財務管理概要(その2)
4.財務諸表
5.資本の調達と運用
6.設備投資と経済計算
4.財務諸表
(1)財務諸表の体系
・企業活動の成果は、最終的に決算書と云う形で貸借対照表と損益計算書等の財務諸表に要約して、数字的に纏められる。
・貸借対照表は、一定期間における企業の財政状態(資産、負債及び資本が幾ら残っているかを示す)を表す。
・損益計算書は、企業の一定期間の経営成績(期中の儲け或いは損失を示す)を表す。
・利益配分の方法を示したものが、利益処分計算書である。
@財務諸表の体系
・財務諸表に含めるものは、企業会計原則、商法、証券取引法、法人税法等で規定されている。
a.企業会計原則:会計法規の基準(企業会計原則前文)
財務諸表は、損益計算書、貸借対照表、財務諸表附属明細書、利益処分計算書
b.証券取引法:財務諸表規則(財務諸表規則第1条) 適用は上場会社
財務諸表は、貸借対照表、損益計算書、利益処分計算書又は損失金処理計算書、附属明細書
c.商法:商法計算書類規則(商法第281条) 適用は株式会社
計算書類・附属明細書は、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益の処分又は損失の処理に関する議案、
附属明細書
d.法人税法:法人税法第74条の2項及び同規則第35条
確定申告書の添付書類は、貸借対照表、損益計算書、損益金の処分表、貸借対照表及び損益計算書に係る
勘定科目内訳明細書、資本積立金の増減に関する明細書
A会計公準
・会計公準とは、企業会計理論上の基礎となるもので、次の三大公準が有る。
a.企業実体の公準:企業は所有者から独立した存在である。
b.会計期間の公準:企業が永続的生命を有していると仮定し、一定期間(会計期間)により、財産と損益の計算を行う。
c.貨幣評価の公準:会計の対象とする企業の資産、資本は全て、貨幣金額によって評価計算する。
(2)企業会計原則
・企業会計原則は、企業会計の実務の中に慣習として発達したものの中から、一般的に公正妥当と見とめられた所を要約したもので、
その構成は、一般原則、損益計算書原則、貸借対照表原則、企業会計原則注解と財務諸表準則から成っている。
@一般原則(7つの原則)
a.真実性の原則
企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない(包括原則)。
b.正規の簿記の原則
企業会計は、全ての取引に付き、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければ成らない(形式原則)。
c.資本取引・損益取引区別の原則
資本取引と損益取引を明確に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同しては成らない(実質原則)。
d.明瞭性の原則
企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対して、必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせない
様にしなければ成らない(報告原則)。
e.継続性の原則
企業会計は、その処理の原則及び手続きを毎期継続して適用し、みだりにこれを変更しては成らない(実質原則)。
f.安全性(保守主義)の原則
企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性が有る場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければ成らない(実質原則)。
g.単一性の原則
株主総会提出の為、信用目的の為、租税目的の為等、種種の目的の為に異なる形式の財務諸表を作成する必要が有る場合は、
それらの内容は、信頼し得る会計記録に基づいて作成されたもので有って、政策の考慮の為に事実の真実な表示を歪めては
ならない(報告原則)。
A貸借対照表原則
・貸借対照表は、企業の財政状態を明かにする為、貸借対照日における全ての資産、負債及び資本を記載し、株主、債権者その他の
利害関係者にこれを正しく表示するものでなければ成らない(貸借対照表の本質)。
これに基づいて、次の4原則が要請される。
a.貸借対照表の区分
貸借対照表は、資産の部、負債の部及び資本の部の3区分に分け、更に資産の部を流動資産、固定資産及び繰延資産に、
負債の部を流動負債及び固定負債に区分しなければ成らない。
b.貸借対照表の配列
資産及び負債の項目の配列は、原則として、流動性配列法によるものとする。
c.貸借対照表科目の分類
資産、負債及び資本の各科目は、一定の基準に従って明瞭に分類しなければ成らない。
d.資産の貸借対照表価額
貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、当該資産の取得原価を基準として計上しなければ成らない。
費用の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業年度に配分しなければ成らない。
B損益計算書原則
・損益計算書は、企業の経営成績を明かにする為、一会計期間に属する全ての収益とこれに対する全ての費用とを記載して、
経常利益を表示し、これに特別損益に属する項目を加減して当期純利益を表示しなければ成らない(損益計算書の本質)。
損益計算書の原則は、次の通り。
a.発生主義の原則
全ての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割り当てられる様に処理しなければ
成らない。
b.総額主義の原則
費用及び収益は、総額によって記載する事を原則とし、費用の項目と収益の項目とを直接に相殺する事によって、その全部
又は一部を損益計算書から除去しては成らない。
c.費用収益対応の原則
費用及び収益は、その発生源泉に従って明瞭に分類し、各収益項目とそれに関連する費用項目とを損益計算書に対応表示
しなければ成らない。
d.損益計算の区分の原則
損益計算書には、営業損益計算、経常損益計算及び純損益計算の区分を設けなければ成らない。
e.実現主義の原則
売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。
(3)貸借対照表の作成
・商法計算書類規則による貸借対照表の様式は、資産の部、負債の部及び資本の部を設け、各区分の合計額を記載する。
@資産の部
・資産の部は、流動資産、固定資産、繰延資産に区分する。
a.流動資産
流動資産は原則として1年以内に現金・預金に還元する1年基準(ワン・イヤー・ルール)を適用するが、受取手形、売掛金、
製品・商品、原料等営業循環過程に有るものは、たとえ1年を超えるものでも、営業循環基準により流動資産とする。
b.固定資産
固定資産の部は、更に流動資産、繰延資産以外の資産で、土地、建物、機械等の設備資産などの有形固定資産と特許権、
営業権等の無形固定資産及び投資有価証券等の投資等の各部に区分される。
c.繰延資産
創立費、開業費、試験研究費、新株発行費、社債発行費等の様に当期に支出したが、翌期以降に収益が発生するものは、
資産として繰延べる事が出来る。
A負債の部
・負債の部は、流動負債と固定負債に区分される。
a.流動負債
原則として1年基準が適用される負債が流動負債であるが、支払手形、買掛金などの営業循環過程に有るものは、
営業循環基準による。
b.固定負債
長期借入金、社債、退職給与引当金などの負債である。
引当金の内、負債性引当金である賞与引当金は、流動負債に、退職給与引当金は固定負債に含まれる。
貸倒引当金の様な評価性引当金は、資産科目より控除する形式を取る。
B資本の部
a.資本金
企業の所有者が直接企業に支払った払込資本額の事である。
b.法定準備金
資本の増減に関する取引により生じた利益である資本準備金と将来の欠損などに備えて利益の一部を積立てたる利益益準備金が
有る。
c.剰余金
役員退職積立金、配当積立金、別途積立金等の任意積立金と当期未処分利益(又は未処分損失)を記載し、当期利益又は損失を
付記する。
(4)損益計算書の作成
・商法計算書類規則による損益計算書は、経常損益の部及び特別損益の部を設け、経常損益の部は営業損益の部及び営業外損益の部
に区分される。
・企業会計原則、財務諸表規則では、売上原価について、商品(又は製品)の期首/期末棚卸高と商品仕入高(又は当期製品製造原価)を
表示し、更に売上高から売上原価を控除して「売上総利益」の表示を規定しているが、商法計算書類規則では、売上高、売上原価、
販売費及び管理費等の収益/費用を示す科目に分け、営業利益(損失)を表示すれば良いとしている。
・企業会計原則、財務諸表規則の「当期純利益」は、商法計算書類規則では、「当期利益」と呼ばれている。
(5)中小企業庁方式の財務諸表
・中小企業庁の「中小企業の経営指標・原価指標」に用いられている方式で、経営分析(財務分析)に適する。
5.資本の調達と運用
(1)資本の調達源泉
・収益による経済的価値の増大を目的とする資本の調達と運用が財務であり、調達は資本需要に対しての資本の調達を意味する。
・企業の資本調達の形態
資本調達−−外部金融−−企業間信用−−買掛金 −−|短期 −−−−−|
| | |−支払手形 | |
| | |
|
| |−間接金融−−短期借入 −−|
|他人資本
| | |−長期借入 −−−−| |
| |
|長期 |
| |−直接金融−−社債発行 −−−−| −−−−−−|
| |−株式発行 ーーーーーーーー|
| | 自己資本
|−内部金融−−自己金融−−利益留保 |
|−減価償却 −−−−−−−−|
・一時的な資本需要に対しては、短期の他人資本(流動負債)による調達でも良いが、設備投資などの長期的資本需要については、
自己資本もしくは長期の他人資本(固定負債)によって調達すべきで有る。
@外部金融とその特徴
・外部金融は、企業の外部に調達源泉を求める資本調達で有り、負債である他人資本と企業の所有者からの払込資本によって、
構成される。
・企業間信用は、買入債務を負う事を意味するが、金利等のコストは発生しないので、利用し易い資本調達の源泉で有る。
返済能力を超える債務の蓄積は、企業の信用失墜や倒産の原因にもなりかねず、十分な管理を要する。
・間接金融には、手形割引、手形借入、当座借越、証書借入等が有り、金融期間その他よりの借入により調達するので、
借入金融とも云われる。
比較的容易で迅速に確保できるが、借入超過に注意する必要が有る。
・増資や起債による直接金融は、證券金融とも云われ、長期間返済の必要がなく、安全性の高い資本調達で有るので、設備投資等に
安心して利用出来るが、調達の機動性は低く、また、利息や配当の確保は必要で有る。
Aエクイティ・ファイナンス
・銀行借入や普通社債発行による調達を、デット・ファイナンス(debt finance)と呼ぶのに対し、株式発行等自己資本の増加を伴う
資金調達をエクイティ・ファイナンス(equity finance)と呼ぶ。
・この手段としては、時価発行増資や中間発行増資のほか、転換社債(convertible bond=CB)、ワラント債(新株引受権付社債、
bond with warrant=WB)の発行などが有る。
・転換社債やワラント債は、転換や行使が進めば最終的に株式と成るので、潜在株式とも云われる。
・株式市場が安定的に上昇基調の時は、大量の増資や起債が行われても、含み益、担保価値の観点から活発な企業投資に支えられ、
市場は消化されるが、大量のエクイティ・ファイナンスは、供給過剰に繋がる恐れも有る。
・転換社債は、株式に転換されない場合、企業にとって償還資金の手当をしなければ成らず、株式市場の低迷時には、転換社債償還の
為の資金調達と云う、新たな問題を抱える事にも成る。
・増資は、有償増資と無償増資に大別され、発行の方式は株主割当、第三者割当(縁故割当)、公募(募集発行)が有る。
・有償増資では、新株の払込価格を株式市場の時価を基準として定める時価発行と時価と額面の中間で定める中間時価発行が有る。
・時価発行の利点は、
a.額面価格発行より少ない株数で多くの資金調達ができ、資本コストは下がり、
b.額面と時価との差額は資本準備金として内部留保され、自己資本が充実する事や、
c.経営者の株価意識の向上などが有る。
B内部金融
・内部金融とは、企業の営業活動で生み出した資本で、減価償却と利益の内部留保を源泉とする資本調達であり、自己金融の事である。
・自己金融は、増資や借入金と異なり、配当や利息の支払、返済の必要が無く、理想的な資本調達と云える。
・過大配当や不当賞与を抑制し、利益の社内留保を奨励して、資本構成の是正を図る事が資本調達の課題であるが、利益の内部留保
配分が過大過ぎると、過小配当による増資の難しさや過小賞与では、労働意欲の低下なども懸念され、利益の適正な配分が大切である。
・減価償却をすると、減価償却費が費用として計上されるが、現金支出が伴わないので、減価償却費相当額の資本が調達された事に成る。
減価償却費は、法定の範囲内において損金計上されるので、利益の課税との関係において計画的に設備投資と減価償却を実施する
事で、社内留保に有効に寄与する。
C資本コスト
・資本コストには、調達の資本コスト(顕在的資本コスト)と設備投資の採算性判断の基準としての資本コスト(潜在的資本コスト)がある。
・資本調達コストは、資金調達に関して支払われる費用(配当、利息)と考えられており、エクイティ・ファイナンスは資本コストが極めて低く、
有利な資金調達と考えられている。
この考え方では、利益留保で調達される留保資本は、配当などの社外支払いが無く、資本コストはゼロと成る。
・投資判断に用いる資本コストは、逸失利益を測定してコストとする機会原価の考え方に基づいており、資本コストが投資利益率と等しく
成る最低必要収益率であると定義される。
従って、社内留保で有っても、その資本を有利な投資に振り向けたならば、投資利益は見込めるので、最低必要収益率がゼロと云う
事は無く、資本コストは評価される。
最低必要収益率以上の投資利益であれば、投資実行で企業価値が投資額を上回って増加する。
企業価値は、「負債+自己資本」の時価総額である。
・モジリアーニとミラーのMM理論では、法人税が存在しないと調達源泉に関係無く、
「資本コスト = 利子控除前利益 / 企業価値」であるが、法人税が存在する場合は、次の様に区分し、加重平均して平均資本コスト
を求める。
a.自己資本のコスト = 利子控除前利益 / (企業価値 − 税率 × 負債時価総額)
b.負債の資本コスト = (1 − 税率) × a.の自己資本コスト
D調達し本の構成
・自己資本比率の向上による資本構成の是正は、資本調達の基本的課題であり、安全性の面からも明かに自己資本による調達が、
優れているが、設備投資等の調達において、収益性の拡大、即ち自己資本利益率向上を指向する観点からは、レバレッジ効果も
考慮して資本構成を決定する必要が有る。
(2)売上債権管理
・取引先と通常の取引で生じた受取手形(手形債権)、売掛金(営業上の売上代金の未収入金)の様な営業債権を「売上債権」と云う。
・決算日における金銭債権の貸借対照表価額は、将来の回収可能な価額によって決定されるので、当期の売上高の売上債権に対する
貸倒見積高は貸倒引当金として当該期間の営業費用として計上する。
・販売用資産以外の資産売却の金銭債権は、未収収益として売上債権とは区別され、この貸倒引当金繰入額は、短期貸付金、立替金
などと同様に営業外費用として計上する。
・売上債権管理で大切な事は、次の3点である。
@不良債権の防止
・売込み時の回収条件の明示、回収期限の厳守の依頼やチェックをする。
注文書、注文請書を作成し、支払条件を明示する。 注文書、注文請書の本質は、売買契約である。
A貸倒れの防止
・予め信用調査を行い、与信限度額を設定する。
債権残高、回収率等の管理表を作成し、貸倒れの兆候時には、法律的に債権保全措置をとる。
B貸倒引当金の計上と補填
・貸倒引当金の設定と貸倒れ時の取崩しで、被害を軽減する。
貸倒引当金は、貸借対照表に表示される売上債権に対する控除的評価勘定で有り、貸倒引当金繰入額は、販売費として扱う。
起債方法は、原則として、その債権が属する科目毎に控除する個別控除方式によるが、一括控除方式、個別注記方式、一括注記方式
も認められている。
・内容分析には、次の回収率と回収期間が用いられる。
a.回収額 = 当期準売上高 + 月初売掛金 − 月末売掛金
b.回収率 = 回収額 / (当月順売上高 + 月初売掛金)
c.売掛金の回収期間 = 期中売掛金平均残高 / 月平均売上高
d.受取手形の回収期間 = 期中受取手形平均残高 / 月平均売上高
e.売上債権の回収期間 = 期中売上債権平均残高 / 月平均売上高
(3)棚卸資産管理
@在庫管理の意義
・在庫管理の基本的な狙いは、@コスト(費用、労力の節減)、A資金(運転資金の節減)、Bサービス(在庫切れの防止)の3項目に
要約される。
・在庫管理の領域でのサービスとは、調達−生産−流通−販売の諸活動の相互間において、在庫がバッファ(緩衝)の役目を上手く
行える様に、資材や製品を必要な時、必要な量を必要な場所に供給する事である。
A棚卸資産の種類と評価方法
・棚卸資産の種類と目的別分類
棚卸資産−−−−商 品−−−−−販売目的の資産 <−−|
|−−製 品−−| |
| |
|−−半製品−−−−−製造中の資産 −−−>|
|−−仕掛品−−| |
| |
|−−原材料−−−−−消費目的の資産 −−>|
|−−貯蔵品−−|
・棚卸資産の払出価額、期末残高の計算方法には、@受入・払出記録によって計算する「帳簿棚卸法」と、A期末実地棚卸数量と
期中受入数量から求める「実地棚卸法」が有る。
一般的には帳簿棚卸法を補完する形で実地棚卸法が併用して用いられる事が多い。
・棚卸資産の評価は、原則として購入代価又は製造原価に引取費用等の付随費用を加算し、その評価方法は原価法の8種類と
低価法が用いられる。
・原価法の種類
a.個別法
個々の実際原価による評価
b.先入先出法
取得の順に払出されたと云う仮定による評価
c.後入先出法
最も新しく取得したものから順次払出される仮定評価
d.移動平均法
取得毎に棚卸資産全体の加重平均単価を求める方法
e.総平均法
一定期間の期首、期中取得価額の総加重平均による方法
f.単純平均法
期中取得の異なる単価の単純平均が期末棚卸単価
g.最終取得原価法
最終仕入、最終製造原価の単価が期末棚卸単価
h.売価還元法
商品群毎に期末棚卸量の売価に原価率を乗じて評価
B代表的な在庫管理システム
・在庫管理のシステムを発注方式から見ると、定量発注方式と定期発注方式に大別される。
どちらも安全在庫として最小在庫量を常備するが、定量発注方式は何時も一定量の発注を行うもので、発注点管理方式である。
定期発注方式は一定の時期に、需要予測による発注量を調整する差額調整方式とも云う。
・定量発注方式における経済的発注量(EOQ)に関する考え方は、調達費と総維持費が等しくなる発注量である。
EOQ=√2×年間総所要量×1回当りの発注費/単に当りの在庫の年間維持費
発注点管理では、「発注点=調達期間中の需要予測+安全在庫」である。
・適性在庫量の管理は、パレート図を用いたABC管理により在庫の金額的ウェートによって区分し、効率的に重点管理を行う。
また、在庫の回転率基準を、できれば品目別に設定し、回転率の低下(在庫量の増加)に注意する。
在庫の回転期間は、回転率の逆数である。(年間当り)
(4)設備資産管理
・設備資産は、長期間に亘って営業の用に供せられ、資本を利用する固定資産である。
設備資産は、購入に始まって、償却、移動、除却、評価等と云う一連の動きが有る。
・設備資産の会計処理は、一般に@取得(買入代価+付随費用)、A修理/改造(場合によっては耐用年数/価額の加算)、B決算
(減価償却、評価減)、C交換、売却、D廃棄(除却損)の手順を踏む。
・有形固定資産は、利用や時間経過などで老朽化し、価値的に減少する。 これを「減価」と云い、この減価費用配分の手続きを
「減価償却」と云う。
・減価償却は、予め見積もられた耐用年数、残存価額などに基づいて、期間配分する方法と生産高(利用高)配分を基準とする方法に
大別される。
・会計諸法規上に見とめられている一般的な方法は以下の通り。
@定額法 D=(C−S)/n
A定率法 D=(C−ΣD)×(1−n√S/C)
D:減価償却費、 C:取得原価、 S:残存価額、 n:耐用年数
定額法は、減価償却費負担が各期間に均等化しており、定率法は、定額法より投下資本の早期回収を可能ならしめる特徴が有る。
B生産高比例法 D=(C−S)×(当期生産高/総生産見積高)
生産高は、利用高でも表され、鉱業設備、航空機、自動車などへの適用が認められている。
6.設備投資と経済計算
(1)設備投資の種類
@収益性の判定方法による分類(ジョエル・ディーン)
a.取替投資
同一の新設備や陳腐化による新鋭設備への取替があり、コスト節約目的の設備投資で、取替によるコストダウンが投資の利益と成る。
現在の使用設備も含め、コストの節約が最も期待されるものが選択される。
b.拡張投資
既存製品の増産、拡販の為の設備投資で、現在の設備と比較して、増産や拡販で生ずる利益の増加額が投資の判断基準と成る。
c.製品群拡張投資
製品改良投資と新製品追加投資が有る。
d.戦略投資
投資効果の短期的採算効果は難しいが、長期経営戦略に基づく戦略性の高い設備投資である。
防衛的リスク減少投資、研究開発の様な攻撃的リスク減少投資、福利厚生投資、公害対策の環境投資などが有る。
A設備投資案の評価の為の分類
・投資案の実施や効果が、他の投資案の実施いかんを問わず全く影響されない独立的投資とそれ以外の従属的投資が有る。
従属的投資には、影響内容により、補完的投資、代替的投資、排他的投資、前提的投資などが有る。
(2)設備投資の経済計算
@設備投資の効果予測
・設備投資効果の収支予測には、限界利益の増加額が良く用いられる。
「利益増加額=予想売上高増加額×限界利益率−固定費増加額」
A設備投資の採算計算
a.回収期間法
投資からもたらされるキャッシュフローで、投資額の償還年限を見る方法である。
「回収期間(年数)=設備投資額/年平均のキャッシュフロー」
設備投資から残存価額を控除した金額で算出する場合もある。
b.資本利益率法
資本に対する会計的利益率を求める方法である。
投下資本に対する償却後利益率を求めるのが投下資本利益率(ROI)法である。
予想収益(年平均) 予想償却後利益(年平均)
投下資本利益率 = −−−−−−−−−− = −−−−−−−−−−−−−
投下資本 設備資金+増加運転資金
償却後利益には、一般に利払前、税引前利益(営業利益)が利用される。
投資前と後との総資産利益率(ROA)の比較も投資効果判断に採用される。
c.現在価値法
正味現在価値法と内部利益法がある。
正味現在価値法(NPV)は、投資で得られるキャッシュフローについて、ある一定の資本コストの割引率で、そのキャッシュフローの
現在価値を算出し、設備投資額と経済性の高さを比較するものである。
n Rt
NPV = Σ −−−−− − I
t=1 (1+i)t乗
(1+i)n乗 − 1
Rが毎期同額の場合 NPV = R{ −−−−−−−− } − I
i(1+i)n乗
(R:キャッシュフロー、i:資本コスト、t:期間、 I:投資額)
1/(1+i)n乗 を複利現価係数、 { (1+i)n乗 − 1}/i(1+i)n乗 を年金現価係数と云う。
投資が数年間に亘る場合、投資額 I は総投資額の現在価値を用いる。
NPV>0であれば投資可能、NPV<0は投資不採用の判断基準と成る。
内部利益率法(IRR)は、キャッシュフローの正味現在価値が投資額と等しくなる割引率(資本コスト)である内部利益率を算出する。
Bキャッシュフロー
・キャッシュフロー(CF)は、償却前利益、即ち減価償却後利益と減価償却費の合計の事である。
その利益は、その把握段階で次の3つの考え方がある。
a.利子支払前・税引前利益(営業利益)
b.利子支払後・税引前利益(経常利益)
c.利子支払後・税引後利益(当期純利益)
・利子支払後・税引後利益(当期純利益)の場合を正味キャッシュフローと云う。
・回収期間法では、最終的に手元に残る利益の概念からは、次の式を用いる。
年CF = 税引後利益 − 配当金 = 役員賞与 + 減価償却費
・現在価値法では、支払利息、法人税の扱いが問題とされるが、一般的には次の式が用いられる事が多い。
年CF = 営業利益 − 法人税等 + 減価償却費
(3)リース
・リースは、ファイナンスリースとオペレーティングリースに区分される。
・ファイナンスリースは、ユーザに購入資金を貸付ける代わりに、ユーザが選択、特定する設備をリース会社が購入し、長期間賃貸(リース)
して、ユーザはリース期間中、所定のリース料を支払う。
物件の維持管理は、ユーザが行う。
・設備購入とリースの比較
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
購入投資 | リース
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
借入金の返済 |
金利の支払 |
諸経費の支払 | リース料金の支払
− 節税額 | − 節税額
−−−−−−−−−−− | −−−−−−−−−−−−
各年支出額合計 | 各年支出額合計
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(耐用年数の累計額) <−−現在価値比較−−> (リース期間の累計額)
リース料 = (リース資産価値+金利+諸経費+手数料)
購入投資の節税額 = (減価償却費+金利+諸経費)×税率
リースの節税額 = リース料×税率
・ファイナンスリースの設備購入と比較してのメリットとデメリットは以下の通り。
メリット @資金が固定化せず、資金運用の効率化を促進できる。
A減価償却費計算などの管理事務の省力化と費用が節減出来る。
B早期償却や新機種更新が容易であり、機械の陳腐化へのリスクヘッジや節税効果が期待できる。
C増資、借入に依存せず、担保は物件そのもので提供担保の制限は無い。
デメリット@一般に、金利負担など費用が割高で、支払が長期的に固定化する。
A資産所有での担保、売却換金、特別償却の恩典等が受けれない。
B契約の途中解約が出来ないので、期間を間違えると思わぬ割高と成る。
C企業の財務状態や経営成績によっては利用できない事もある。
・オペレーテキングリースは、ファイナンスリース以外のリースであり、自動車のメンテナンスリースや建設機械のレンタルなどの様に
リース期間中の物件の維持管理は一般にリース会社の負担であり、契約期間が短期、或いは一般に中途解約可能である。
・不況下などで売上成長が期待できない場合に、総資本利益率向上の方策として、運転資金や固定資産の圧縮を図る場合に、
またコストダウン効果の大きい設備投資等においても、リースの活用は有効な手段と云える。