限を有する県教委の指示を伝達し、その回答を上程して情報提供を行い、市内の小中学校に通知を行って、事件の再発防止に努めていたことからすると、市教委に調査報告義務違反があるとは認められない。」
四被告[Y4]県の責任について
「…被告[Y4]県は、国家賠償法三条一項に基づき、被告[Y1]の行為によって原告らが被った損害を賠償すべき責任があるものと認められる。」
「…県教委は、市町村の県費負担教職員を免職する権限を有し(地方教育行政の組織及び運営に関する法律四七条の二)、市町村の教育に関する事務の適正な処理を図るため、必要な指導、助言等ができるとされているのであるから、学校内で起きた事故等により児童の権利侵害が行われた場合には、当該事故について適正な事後措置が採られるよう、必要な指導、助言を行い、事故を起こした教職員に対し、相応の処分を行い、再発防止に努めることが求められるが、かかる措置については、教育行政にかかわる専門的な判断を要するから、どのような措置を採るかについては、県教委の広い裁量が認められるべきであり、県教委がかかる措置を怠ることが、社会通念上著しく妥当性を欠き、与えられた裁量権を濫用するものである場合に限り、当該措置につき、不法行為が成立するというべきである。」
「…県教委は、その組織の性質上、本件事件について直接調査を実施しなかったものの、市教委を通じて、被告[Y2]らに対し本件事件の実態を把握するように指示を出し、その報告を受けていたことからすると、県教委の採った措置が、社会通念上著しく妥当性を欠き、与えられた裁量権を濫用したものであるとまでは認められない。」
五被告[Y1]の公務員個人としての不法行為責任について
「…国又は公共団体の公務員がその職務を行うについて、故意又は過失により違法に他人に損害を加えた場合には、国又は公共団体が、その被害者に対して損害賠償の責任を負い(国家賠償法一条一項)、当該公務員個人は、直接被害者に対して損害賠償責任を負うことはなく、当該公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は当該公務員に対して求償権を有する(同条二項)ので、国又は公共団体からの当該公務員に対する求償権の行使という方法でのみ当該公務員に責任を負担させることができると解するのが相当である。」
六原告[X1]の損害について
「…本件事件の内容、性質、程度のほか、原告[X3]の学校に対する抗議等により、本件事故が学校全体の問題として大きく取り上げられたこと、原告[X1]がマスコミの取材等を受けたこと、原告[X1]が従前から友人とコミュニケーションを取ることに問題をかかえていたこと、戊田小に転校した後もいじめを受けるなど本件事件以外にも原告[X1]が精神的負担を感じざるを得ない事情があったことなどを考慮すると、本件事件によって原告[X1]の被った身体的、精神的苦痛に対する慰謝料の額は、一〇〇万円が相当と認められる。
田中洋(月刊高校教育05年02月号参照) |
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人事配置に関する裁量権の限界 −精神疾患を理由とする配置転換不当の申立−
鳥取地方裁判所平成16年3月30日判決・平成15年(行ウ)第1号,平成15年(ワ)第23号 |
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事案の概要
原告であるXは,大学卒業後,数年間の講師経験を経て,平成一二年四月一日,Y1県教育委員会によりY2市公立学校教員に任用されるとともに,Y2市立A中学校の教諭に補せられ,現在まで同校教諭を務めている。英語を担当しつつ一年生の担任として勤務していた平成一二年五月頃より,Xは,不安,孤独感,食欲不振,喘息様の咳,尿蛋白陽性等の症状が発現しはじめた。同年九月以降は,朝起きあがれない等の症状も出始めた。同年一一月一三日,うつ状態の症状を認め,二週間の自宅療養を要する旨の診断書が提出され,Xは,同日から同月二六日まで病気休暇を取った。一一月二〇日には,更に一か月間の休養が必要である旨の診断書が作成されるとともに,学校長Bは,診断書作成医師より,Xがしばらく休養する必要があるなどの説明を受けている。
Xは,平成一二年一一月二四日からC病院に入院,加療することになり,入院は,職場復帰に備えて退院する平成一三年一月二四日まで続くことになる。二月一九日,C病院の医師は,Xの病状について,四月より復職は可能であるが,過度のストレスがかかると,うつ状態が再燃することが考えられる。授業は別として,生徒や親などとかかわることを避けるといった軽減措置が望ましい旨の診断を下した。
平成一三年三月二〇日,Xの健康はおおむね回復し,健常者としての復職が可能となった。しかし,Xが担任就任要請を断ったため,Bは,同年度は補助担任とし,校務分掌の面においても,比較的負担の少ないものを担当させることとした。平成一三年度,Xは,合計二一時間の授業を担当する他,部活動の指導,休職中に生じた差別事件への対応,同和教育学習等を夜遅くまで行い,早朝出勤し教材研究を行う等,仕事量は少なくない状態にあった。Xの病状は,起伏があったものの,平成一四年二月段階で,現状のペースであれば就労可能であるとの診断が下されている。
B校長は,Xの職務状況とA中学校の学校運営を考慮し,Y1県が設置する児童自立支援施設内にある分教室への配置転換を考えるようになった。分教室では,校務分掌や部活動がなく授業を中心に職務を遂行すればよく,また,生徒数が少なく休暇を取った場合の事後処理も容易であると判断した。そこで,Y2市教育委員会及びY1県教育委員会に対し,Xの分教室への配置転換を提案したところ,Y1県教育委員会より,それも一つの方法であるとの回答を得た。Bは,平成一四年度の人事内示を受けて,校長としての服務監督権及び学校運営上の管理監督権により,Xを分教室に配置することにした。この時,配置転換について医師の見解を聞くことはしていない。
Xは,不安を感じてBに不満を述べたが,配置転換が変わることはないと感じ,平成一四年四月一日から分教室で教員として勤務することにした。Xは,配転当初,教職員との人間関係,本校とは異なる生徒との関係,また,教材研究に時間を取られたことなどにより,精神的負担を受けて,病状は一時悪化した。しかし,軽減措置が取られたことなどにより,うつ状態は軽快し,また,Xを頼りにする生徒がいたことなどから,分教室での勤務に対する意欲を高めていった。そして,担当医師もこの時点においては「今の条件で就労可能」という判断を下していた。だが,六月末ころから病状は再び少しずつ悪化し,一〇月九日から平成一五年一月六日まで病休,以降,二月二八日まで休職し,三月一日,本校に復職しすることになる。
Xは,本件配置転換当時,精神疾患,精神障害が完治しておらず,当時の勤務状況を続けるべきであったにもかかわらず,Bより配置転換命令を受け,その結果,精神的,肉体的苦痛を被ったとする。その上で,被告Y2市に対しては国家賠償法一条一項に基づき,被告Y1県に対しては同法三条一項に基づき,慰謝料二〇〇万円のうちそれぞれ一〇〇万円,弁護士費用一〇万円及び遅延利息の支払いを求めて提訴した。
判決要旨
Xは,「本件配転は,校長としての裁量権を著しく逸脱した,故意または少なくとも重過失による不法行為であると主張する」。この点,Bが,「本件配転によって原告の病状が悪化することまでを知りながら,原告を排斥するために本件配転を行ったと認めることはできないが」,「本件配転は,その決定に至る過程において,当時の原告の病状や治療の必要性,原告本人の治療についての意向を十分に確認することなく,これらに対する配慮を欠いたままなされ,その結果,一時的に原告の病状を悪化させるなどしたもので,違法といわざるを得ない」。
「分教室における勤務と本校における勤務との軽重については,個々人によってその受け取り方には大きな違いが見られる。その原因については,分教室の勤務に対する取り組み方の違いによるとも,分教室の勤務を得意とするか否かという性格的なものとも考えられ・・・,これを一義的に説明することは困難である」。「このことは,分教室と本校での勤務内容の違いが大きいため,単純な比較が困難であることを示すものといえる」。しかし,「少なくとも,原告にとっては,被告[Y2]市が主張するように,本件配転が勤務の軽減となったということはできないし,[B]としては,これを認識すべきであった」。
本件配転は,「一般的な中学校から,「不良行為をなし,又はなすおそれのある児童等が入所するなどしている」児童自立支援施設内の分教室へと,原告を配置転換し,従前の人間関係を含めた原告の勤務環境を大幅に変更するものである」。そして,「分教室での勤務の負担感については個人差があるものの,平成一二年度以降継続してうつ状態により治療を受けてきたという原告の心身の状況や,本件配転前の医師の診断において,しばらくは現在の勤務状態で続けたほうがよいなどとされており,[B]もこれらの事実を認識していたものであることにかんがみれば,このような大幅な環境の変更は,原告に精神的負担を与え,うつ状態の悪化を招来する危険性のあるものというべきであり,そのことは,容易に予測できたというべきである」。それにもかかわらず,Bは,「本件配転に際して何ら医師の見解を聞くなどしないまま,本件配転を命じたものであり,本件配転は,原告の病状に対して十分な配慮を欠いたままなされたものであるといわざるを得ない」。
以上によると,Bは,「原告の勤務の軽減を意図して本件配転を命じた可能性があるとはいえ」,「その意図どおりの軽減がなされたと認めることはできず,かえって,過重となった可能性を否定できない。また,本件配転を命じるにあたり,本人の意思を十分に確認しないまま,専門家の意見を改めて聴取することもなく,本件配転を命じたものであり,その結果,原告の病状の悪化を招いたものである。それゆえ,本件配転は,原告に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであったというべきであり,少なくとも,[B]には,そのことについて過失があったというべきである」。以上を総合すれば,本件配転は,「服務監督権及び学校運営上の管理監督権の裁量を逸脱したものといわざるを得ず,かつ,本件配転による原告の病状悪化等について[B]には過失が認められるというべきであるから,本件配転は[B]による不法行為であると認められる」。
以上の次第で,原告の請求については,「被告らに対し,各自三三万円及びこれに対する平成一四年一〇月九日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからいずれもこれを棄却することとし,・・・主文のとおり判決する」。
坂田仰(月刊高校教育04年10月号参照) |
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禁煙教育と校内全面禁煙
−学校敷地内における全面禁煙作為義務の有無−
名古屋地方裁判所平成16年2月26日判決・平成15年(ワ)第3073号 |
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事件の概要
原告Xは、昭和四九年四月一日、Y市教育委員会よりY市公立学校教諭に任命された。平成一二年四月からY市立A中学校(以下「A中学校」という。)において保健体育担当教諭として勤務している。
Xが赴任した平成一二年四月当時、A中学校では、喫煙場所を特定場所にのみ限定する完全分煙を実施していた。しかしXは、喫煙場所である応接室前の個室における喫煙が、生徒の目につくとの指摘を行った。この指摘を受け、平成一四年七月ころから、A中学校では、より生徒の目に触れにくい同校敷地内にある地域スポーツセンターの一室を喫煙のために使用する措置が採られることになった。
かねてから学校敷地内における全面禁煙を求めていたXは、平成一四年八月、第一九回全国禁煙教育研修会に参加した。研修会では、県下の小学校、中学校、高等学校及び養護学校について敷地内全面禁煙とした和歌山県教育長の講演が行われた。講演を聴いたXは、同年九月一九日、A中学校の県外出張報告会で、和歌山県における学校敷地内全面禁煙の実現経過について報告を行っている。Xは、同年一〇月以降も、職員会議等、職員が集まった機会を利用し、「学校敷地内禁煙に向けて」と題する資料を提示してA中学校の敷地内全面禁煙化を求めて意見を述べた。
平成一五年四月二四日、A中学校のPTA総会が開催された。Xは、総会において、前年九月より職員会議で学校敷地内全面禁煙を求めていることについての発言を行った。また、少し古い統計でも、日本では煙草による肺ガンによって毎日五〇人が死亡していることから、PTAでも学校敷地内全面禁煙について考えてほしいと発言している。
同年六月三〇日に開かれた職員会議において、Xは、七月の終業式までに学校敷地内全面禁煙とならなければ訴訟を提起する予定であると述べた。これに対し校長Bは、夏休み明けの九月から勤務時間内における喫煙を禁止する旨の提案を行うにとどまり、Xの主張する校地内全面禁煙は実現しなかった。
平成一五年七月二六日、Xは、学校敷地内を全面禁煙としないことは校長Bの違法な不作為であり、この不作為により、Xの禁煙教育は妨げられ、教育権が侵害されて精神的苦痛を被ったと主張して提訴した。尚Xは、国家賠償法一条一項に基づき、学校設置者である被告Y市に対して、慰謝料として三万九〇〇円及び本件訴訟提起の翌日である平成一五年七月二六日からA中学校が学校敷地内全面禁煙となるまでの間、一日当たり一〇〇円の支払を求めている。
判決要旨
「原告の請求をいずれも棄却する。」
「原告の主張は、校長が学校敷地内を全面禁煙にしないことは不作為による違法であるというものである。」しかし、教育基本法は「憲法において教育のあり方の基本を定めることに代えて、わが国の教育及び教育制度全体を通じる基本理念と基本原理を宣明することを目的として制定されたものであり、・・・公立中学校教諭である原告を含め、特定の国民との関係で、公務員に対して何らかの規制権限を行使すべき作為義務を定めたものではない。」
Xが引用する教育基本法一条、二条、六条二項は、「いずれも、公立中学校の校長に学校敷地内を全面禁煙とすべき作為義務を認めたものとはいえず、学校敷地内を全面禁煙としない校長の不作為が違法であるとする原告の主張は理由がない。」
教育基本法「7条の趣旨は、学校教育とともに、学校以外の領域で広く多様な教育・文化活動が進展することが日本社会の民主的かつ文化的発展のうえで、重要な意義をもつことをふまえて、その役割をになう社会教育の発展を保障しようとするところにあり、・・・その文言上も、公立中学校長や教職員に対し、学校施設や社会教育の施設の利用に関し、具体的な義務を負わせたものでないことは明らかである。したがって、喫煙のために地域スポーツセンターの更衣室を利用することが目的外使用として違法であるとの原告の主張も理由がない。」
「原告は、A中学校において、学校敷地内全面禁煙の決定がされず、学校敷地内で喫煙をする教職員がいるため、原告が学校敷地内全面禁煙を要求していることを生徒に語れず、原告の禁煙教育が妨害されていると主張する。」
「しかしながら、原告は、原告の要求を生徒に語れない理由として、喫煙者である校長その他の教職員の人格を傷つけることになるためと主張するのみであって、他の教職員が、原告に対し、原告が学校敷地内全面禁煙を要求していることを生徒に語ることを具体的に妨害したとの事実は何ら主張していない。」
「原告の主張によっても、原告が生徒に対して学校敷地内全面禁煙を要求していることを語れないのは、喫煙をする教職員の人格を傷つけかねないと配慮した結果であると解され、原告が生徒に対し、学校敷地内全面禁煙を求めていることを他の教職員が具体的に妨害している事実は認められず、教育権の侵害をいう原告の主張も理由がないというべきである。」
山口瞳(月刊高校教育05年05月号参照) |
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体罰の賠償責任−賠償責任の範囲−
札幌地方裁判所平成15年8月21日判決・平成14年(ワ)第1357号 |
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事件の概要
原告X1は、平成一四年四月に被告Yが設置するA高等学校に入学し、同年一〇月一〇日付けで転校するまで、一年五組の生徒として在籍していた。なお、原告X2、X3は、原告X1の両親である。
X1は、同年六月二七日、遅刻し、二時間目が終了する頃に登校した。そして、ちょうど同じ頃に登校した、同じクラスの女子生徒であるBといっしょに、X1は、まず職員室に行って遅刻届を提出し、その後、校舎四階にある教室へと向かった。
X1は、教室にカバンを置いてから、三時間目に体育館で学年集会が行われるため、Bと共に、体育館に向けて教室を出た。X1とBは、その前に用を足すため、同日午前一〇時五五分頃、トイレに向かった。
その時、A高等学校の音楽科教諭であるCは、校舎四階の男子トイレから音楽準備室に戻るところであったが、X1が、Bと一緒に並んで、トイレの方へ向かって廊下を歩いて来るのを認めた。そこで、Cは、X1及びBに対して、「どうした」と声をかけたが、二人は、それに対して何ら答えることなく、そのままCの前を通り過ぎた。
Bは、その時すでに休み時間は終了しており、X1とBは、学年集会に遅れていることが明らかであると思ったため、その点について指導を行う必要を感じ、声をかけたものの、
二人は、それを無視してCの前を通り過ぎようとした。そのため、この態度についても指導を要するものと考え、Cは、二人の方へ一歩踏み出したが、X1らは、Cの直前を通りかかりながらもなお呼びかけを無視し、X1の表情も素直さが窺われない険しいものであった。そのため、Cは、思わず右手を自分の頭ほどの高さまで垂直に振り上げた後、自分のあごくらいの高さに位置していたX1の頭頂部を軽く一打ちしながら、「声をかけられたら返事をしなさい」と指導した。
X1は、七月二日になってD整形外科に行き、頸椎捻挫の傷害で約七日間の通院を要するという診断を受けた。その後、七月四日、同月六日及び八月四日に同整形外科で治療、さらに、八月一〇日にE病院、八月二四日、同月二八日、九月二五日及び一一月八日にF病院で、それぞれ治療を受けた。この間、頸椎捻挫の対応治療として、Gクリニックで一二日間、治療を受けている。
さらに、X1は、Cの行為によって精神的衝撃を受けたことが大きな負担となり、A高等学校に通学できずに悩むなど精神に異常をきたしたとして、八月二四日にF病院で受診した。その結果、不安状態により、約一ヶ月間の通院治療を要するとの診断を受け、その後治療も受けた。
X1の両親であるX2及びX3は、Cが勤務する高校へX1を通学させることは困難であり、他の高校へX1を転校させざるを得ないと考え、また、この間、X1が精神的に立ち直るために細心の注意を払った。
以上のような経緯に基づき、X1及びその両親X2、X3が、慰謝料、治療費、転校費用、弁護士費用等の損害賠償を、国家賠償法一条一項に基づいて、A高等学校を設置するYに対して請求したのが本件訴訟である。
判決要旨
「被告[Y]は、原告[X1]に対し、二〇万円及びこれに対する平成一四年八月二七日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を、原告[X2]に対し五万円を、それぞれ支払え。」
「原告[X1]及び原告[X2]のその余の請求並びに原告[X3]の請求をいずれも棄却する。」
「被告[Y]は、[C]が本件行為に及んだのは、原告[X1]に対する生活指導の目的によると主張する。[C]も、自身が原告[X1]及び[B]の二人に対して『どうした』と声をかけられたにもかかわらず、原告[X1]らがこれに返答することなく、[C]の前を通り過ぎようとしたことから、教諭として指導の必要を感じ、思わず原告[X1]の頭部を叩いた旨証言する。
ところで、学校内で、教諭から声をかけられながらこれを無視するという行動は、生徒の態度として問題があるというべきであり、教諭としては、たとえ自らがクラス担任として指導する生徒ではないとしても、そのような生徒に対して指導の必要を認めるのは何ら不合理なことではない。」
「学校教育法一一条は、教員に対し、教育上の必要に応じて、生徒に対し懲戒をすることを認める一方で、体罰についてはこれを禁止しているところ、本件行為は、・・・原告[X1]の後頭部に腫れを生じさせるほどの生徒の身体に対する有形力の行使であるから、体罰に該当することは明らかである。本件行為が、・・・[C]の言葉に返答しなかった原告[X1]に対する指導の目的で行われたことを考慮しても、その指導方法としては、例えば、肩に手をかけたり、進路を塞いだりして原告[X1]らを停止させるなど、他に適切な方法は考えられ、現に可能だったのであって、本件行為をいきなり行わなければならないような状況にあったとはいえず、本件行為に及ぶ合理的な理由は何ら認められない。したがって、[C]の本件行為は、懲戒として許容される範囲を超えた体罰と言わざるを得ず、不法行為との評価を免れない。」
本件行為による原告[X1]の負傷の程度について、X1は、「本件行為から病院受診までの間に、二泊三日の宿泊研修にも参加しており、その間も、本件行為による異常を訴えたり、負傷部位の痛みに対処する措置を受けているわけでもない」など、「本件行為当日である六月二七日から七月一日までの原告[X1]の行動に照らす限り、本件行為による負傷の程度は、病院への受診を必要とするものであったとは認め難い。」
「・・・本件行為は、本校教諭である[C]による違法な体罰であり、それ自体、原告[X1]に相応の精神的苦痛をもたらしたと認めざるを得ない。」その傷害の程度、[X1]に対する指導という本件行為の目的など「一切の事情を斟酌すると、原告[X1]の被った精神的苦痛を慰謝するに足りる金額としては、二〇万円が相当である。」
「・・・不法行為により身体を害された者の両親が、自己の固有の権利として慰謝料を請求することができるのは、被害者が生命を害された場合にも比肩すべき精神上の苦痛を受けたときに限られるところ、原告[X1]の受けた被害が生命侵害と比肩すべきものとは認め難い。」さらに、X2,X3の請求の根拠は、X1を「別の高校へ転校させるなど、その精神的な立ち直りのため大きな心痛を被ったという点にあると解されるところ、・・・本件行為以前から原告[X1]は精神的ストレスによって心身に苦しみを感じていたのであり、原告[X1]の転校や精神的立ち直りのために原告[X2]及び同[X3]が心痛を受けたとしても、それと本件行為との間に相当因果関係を認めることは困難である。」また、X2は、「転校に要した費用を本件行為による損害として請求するが、・・・原告[X1]が転校を余儀なくされたことと本件行為との間には相当因果関係を認め難い」。
田中洋(月刊高校教育04年11月号参照) |
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課外クラブ活動顧問教員の指導と学校の安全配慮義務
−ラグビー部練習中に発症した熱中症による死亡事件をめぐって−
神戸地方裁判所平成15年6月30日判決・平成13年(ワ)第2175号 |
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事件の概要
Aは、平成一一年四月、Y1市立B中学校に入学、本件事故当時中学一年生であった。身長が一五五センチメートル、体重が六五キログラムとやや肥満体質だった。Aは、同年七月二七日、ラグビー部顧問教員Y2の指導監督の下、同校グラウンドにおいて行われた夏季早朝練習に参加した。練習は、既に三日間行われていたが、旅行等の予定が入っていたAは、この日が夏季早朝練習の初日であった。
午前六時四〇分頃から練習が開始し、ランニングパス、キックダッシュ、軽いジョギングと続いた。その後、Y2が、グラウンド中央で部員に対して体操隊形の指示を出したが、Aはできずにその場で座りこんだ。
午前七時過ぎ、休憩を兼ねた体操を行った後、三人組のヘッドダッシュタイムトライアルが行われ、Aは、頭上に飛んできたボールを捕らえようとして「アー」という声を出し後ろに尻餅をついた。Y2は、その後三本のキックダッシュを指示した。Aは、一本目の最後五メートルのラストスパートができなかった。二本目のゴール後には仰向けに倒れ、Y2は、見学者にAを次の練習位置まで運ばせた。この時、Y2が仰向けに寝ているAを起こそうとしても、手を離すと倒れてしまう状態だった。Y2は、Aを見学者にもたれかけて座らせて、他の部員の指導を続けた。その頃Aは、「アーアー」という声を発するに至っている。
午前八時頃、Y2は、休憩の指示を出しAのそばに行った。Aの頬を叩くと首を動かしてY2の方を見るものの、すぐに焦点の合わない状態に陥った。Y2は、自力歩行ができないAを水場まで運ばせた。
午前八時一〇分頃、Y2は、見学者にAを見させて他の部員の指導に向かう。午前八時四〇分頃、Y2が再度Aの様子を見に行くと、Aは、上半身裸で水場に仰向けに寝かされ、目を閉じたまま呼吸は「アーアー」というだけだった。Y2は、Aの背中を起こし、膝を背筋にあて両肩に手をかけて二回力を入れ伸ばしたものの効果がなく、再度見学者にAの様子を見させた。午前八時四〇分過ぎ、Y2は、Aを保健室に連れて行くよう指示した。
午前九時一分、Y2の報告を受けた他の教員の指示で、校務員が一一九番通報をする。午前九時一九分、Aは、市内の病院に到着したが、午前一〇時八分に大阪府千里救命救急センターに搬送され、二七分に到着した。Aは、翌日の午後六時四一分、同センターにおいて、熱射病による多臓器不全により死亡した。
本件訴訟は、Aの両親であるX1及びX2が、Aの死はY2の安全配慮義務違反によるものであるとして、Y2及びB中学校の設置者であるY1市を相手に、原告らそれぞれに対して連帯して約五九三五万円の損害賠償を求めたものである。
判決要旨
一部認容、一部棄却。
「[Y1]市は、原告らそれぞれに対し、金二〇三〇万七七〇九円・・・を支払え。」
「公立中学校における課外クラブ活動は学校教育の一環として行われる以上、学校設置者は生徒の生命、身体の安全を図る義務があり、また、その担当教諭も、学校設置管理者の履行補助者として、部の活動全体を掌握して指導監督にあたる者であるから、練習中、部員の生命、身体に危険が及ばないように配慮し、部員に何らかの異常を発見した場合には、その容態を確認し、応急処置を採り、必要に応じて医療機関に搬送すべき注意義務が認められる」。
「本件事故当時、既に学校管理下における熱中症・・・による多数の死亡事故が報告、報道されるとともに・・・、その予防策や発生時の対処の方法についても、少なからざる文献が公刊されていたこと・・・に照らすと、熱中症の危険性とその予防対策の重要性は、特に体育教育関係者にとっては当然身につけておくべき必須の知識であったと認められること」、「[Y2]は、ラグビー部の顧問教諭である以上、体育教育関係者と認められること」、「ラグビーはスポーツの中でもかなり厳しい競技であること等を総合すると、[Y2]としては、部員が暑さと激しい運動によって熱中症を発症することのないように、練習中に適宜休憩を取らせ、十分に水分補給をさせるとともに、部員に熱中症を疑わせる症状がみられた場合には、直ちに練習を中止し、涼しい場所で安静にさせ、冷却その他体温を下げるなどの応急処置を採り、必要に応じて速やかに医療機関に搬送すべき注意義務(安全配慮義務)があったと認められる」。
「熱射病は死の危険のある緊急事態であって、体を冷却しながら一刻も早く集中治療の可能な病院へ搬送する必要があり、いかに早く体温を下げて意識を回復させるかが予後を左右するので現場での応急処置が重要であること、死亡診断書・・・において、熱射病の発症時は死亡の約三四時間前・・・とされていること」、救命救急センター医師の回答によれば、「[A]が明らかに異常な兆候を示すようになった午前七時三〇分ころに、被告[Y2]が適切な救護措置を採っておれば、[A]の死亡を回避し得た蓋然性は高い」ことが認められる。
Y2が、Aの状態を目にしていたことからすると、「遅くとも午前七時三〇分ころには、被告[Y2]において、[A]が熱中症を発症しているおそれを十分に予見ないし認識できたはずであったと認められる」。Y2の一連の行動は、「たとえ[A]が練習に怠けていると思いこんでしまったことによる誤解の面があったとしても、あまりにも無思慮かつ軽率であって、安全配慮義務違反の過失が認められることは明らかである」。したがって「被告[Y2]の過失行為と[A]の死亡との相当因果関係が認められる」。
黒川雅子(月刊高校教育05年07月号参照) |
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余裕教室に対する目的外使用の性格
―目的外使用許可申請に対する手続―
大阪地方裁判所平成15年5月8日判決・判例タイムズ1143号270頁 |
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事件の概要
Xは、かねてから保護者が昼間家庭にいない小学校に就学している児童に対し、授業の終了後に適切な遊び及び生活の場を与えて、その健全な育成を図るとする、いわゆる放課後児童健全育成事業を実施している団体である。平成一〇年に施行された改正児童福祉法上の第二種社会福祉事業に位置付けられ、Y市からは留守家庭児童対策事業を実施する者として助成金の交付を受けている。Xは、団体設立以降、保護者の自宅などにおいて事業を実施してきたが、より適切な場所を確保したいとして、平成一一年一〇月、Y市長に対して、Y市立A小学校にある余裕教室を使用したいとして、市有財産借受申請書を提出した。Xは本件申請より以前にも、数回にわたりY市長に対して使用を認めるよう要請をしていたが、「学校は公的団体でないと貸せない」「余裕教室はない」などとしてこの要請は拒絶され続け、本件申請に対してもY市長は申請書の受領を拒絶したり、Y市担当者がX代表者宅に訪れ申請書を返戻したりした(なお、平成一二年四月から、Y市教育委員会はXが使用を希望した余裕教室を用いて関連財団法人による「児童いきいき放課後事業」を開始しており、Y市教育委員会はこの事業を優先させる方針を採っていたためXからの要請を拒否し続けていた様子である。)。
Xは、本件申請を受理し、応答する義務がY市長にあるところ、この義務に違反して受領拒絶・返戻を行ったY市長の行為は違法であるなどとして、Xが受けたとする名声、信用及び客観的評価の毀損について、Y市に対して損害賠償を請求したのが本事件である。
判決要旨
請求棄却。
1 受理、応答する義務の存在について
〔Y市長に〕「本件各申入れを受理し応答する義務が認められるか否かは、〔Xに〕実体法上の権利ないし法的利益としての申請権が認められるか否かによる。」
「地方自治法上、行政財産の目的外使用の許可に関し、申請及び申請に対する諾否についても明文規定が存在するわけではなく」、〔Y市の〕「条例又は規則が存在するわけでもない。」「しかし、そもそも、行政財産の目的外使用を希望する者〔中略〕からの申請行為がないにもかかわらず、行政財産の目的外使用の許可が一方的になされること自体あり得ないことからすると、地方自治法は使用希望者により申請がなされることを当然に予定していると解される。」「〔X〕には、本件教室の目的外使用許可処分を求める申請権が実体法上の権利ないし法的利益として認められると解するのが相当であり、〔Y市長〕には、本件各申入れを受理し応答する義務があったものというべきである。」
2 不受理・返戻の違法性について
「行政財産の目的外使用の申請について、不受理ないし返戻等の手段によって、その受理を拒否することは、申請を受理し応答する義務に違反し、使用希望者の申請権を侵害する行為であって、原則として許されないものというべきであ」り、「〔Y市長〕が本件各申入れを返戻したり受理しなかった行為は、本件各申入れを受理し応答する義務に違反し、原告の申請権を侵害するものであり、違法というべきである」
3 損害について
「〔Y市長〕が本件各申入れを受理しない限り、原告が地方自治法二三八条の七の不服申立て等をすることは不可能であるところ、〔Y市長〕が本件各申入れを返戻したり受理しなかったことによって、〔X〕が不服申立て等をして判断を受ける機会が失われており、これが事実上の不利益に当たることは否定できない。」「しかし、このような事実上の不利益が、〔X〕の名声、信用及び客観的評価の毀損に直ちに結びつくものではないこともまた明らかである。」「〔X〕の名声、信用及び客観的評価が毀損された事実は認められない。」「以上の次第で、〔X〕の本訴請求は理由がない」。
山口亨(月刊高校教育05年10号参照)
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いじめによる損害賠償請求
−社会病理としてのいじめ−
神戸地方裁判所平成15年2月10日判決・平成12(ワ)第1628号 |
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事件の概要
Xは、平成11年4月よりY1市立A中学校に入学し、平成14年3月に同校を卒業した。XとY2及びY5は、同じ小学校に在籍しており、同じクラスになったこともあった。Xは、小学校6年の3学期ころから、下校時にY2の鞄持ちをさせられていた。また、小学校で遊んでいた際にも、Y2から因縁をつけられて、3千円を脅し取られていた。
平成11年6月7日頃、中学1年生のY2及び訴外Gは、中学校内で賭けトランプにXを誘い入れ、いかさまを使って負かした上、賭け金として4千円を支払うよう因縁をつけた。翌日、B教諭は、Xの母Eから、賭けトランプ事件について報告を受け、C教諭らとともに、X、Y2及び訴外Gに指導をした。B教諭らは、E及びY2の親Y4に対しても事件の内容及びその指導について説明した。ただし、賭け金に関しては、学校が金銭問題に介入すると問題解決が困難になり、保護者と学校の関係が悪化しかねないと判断し、その処理は、保護者であるE及びY4に委ねた。
しかし、7月30日頃、XとY2らが通っていた塾の階段で、XはY2から「トランプの金を返せ。」と脅され、腹部を殴られるなどした。Xからこれを聞いたEは、Y4に対し、Y2が要求する金員を支払うつもりはないこと、学校に報告すること等を電話で連絡した。B教諭等は、X及びY2らから事情を聞き、厳しく指導し、Y2にXに対し謝罪させた。更に、Y2方を家庭訪問して、Y4に事実を告げ家庭内での指導及びXに対する謝罪をアドバイスした。
2学期に入るとY2及びY5は、Xをトイレに呼び出し、暴行を繰り返すようになる。その暴行の程度もひどく回数も多くなり、ふざけの延長とはいえないものとなった。しかし、他の生徒に見張り役をさせ、教諭らが巡回してきた時には暴行をやめていたため、発覚はしなかった。
12月5日頃、公園において、友達と遊んでいたXに対し、Y2は自転車のサドルを外したパイプで腹部を殴った。自宅に逃げ帰ったXから経過を聞き出したEは、Y2の自宅へ行き、この件についてとXとは関わらないで欲しい旨を伝えた。3学期になると、暴行の回数は減ったものの、校内外でXに対する暴行は続いた。平成12年3月16日ころ、Y2及びY5は、Xに対し、コンビニエンスストアにおいて、煙草1カートンを万引きするよう強要した。
平成12年3月18日には、Y2及びY5が2時間目の休憩時間内にXの教室に乱入し、クラス生徒の前で、Xに暴行を加えた。この事件が発覚後、Y2及びY5の保護者を交えて学校は指導を行い、3月28日には教頭以下6名の教諭の立ち会いのもと、E及びFと、Y2、Y5、Y4、Y6との話し合いの機会がもたれた。これ以降Xは、Y2及びY5から暴行等を受けることも声をかけられることもなくなった。
Xは、Y2及びY5から、中学校内外で長期間にわたる暴行等のいじめを受けたとして、被告両名及びその親であるY2、Y4、Y6に対しては不法行為に基づき、中学校の設置管理者であるY1に対してはいじめを放置した教諭らに過失があるとして国家賠償法に基づき損害賠償を請求した。またY2及びY5に対しては、人格権に基づき暴行の差止めも求めた。
判決要旨
一部認容、一部棄却
「〔Y2〕及び〔Y5〕が共謀して、本件中学校の内外で〔X〕に対し暴行等のいじめ行為を継続的に行ってきたことが明らかである」。Y2及びY5が不法行為者として、「〔X〕が被った損害を賠償すべき責任のあることは、当事者間に争いがな」い。「また、その保護者である被告ら親についても、その指導・監督を怠った過失により、〔Y2〕及び〔Y5〕とともに」、Xが被った損害を賠償する責任がある。
いじめは、「長期間にわたって執拗に繰り返されたものであり、これによって、〔X〕は、自殺をしたいと考えるほどの苦痛を受けていたこと、〔Y2〕及び〔Y5〕から暴行等を受けるおそれがなくなった現在においてもなお、原告は〔Y2〕及び〔Y5〕に対して「死んでほしい。」との感情を抱いており、その受けた精神的苦痛の大きさが窺われる」。その他総合すると「その慰謝料額は100万円と認めるのが相当である」とした。
「公立中学校の教員には学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における生徒の安全の確保に配慮すべき義務があり、特に、他の生徒の行為により生徒の生命、身体、精神、財産等に大きな悪影響ないし危害が及ぶおそれが現にあるようなときには、そのような悪影響ないし危害の発生を未然に防止するため、その事態に応じた適切な措置を講ずる義務(安全配慮義務)があるといわなければならない」。
「教諭らにおいて、もっと早い時点で〔X〕に対するいじめの事実を発見し、これを防止するための適切な措置を取ることができなかったかとの疑念が生ずることは否定しがたい」。しかし、A中学校は、いじめ問題に対し体制を整え取り組んでいた。またXらの学年は、生徒に問題行動が多いため、小学校からの引き継ぎも他の学年に比べ3倍もの時間を費やしている。「2学期には〔X〕らの学年に対してはいじめ問題教育を集中的に行い、あるいは、生徒らの問題行動を防止するために、休み時間の巡回やトイレの立ち番等を行い、また、問題行動を頻発する〔Y2〕及び〔Y5〕らに対しては、その都度指導を行い、また、いじめ被害を受けているのではないかと危惧された〔X〕に対しても、〔B〕教諭が〔X〕に直接問いかけたり」、他の教諭や生徒を介してその動静に注意を払っていた。
「また、〔X〕が教室内で〔Y2〕及び〔Y5〕から暴行を受けたことが発覚してからは、校長を含む本件中学校教諭らの指導と各保護者らも含めた話し合いの結果」、Y2及びY5がXに謝罪するなどした。「それ以降は、〔Y2〕及び〔Y5〕らによる原告に対する暴行等のいじめは行われなくなったものであり、本件中学校教諭らの指導がその効を奏したことが認められる。以上の事実を総合すると、校長を始めとする本件中学校教諭らが行ってきた〔Y2〕及び〔Y5〕に対する指導・監督、いじめ防止措置が、不十分・不適切なものであったとまでは認めることができない」。「したがって、〔X〕の〔Y1〕に対する国家賠償法1条1項に基づく請求は、その余について判断するまでもなく理由がない」。
河内祥子(月刊高校教育06年5月号参照) |
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授業中の児童に対する教員の指導監督義務−小学校におけるドッジボール事故を巡って−
名古屋地方裁判所平成15年1月29日判決 平成13年(ワ)第2625号 |
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事件の概要
平成一一年六月四日当時,原告XはY町立A小学校の三年四組に所属していた。三時限目の三組・四組の合同体育の授業においてドッジボールのゲームが行われた。Xのクラス担任の教諭C及び三年三組の担任教諭Dは,三組対四組の男女別のドッジボールのゲームを児童らに行わせるとともに,花壇のある学級園の整備作業を併せて行っていた。本件ゲームが行われたコートと学級園は約二〇メートル離れていた。
ゲーム終了の約五分前である午前一一時二五分ころ,Xが背後にいる友人らの会話に気をとられて後ろを振り向いた際,相手チームである三組に所属するEがコート内のXの方に向かってボールを投げた。友人らがXに「危ない」と声をかけたため,Xが前を向いたところ,Eの投げたボールがXの顔面に当たった(以下「本件事故」という)。午前一一時三〇分ころ,本件ゲームが終了し,C及びDは,児童らを教室に戻したが,本件事故の発生には気付かなかった。
平成一一年六月七日に,Xは,歯科医師から,「歯牙外傷(上顎中切歯両側)」との診断を受けた。Xは,Eがいじめの一環として故意にXの顔面をめがけてボールを投げたものと主張する。そして,この傷害はXの担任Cら及び校長Bが児童らに対する指導監督義務等を怠った為に生じたものであるとして,学校設置者であるY町に対し国家賠償法に基づく損害賠償を請求した事案である。
判決要旨
「[X]の請求を棄却する。訴訟費用は[X]の負担とする。」
Xは,本件事故以前から「Eから執拗ないじめを受けており,本件事故はEの[X]に対する上記いじめの一環として行われたもの」と主張するが,証言等を総合するとC及びDらは「本件事故までに,[X]とEとの間のトラブルを見ても聞いてもおらず,[X]がEからいじめを受けているとの疑いは全く有していなかったものと認められる」。
また,「本件証拠からは,Eが故意に[X]の顔面をねらってボールを投げたものと認めることはできず,むしろ,本件事故は偶発的に生じたものと認めるのが相当である。なお,本件ゲームでは[X]とEとは別のチームに属するいわば敵同士であったことに加え,本件事故が発生したのは本件ゲームの終了間際であり,当時の各コートの内野の人数は,四組が八人,三組が六人であったとの状況を考慮すれば,[X]にボールが当たった直後にEが笑っていたとしても,そのことから直ちにEが[X]の顔面を故意にねらってボールを投げたものと推認することはできない」。そのため,「C及びDが,本件事故の発生を予見することが可能であったものということはできない」。
しかし,いじめが存在したか否かに関わらず,「C及びDは,本件ゲームが行われている間,常時児童らを監督して,事故が起こらないように指導すべき義務を負っていたのにこれを怠り,本件事故を発生させた」とXが主張していると解される余地があるため検討を加える。そもそも「小学校の教諭は,学校教育法及びその他の法令に照らし,学校教育の場において,児童の生命,身体の安全について万全を期すべき義務を負うものであるが,その義務の内容及び程度は,児童の年齢,心身の発育状態,学校教育活動の具体的状況等により異なる」。本件授業以前の合同体育の授業においては,少なくともC又はDのいずれかがドッジボールのゲームをしている児童らを常時見ていた。しかし,本件授業においては,「C及びDは,三年生の学級園で植え替え作業を行いながら児童らを監督していたものであり,コートの横に立つなどして児童らを指導監督することはなく,C及びDが同時に児童らから目を離すときもあったものと認められる」。だが,ドッジボールは一年生から体育の授業に取り入れられ,ルールも繰り返し指導されてきた。「これらの指導の経緯に照らすと,[X]ら三年生の児童にとって,ドッジボールは慣れ親しんだゲームであり,本件事故当時には既にルールは十分に習得できていたものと認めることができる。加えて,前示のとおり,放課の時間にはしばしば児童らだけでドッジボールのゲームをして遊んでいたのであるから,本件事故当時,[X]ら三年生の児童がルールに従って主体的にゲームを行うことは十分可能であったと認めるのが相当である」。「また,本件ゲームのコートと学級園との距離は約二〇メートルであり,証人らの証言によれば,本件ゲームの様子は学級園からもよく見えたものと認められる」。
これらの事情を考慮すると,「児童らにドッジボールのゲームを行わせるのと並行して学級園での作業を行うこととしたC及びDの判断を,直ちに不当と評価することはできないというべきである。そして,この際にC及びDが児童らに対し負うべき注意義務の内容としては,必ずしもC又はDのいずれかが常時コートの横に立つなどして,目をそらさずに児童らの動向を注視していなくとも,少なくとも常時目の届く範囲にいて,頻繁に児童らの様子を観察して本件ゲームの進行状況を常に把握し,問題等が生じた場合は直ちに対応できる態勢で児童らを監督していることで足りると解するのが相当である」。そのため,C及びDに注意義務違反があったとまで認めることはできない。
XはBがいじめの発生を未然に防ぐべく適切な措置をとるよう指示すべき義務等があったと主張する。だが,Xがいじめを受けていた事実を認めることはできないから,Xの主張は採用できない。「以上のとおり,本件事故の発生に関しC,D及びBに注意義務違反があったと認めることはできない」。
河内祥子(月刊高校教育04年11月号参照) |
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慢性疲労症候群と公務災害の認定
−小学校教諭の水泳指導をめぐって−
大阪地方裁判所平成14年11月27日判決・労働判例844号 |
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事件の概要
Xは、昭和四九年にA市公立学校教員に採用され、平成二年からはA市立B小学校に教諭として勤務している。平成八年度は、四年生の学級担任を受け持ち、一回四五分の授業を週約三〇単位行っていた。Xは、責任感が強く、真摯に職務に取り組んでおり、前年度には学級崩壊の状態になっていたクラスを担当したが、Xが担任となってからは問題がなく、Xと児童との関係も良好であった。Xは、平成八年度は、夏期休暇中も含め、九月四日朝まで肉体的、精神的に不調を感じたこともなかった。
当日は第一校時が水泳指導であったため、Xは、午前八時に出勤し水着に着替え、プールサイドに行き、気温と水温を測定すると気温は二一度、水温は二三度であった。Xは、気温と水温の和が四五度に満たなくB小学校内規の定める基準を満たしていないため、C学年主任及び四年生の担任であるD教諭と協議する必要があると考え職員室で待機し、担任学級の児童に気温及び水温が低いので教室で待つよう指示する。数分後、C学年主任が、職員室に来て、Xに対しなぜ児童に着替えを中止させたのかと尋ねたので、Xは、気温と水温の和が四五度に満たなかった旨を説明した。C学年主任は、「職員室で測ったんやろ。」と言いプールに向かう。Xは、C学年主任と教頭との間で既に水泳指導を行うと決めたと考えた。
同日午前八時五〇分ころから、Xは、三〇分から四〇分くらいの間、入水したまま軽度の知的障害を持つ児童の指導を行った。水泳指導の途中から寒気を感じ、授業終了後も強い寒気を感じていたXは、体調が異常であると感じ、夕方帰宅して体温を測ると三八度五分であった。
平成八年九月五日も三八度以上の発熱と頭痛があり九日まで欠勤した。一〇日に少し回復したため出勤したが、三七度以上の発熱と頭痛のため、年次休暇を取得して帰宅した。その後も微熱や頭痛が続き、二九日までの間、年次休暇を取得した。Xは、K病院脳神経外科、内科、産婦人科で受診したが発熱の原因となる所見は認められず、同内科において自律神経失調症と診断された。Xは、微熱や頭痛が続き、黒板に字を書けなくなったこと等から、三〇日から第二学期終了まで、病気休暇を取得した。
Xは、第三学期が始まる平成九年一月八日に出勤したが、微熱等の症状が悪化した。Y府立病院内科を受診したが、異常所見は認められなかった。この際、心療内科の受診を勧められ、Eクリニックを受診した。二一日に主治医のF医師から慢性疲労症候群と診断され、欠勤し治療を受けるようになる。九月からは担任を持たない理科専任教諭として出勤したが、まもなく通勤途中に階段を上がることができない等の症状が出たため、一〇月から休職した。
Xは、平成一三年四月に担任を持たない理科専任教諭で復帰したものの、体調が悪化したので、家庭科専任教諭への変更を希望したが、かなえられず、再び欠勤し、判決時まで療養を続けている。
Xは、平成一〇年三月に慢性疲労症候群の公務災害の認定を請求したが、地方公務員災害補償基金Y府支部長は、本件疾病を公務外の災害と認定する処分を下した。その後、審査請求と再審査請求が棄却されたためXが公務外認定処分に対する取消を求めたのが本件訴訟である。
判決要旨
「Xの請求を棄却する。」
「地方公務員災害補償制度は公務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に、それによって公務員に発生した損失を補償することを目的とする」。そのため「当該疾病が公務に内在する危険が現実化したといえる場合、すなわち公務が当該疾病の発症の単なる引き金になったというだけでは足りず、公務が他の原因と比較して相対的に発症の有力な原因となったといえる場合でなければならない」。
Xが体調を崩した原因の一つに本件水泳指導がある可能性は、十分考えられる。ただし、仮に本件疾病の発症機序について、気温及び水温が低い状況下で水泳指導を行ったことが感冒罹患の原因となり、その感冒が、慢性疲労症候群の発症をもたらしたとの前提に立つ。それでも「プールの水温は、文部省文書において水泳指導をしない方がよいとされる水温を上回っており」、B小学校内規の標準水温をも満たしていた。同内規に定める水温と気温の和が1度下回っていたにとどまる。
そもそも「慢性疲労症候群とは,それまで健康に生活していた人に原因不明の強い全身倦怠感,微熱,頭痛,脱力感や,思考力の障害,抑うつ等の精神神経症状等が起こり,休養をとってもこの状態が長期にわたって続くため,健全な社会生活を送ることができなくなる病態の総称であり,その病因は,いまだ解明されていない。」これらを総合すると「〔X〕が本件疾病に罹患し、職務への復帰を念願しながらも約六年間にも及ぶ長期間公務に就くことが困難になり日常生活さえも支障が生じるほどの病状に陥ったことについて、本件水泳指導が相対的に有力な原因となったとするには疑問が残る」。
次に、水泳指導の際又はその後のB小学校の対応による心理的ストレスの存在については、納得できない状況で水泳指導を強制されたことによるXの心理的ストレスは、感じたとしても客観的にはそれほど大きなストレスを与える性質のものではない。また、水泳指導後の学校側の対応も、「証拠上、〔X〕に過度のストレスを生じさせるような状況があったとは認められない」。これにより「〔X〕が実際に重大な心理的ストレスを感じ」て発病したとすれば、「本件公務に内在する客観的な危険が現実化したというよりも、むしろ〔X〕の気質的な要因の果たした役割が大きい」と考えられる。
このため、「本件疾病は公務上の疾病に当たるとはいえず、〔X〕の本件請求は理由がない」。
河内祥子(月刊高校教育05年11号参照) |
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検定教科書履修義務と「親の教育の自由」
東京地方裁判所平成13年12月6日・判例集未登載 |
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事件の概要
原告は教科書の記述のうちの一部分について「『思想性』、『違憲性』、『虚偽性』、『偏頗性』、『不当性』」が存在すると主張した。例えば、支那事変など一連の日中戦争もまた『侵略戦争』ではあり得ないゆえに教科書には「虚偽性」、「偏頗性」がある、「従軍慰安婦」という言葉の使用に「虚偽性」があるなどとである。
本件のそれゆえの原告の請求は多岐にわたり複雑であるゆえに、論点を絞って言及する。原告はまず、国と地方自治体に対しては、生徒にとって社会科の履修について、「授業に出席する義務、授業を受ける義務及び考査試験を受ける義務がないこと」を確認及び保護者にとって出席させる義務などが存在しないことの確認、「社会科の履修において授業に出席せず又は出席させず、授業を受けず又は授業を受けさせず、考査試験を受けず又は受けさせないことを理由に、その原告生徒に対し、懲戒、出席停止、出席督促、進級留置、卒業不認定の処分を行ってはならない」ことの確認を求めた。
さらに、主位的請求としては、「各教科用図書を社会科の履修に使用してはならない」こと、予備的請求・中間確認の訴えとしては、該当する教科書の「記述部分を全部削除」することを求めた。「生徒及び保護者と著作者の間に、製造物責任あるいはこれに準じた法律関係」の存在を主張して、個別的訂正請求権があると主張して、削除を要求した。また、生徒、保護者、国、自治体、教科書発行者の間には「混合契約」が存在するとして、教科書検定を行った国、教科書採択をした地方公共団体、教科書発行者、著作者それぞれに対して損害賠償請求も行った。
判決要旨
請求却下、棄却。
「既に原告生徒が中学校の全課程を修了して中学校を卒業している以上」、中学校において出席義務、保護者の出席させる義務などについては、「原告生徒の在学中における上記各義務の不存在確認等を求める法律上の利益は、もはや存在し得ないというほかはない。」
原告の教科書発行者に対する損害賠償請求は、「その前提となる契約関係の存在が認めらない」また、訂正要求に関しては「原告らと被告著作者との間に、製造物責任あるいはこれに準じた公法上の法律関係が認められないことは明らかである。」として教科書訂正の請求を退けた。
「文部大臣が検定に当たり、その権限を適正に行使すべき義務を負っているとしても、教科用図書の著作者ないし発行者との関係においては格別、将来当該教科用図書を使用して学習することになりうる学齢生徒ないしその保護者との間において、適正にその権限を行使すべき具体的な法的義務を負っているものではないというべきである。」「また、教育委員会が行う教科用図書の採択についても…これは国民全体ないし当該採択地区の住民全体に対して負担する一般的、抽象的義務にすぎず、個々の学齢生徒ないしその保護者に対し、適切な教科用図書が採択されるべき法律上の利益が与えられているものでもない。」
「子どもには教育の権利が、その親には教育の義務があるけれども、いかなる内容の教育を受けるか、あるいは受けさせるかといった個々の点についてまで、教育権、人格権あるいは他の権利として、子どもないしその親に憲法上の保障が及んでいると解することは到底できないといわなければならない。」
大津尚志(月刊高校教育06年3月号参照) |
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理科授業中の実験事故に対する責任の範囲
−女児の顔面損傷と労働能力の喪失を巡って−
東京地方裁判所八王子支部平成13年9月27日判決・判例時報1781号118頁 |
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事件の概要
Xは、本件事故が発生した平成二年一二月当時、Y1市立A小学校に通う六年生であった。Xは、同月六日、担任教員Bが指導する理科の授業において、「「炎について」(ロウソクの炎とアルコールランプの炎の違い)」の実験を行っていた。
Xと同一グループでこの実験を行っていた同級生Cが、アルコールランプの炎をロウソクに移すために近づけた際、誤ってアルコールがXの衣服に飛び散った。炎がXの衣服に移り燃え上がり、Bが、これを消し止めたものの、Xは、顔面、首及び手等に重篤な火傷を負うこととなった。
本件後、Xは、A小学校の設置者であるY1市、及びCの両親であるY2・Y3を相手取り調停の申し立てを行った。Y1市は、Bの過失を認め、Y2・Y3も責任を認め、調停は成立した(立川簡易裁判所平成四年(ノ)第一二〇号損害賠償請求調停事件)。これにより、Xは、被告らから、事故発生から平成四年一〇月二日までの損害賠償金の支払いを受けた。そして、同年一〇月三日以降における本件事故と相当因果関係にある損害の賠償については、Xの後遺障害の診断が可能となった時点において、再度Xが、被告らに請求することとなった。
平成一一年一月二六日、Xの顔面、顎部、両手に熱傷後肥厚性瘢痕の傷害が確定した。本件は、Xが、後遺障害の症状が確定し、労働能力をも喪失したとして、被告らに対し、通院治療費、通院付添費、傷害慰謝料、後遺症慰謝料、労働能力喪失による逸失利益、弁護士費用等で約六〇一〇万の損害賠償を求め提訴したものである。
判決要旨
一部認容。
Y2・Y3は、調停時に責任はないと主張したもののY1市等の勧告に従いやむなくXに謝意を表したこと、また調停後のY1市との協議の末、負担支払額が僅少だったことを理由に、本件調停は、Y2・Y3に責任のないことを前提とした成立であると主張している。だが、「[Y2・Y3]は、本件調停において、[X]に対し、[C]の親権者、かつ[C]の生活全般にわたっての法定監督義務者として、[C]の行為に基づく本件事故により[X]の被った損害を賠償すべき責任を認めたというべき」であり、この点のY2・Y3の主張については、「本件調停条項の文言に反し、採用できない」。
「[X]は、本件事故によって、顔面、顎部、両手に熱傷後肥厚性瘢痕の、後遺障害別等級七級に該当する外貌醜状傷害を負うに至った」。本件事故によるXの後遺症が重くなった原因には、学校側が、「本件事故後直ちに救急車を呼ぶことをせず、保健室で医療に素人である学校職員に対処させ」、「病院に搬送するに当たって、その学校職員の自動車で、学校に距離的に近い[D]病院ではなく、より遠い[E]病院に搬送し、そこで皮膚科の医師が不在であったため、漫然何らの措置を施すことなく、無為に時間を過ごし」、「学校から電話連絡を受けた母親が病院に駆けつけ、[D]病院への搬送を強く要請したため、漸く同病院に再搬送したが、それまで一時間ほども[X]は何らの手当も受けられずに放置されたためであることが認められ」る。
また、「[X]は本件事故による受傷の入院治療中、また退院後、その楽しかるべき一〇代の青春の時代に筆舌に尽くしがたい肉体的・精神的苦痛を受け、かつ、[X]は、[F]短大生活科栄養士コースを卒業し、栄養士の資格を取得したものの、就職の面接試験で醜状痕を指摘され、結果的に不合格となったことがあり」、「[X]の精神的な落ち込みが激しいこともあって今後の就職にもかなりの困難性のあることが認められる」。この他、諸事情に鑑みれば、「[X]は、症状固定の平成一一年一月二六日の二〇歳から、五〇歳に達する三〇年間、喪失率五〇パーセントの労働能力を喪失するものと判断するのが相当である」。
以上によれば、「[X]の被告らに対する本訴請求は、被告ら各自に対し、四二三九万四七三九円及びこれに対する本件調停で合意の症状固定の日の翌日である平成一一年一月二七日から支払済みまで年五分の割合による民事遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある」。
黒川雅子(月刊高校教育05年12月号参照) |
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