農薬・ダイオキシンとエストロゲン
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1.押し寄せるダイオキシン

あなたの身近にダイオキシン

 つい最近まで、わたしもビニールなど(合成樹脂類)をゴミとし
て燃やして処理する場合に、例外なく、重大なことが起こっている
とは考えもせず、大して関心をもっていませんでした。でもダイオ
キシンが猛毒で、生命に重大な危害を及ぼすことは知っています。
 これまでダイオキシン(類似物質にジベンゾフランがある)の発
生源として、除草剤などの農薬中に含まれていることが知られてい
ます。最近注目をあびているゴミの焼却炉や産業廃棄物処分場から
は、密かに発生して僅かに漏れ出ているのだろうとは考えていまし
た。しかしこの認識に、重大な誤りがあったことを最近わたしは知
りました。
 このあいだ、産業廃棄物や家庭ゴミの中に、塩化ビニール類、塩
素系漂白剤・殺虫剤やその容器がまじっていたり、残飯中に含まれ
ている塩分をいっしょに燃やすと、即ダイオキシンが発生するって
テレビで取り上げていたけれど、あなたは知っていましたか?
 特に塩化ビニール類は、それと知らなくても、わたしたちの生活
道具や家具の合板のコーティングに幾らでも使われていて、わたし
もかつては知って燃やしたことも、知らずに燃やして嫌な匂いの煙
が発生したことで、よもやと思ったことがあります。しかし、この
時、ダイオキシンが確実に発生しているってことまではわたしはウ
カツにも知りませんでした。特に、ドイツにおけるダイオキシン対
策の徹底ぶりを知らされて、これは大変なことだ、との思いを新た
にしているところです。
そして、ゴミを燃やした煙や灰に混じって、出てくるダイオキシ
ンがどうなるのか? 私も深く考えたことがなかったが、煙ととも
に、大気にまじって遠くへ飛んでいくのであれば、とりあえず自分
は被害を受けないですみそうすが、どうもそうではないらしい。ゴ
ミを燃やして発生したダイオキシンの内1〜2割が煙とともに空中
に飛散し、残りの8〜9割が灰の中に残るそうです。
 埼玉県の所沢市や狭山市に産業廃棄物の処分場が集中している地
域があります。最近この産業廃棄物の処分場地域を中心に調査した
半径4キロの範囲で、ダイオキシンが土壌中に蓄積していたそうで
す。処分場地域から1q以内の所沢市内では 100〜230ピコg(ピコは一
兆分の一グラム) とダイオキシン濃度が高く、周辺部へいくほど濃
度は低くなっているそうですが、産業廃棄物の処分場地域から所沢
の市街地がすっぽり収まってしまう4キロ地点のダイオキシン濃度
は、ドイツの基準値では、子供をその場所で遊ばせないという値が
出ているそうです。
 でも、これまで日本では農業や林業にたずさわる人が、せっせと
農薬として田畑や山林に除草剤といっしょにダイオキシンを撒き、
一般の人も、木材の防腐剤として使用しているのを消費者として何
の注意も払わずに受入れ、庭に除草剤とともにダイオキシンを撒い
てきたのですから、いまさら驚くこともないのでしょう。
ダイオキシンの毒性と被害の報告事例
 ダイオキシンの毒性が日本で広く知られたのは、ベトナム戦争で
のことだと思います。アメリカ軍の枯葉剤に含まれたダイオキシン
の影響を受けて生まれた、ベト君・ドク君が育つ姿をテレビの映像
を通して見て、多くの人がダイオキシンの恐ろしさを知ったと思い
ます。
 それにもかかわらずわたしたちは、目の前の大地や大気に蔓延し
ているダイオキシンについて、これまで知ろうともしないで、また
知らせず知らされずに来ました。でもこのままでよいはずはない、
いま、なんとか手を打たなければ、わたしやわたしの周りの自然の
生命にも重大な影響を及ぼし続けることは否めないし、取り返しの
つかないことになるとわたしは感じています。
 そこで、ダイオキシンの毒性について、これまで報告されている
主だった事例を確認してみよう。
 1945年頃 欧米や日本の塩化フェノール類を製造または使用する
工場で労働者の職業病という形で現れ、クロロアクネという塩素座
瘡(にきび状の吹き出物)や肝臓障害になっている。
 1962年〜1971年にかけて、アメリカ軍の枯葉作戦によって枯葉剤
(2.4.5-Tと2.4-PAの混合剤) 1770万ガロン(1ガロン3.785・でドラム缶
33万4972本分に相当する)がベトナムでまかれ、この中に含まれて
いる毒性の強いダイオキシンは、170Kg とも 550Kgとも推計され、
しかも、散布後の枯葉剤の一部は、アメリカ軍のナパーム弾による
ジャングル焼却にともない、ダイオキシン化している。
1970年以降現在に至るまで、ベトナムでは、これらのダイオキシ
ン類が、流産、胞状奇胎、先天異常などの増加と、肝臓ガンの発生
率を高くした原因となっている。また、枯葉剤に被爆した兵士や市
民の体組織中には、先進国の住民の約3倍のダイオキシンの蓄積が
みられる。
 一方、加害国アメリカでも、枯葉剤(2.4.5-Tと2.4-PAの混合剤)
を製造した工場周辺の土壌や水質、魚介類汚染が1976年頃から発覚
し、住民の立ち退き騒ぎもおきている。
 また、枯葉剤を浴びたベトナム帰還兵の中にも、ガンや子供の先
天異常が発生し、男性の生殖系にも影響を与えていた。
1976年7月のイタリア・セベソの2.4.5-トリクロロフェノールの製造工場の
爆発事故 この事故で飛散した2.3.7.8-四塩化ダイオキシンは、小動物や
家畜を多数死亡させたばかりか、被爆した住民も皮膚障害のクロロ
アクネ(塩素座瘡)や肝臓障害を引き起こし、その後、流産・先天
異常の発生率の増加が報告されている。
 工場周辺は、10年後(「農薬毒性の事典」三省堂の記述)もダイ
オキシン類の土壌汚染が続き、人が住めない状態になっている。
 ダイオキシンの毒性については、動物実験でも、発がん性・生殖
系障害・催奇形性・免疫毒性・肝毒性などが知られている。

これまでのダイオキシンの発生と汚染源

 ダイオキシンやジベンゾフラン類は、それ自体を農薬とし利用し
ようとする意図で合成されるのではなく、塩化フェノール類やその
誘導品を原料として製造される薬剤中に、不純物として混入してく
る副生成物として生成されています。しかも、原料の塩化フェノー
ル類は100%純粋ではなく、かずかずの異性体の混合物なので、製品
中に不純物として含まれるダイオキシンも、各種の異性体の混合物
として生まれることになる。
例えば、2.4-ジクロロフェノールを原料とする2.4-PA(2,4-D)
中には、含有が予想される2.7-二塩化ダイオキシン以外にも、三〜
四塩化ダイオキシン類が含まれており、4−クロロフェノール誘導
品を原料とするMCPはダイオキシン類が混入されないはずだが、
実際には検出された例がある。
また、塩化ベンゼン核をもつ農薬や有機塩素系農薬を焼却した場
合にもダイオキシン類が生成されるので、これらの農薬の容器や農
薬を散布した稲わらを燃やしただけでダイオキシンは発生している
そうです。

2.4−PA(2,4-D)
 カナダでは1ppb〜23.8ppm の二〜四塩化ダイオキシンを検出。
 カナダはダイオキシン含有量0.01ppm 以下の規制処置をしたが、日本は
規制なしで、製剤中のダイオキシン類の分析値も公表されていない。
  2.4−PA(2,4-D)の人体中毒症状
   頭痛、咽頭痛、胸部後部痛、胃痛、めまい、意識混濁、けい
  れん、失禁、体温上昇脈拍増加、血圧降下、肝腎機能障害、皮
  膚障害、目・鼻・咽頭・気管の灼熱感
2.4.5−T  
 除草剤登録1964年 9月 9日 失効1975年 4月17日
  2.4.5−トリクロロフェノールを原料にするため、猛毒物質の
2.3.7.8−四塩化ダイオキシンを含む。
  2.4.5−Tの人体中毒症状
   2.4.5-T の製造工場(日本では三井東圧)の労働者にクロロ
  アクネや肝臓障害が現れる。
   アメリカ・オレゴン州の空中散布で流産多発。ベトナムでは
  1970年前後から肝臓ガン、流産、先天異常の多発が報告。
CNP   ダイオキシン含有量 原体中0.2%強
除草剤登録1965年 2月27日
 ジフェニルエーテル系の薬剤で1.3.6.8-四塩化ダイオキシンを最
も多く含む。1971年以降の大きな汚染源。
 CNPに含まれるダイオキシン類の環境への放出は年間4トン以上
で、累積140トン を超え、CNPに由来する1.3.6.8-四塩化ダイオキ
シンが全国各地の水田土壌に残留している。秋田大潟村・大阪府・
兵庫県をはじめ、稲作防除にはCNPを使わないことにした農協が
出ている。
  CNPの人体中毒症状
   生産されたCNP原体(三井東圧大牟田)を製品化していた
  三西化学 (1961年操業福岡県久留米市1983.7操業中止) 周辺で
  頭痛、鼻血、下痢、のどや眼の痛み、肝腎障害に住民がなやま
  されていた。三井東圧と三西化学は農薬の毒性試験データを公
  表せず、農薬と健康被害との因果関係を否定して裁判で係争。
   住民の調査では、工場周辺の住民にガンによる死亡率が増大
  していたといいます。
MCP(MCPA)・ナトリウム塩
 除草剤登録1953年 8月 1日 他に、アリルエステル.エチルエステル.ブチルエステル.カリ
ウム塩.ヒドラジド化合物が登録されている。
 ポーランドでMCP製剤中に、不純物としてダイオキシン類を検出。
 MCP(MCPA)・カルシウム 塩  失効1973年 4月20日
 MCP(MCPA)・ベンジルトリエタノールアンモニウム 塩 失効1974年 8月13日
  MCP(MCPA)の人体中毒症状
   咽頭痛、胸骨後部痛、胃痛、頭痛、めまい、意識混濁、けい
  れん、失禁、体温上昇、肝腎障害、皮膚障害、目・鼻・咽頭・
  気管の灼熱感
NIP   ダイオキシン含有量 原体中26〜52ppm
 ジフェニルエーテル系の薬剤。
 除草剤登録1963年 1月23日   失効1982年 6月29日
  NIPの中毒症状
   残留農薬研究所でサルモネラ菌で変異原生。
   アメリカの研究でマウスに肝細胞ガン、ラットに膵臓ガンを
  発生。日本のメーカーは発ガン性の事実を公表することなく製
  造廃止に至る。
PCB(カネクロール)  ダイオキシン含有量 原体中20ppm  
  現在使用されていない。
PCP      ダイオキシン含有量 原体中1.9 〜720ppm
 八塩化ダイオキシンを多く含む。1971年までの大きな汚染源。発
がん性のヘキサクロロベンゼン(HCB) を0.4%含む。
  PCPの中毒症状
   日本では水田に除草剤として使用された時に年間数百件の魚
  毒死事件を起こした。
   1957年アメリカ PCPに含まれたダイオキシンが原因で雛
  鳥の水腫が発生し、数百万羽のブロイラーが死亡。
   人体中毒症状 食欲不振、甘味嗜好、多量発汗、不眠、倦怠
  感、脱力、頭痛、神経衰弱様訴え、関節痛、胃腸障害、皮膚の
  発赤、クロロアクネ、黒皮症、眼の結膜炎。
クロメトキシニル(X-52) ダイオキシン含有量 原体中232ppm
除草剤登録1973年 4月20日
  クロメトキシニル(X-52)の中毒症状
   頭痛、手足のしびれ、眼の充血と痛みなど
トリクロサン(イルガサンDP-300)
 ジフェニルエーテル系の薬剤で、スイスのチバ・ガイギー 社が開発。
 2.4-ジクロロフェノールを原料に合成される。トリクロサンで処
理された衣料品を塩素系漂白剤で処理した後、廃棄焼却すると、二
〜六塩化ダイオキシンが生成される。日本では農薬登録されていない。
 1988.1 チバ・ガイギー社は衣料品会社への出荷を停止した。
ヘキサクロロフェン   
 不純物として2.3.7.8-四塩化ダイオキシンを含む。2.4.5-トリクロロフ
ェノールとホルムアルデヒドを原料に合成される。
 日本では農薬登録されていない。
  ヘキサクロロフェンの中毒症状
   ラットの動物実験で中枢神経障害を起こした。
   1972年フランス ヘキサクロロフェンを6%含んだベビーパ
  ウダーで40人の赤ちゃんが死亡。
   スウェーデン 消毒用殺菌剤として使用した病院の看護婦の
  子供に先天異常が多発。
   1971.12 厚生省は、新生児や乳幼児の沐浴等の外用液剤とし
  て、皮膚の発赤・刺激感などの過敏症状が現れた時、広範な創
  傷や火傷の損傷皮膚に使用しないことを通達。
ヘキサクロロベンゼン(HCB)
 ダイオキシン含有量 0.4 〜270.2ppm(アメリカ)
市販のHCB中に、不純物として八塩化ダイオキシンが0.35〜5.83ppm,
八塩化ジベンゾフラン が最高211.1ppm含有されていた。
 日本では農薬登録されていない。しかし日本では、塩素系化合物
の製造過程で生ずるプロセス廃棄物中のHCB、産業及び一般廃棄
物の焼却場からの放出物中のHCB、また登録農薬中の不純物とし
て含まれるHCBが汚染源となって、環境汚染・人体汚染を引き起
こしている。
  ヘキサクロロベンゼン(HCB) の中毒症状
   1955〜1959年 HCB汚染小麦による中毒(トルコ)
   HCBを10%含む殺菌剤で消毒された種子が食用にまわり、
  皮膚の光感受性の亢進(顔や手足など日光に当たる部分の皮膚に
  水泡が生ずる)を始め、皮膚の脱色、多毛症、尿中ポルフィリ
  ンの増大、肝臓や甲状腺・リンパ腺の肥大、体重減少、手足・
  指・爪先の骨の退化などの中毒症状(PCT症状) が現れ、ト
  ルコ政府がHCB殺菌剤の販売を中止するまで、中毒による死
  亡者は3000〜5000にのぼったといわれ、16歳以下の子供が90%
  を占めていたという報告がある。
  1967サウジアラビア 多量の HCBがパンに誤って混入。腹痛、
  嘔吐、精神錯乱、けいれんなどの急性中毒になり、 490人が入
  院、うち7人が死亡。
   HCBを取り扱う労働者の中に、PCT症や尿中ポルフィリ
  ンの増大が多数報告。
   動物実験で、ハムスターに甲状腺や肝臓の腫瘍が発生、妊娠
  マウスでは胎児に口蓋裂や腎奇形が観察されている。

こんなところにもダイオキシン

ところでこれらのダイオキシン類が一体どこに行くのか、気にと
めていた人はあまり多くはなかったでしょう。多くの人は、風雨に
さらされて分解でもするのだろうと、思い込んでいたかもしれませ
ん。ところがどっこい、これらのダイオキシン類、分解もせず、農
薬本体の一部とともに土壌中に溜まりつづけているのです。
例えば農薬PCP起源のダイオキシン類は、この農薬の多量使用
時代(1955.4.6 殺菌剤登録.1957.3.30除草剤登録) が終わった13年
後にも残留が確認され、農薬CNP(1965.2.27除草剤登録) に由来
するダイオキシン汚染でも、宮城県産のシジミから最高39ppb(十億
分の一)のダイオキシンが検出されています。
また1986年の環境庁の調査でも、東京湾のぼらと大阪湾のスズキ
から1ppt(一兆分の一) のダイオキシンが検出されています。
1986年のデータですが、食品からは、鶏肉33.9ppt ・卵27.7ppt
・豚肉16.1ppt をはじめ、牛肉・魚・植物油・野菜・米麦からもダ
イオキシン類は検出されています。
1978〜1984年のサンプル調査 日本人の体脂肪や母乳からダイオ
キシン類が検出されています。この調査の母乳に含まれるダイオキ
シンの割合から、1日に摂取する母乳量から推計される赤ちゃんの
ダイオキシン取込量は、初産婦母乳で250 ピコグラム(ピコは一兆分の
一グラム)/Kg体重/日、経産婦母乳で160 ピコグラム/Kg 体重/日と
計算され、既に欧米に比べて甘い日本の1984年当時の評価指針(危
険性の目安として厚生省が作った言葉)100ピコグラム/Kg 体重/日を
越えている。
1996.11.16付朝日新聞の記事 全国十カ所の都市ごみの焼却施設
で働く男性作業員60人の毛髪から、ごみの焼却にたずさわらない大
阪府内の理髪店で集めた男性82人の毛髪と比較して、より高い濃度
のダイオキシンが検出された。記事ではこのダイオキシン濃度は明
らかになっていない。報告・摂南大薬学部・宮田秀明教授
 1997.1.13 付朝日新聞の記事 アメリカサウスフロリダ医大シェ
リー・リール博士が行った猿の動物実験(1993年発表) で、ダイオ
キシンを摂取した場合の子宮内膜症の発生率を調べたところ、1・
の餌にダイオキシン25ナノグラム(ナノは十億分の一グラム)を混ぜた
猿では7匹中5匹、5ナノグラムを混ぜた餌(この餌は体重1・当た
り 126ピコグラム)では7匹中3匹に発生し、ダイオキシンをまった
く混ぜない猿では子宮内膜症は発生しなかったという結果が出た。
なお、子宮内膜症にかかった女性は、流産しやすくなります。
日本での子宮内膜症に関する大阪医科大学産婦人科・植木實さん
の調査では、産婦人科の年間の患者 300人に占める子宮内膜症の患
者の割合は、1980年の24.4%から1990年の40.3%に増えている。
この子宮内膜症の増加にも、体に摂取されたダイオキシンが、Ah
受容体というたんぱく質とくっついて、DNAに働きかけ、環境ホ
ルモンの異常な分泌を促して、子宮内膜症を引き起こすことが一役
買っていると植木實さんは推測している。
そこでオランダでは、この実験データをもとに人間の体重1・当
たりの一日耐容摂取量を1ピコグラムとするよう政府に答申したが、
日本の環境庁の検討委員会は、指針値を5ピコグラムとする甘いもの
でした。

無農薬・有機農業なら安全といえるか?

 結論をいえば、「100%安全だ」とは言えないし、言うべきでない
と思います。それは、このダイオキシン類を筆頭に農薬や他の化学
物質の影響から、わたしたちは完全には逃れきれないからです。
もちろん農薬を直接、農産物に吹き付けるかどうかでは、決定的
な違いはあるにしても、有機農業をやっている田畑でも、土壌や大
気・水に含まれて周辺から流れてくるダイオキシンや農薬の影響を
全く受けずにいることはできない。
 大気中から、地上に降り注ぐダイオキシンの量は、四国の愛媛大
学農学部の脇本忠明さんの調査では、屋上に設置した水を張ったパ
ットに降り注ぐ量(1996年一年で1平方・あたり3.3ナノグラム)から推
計して、1年間に日本全土で1.7Kg となり、ベトナムで1年間に撒
かれたダイオキシン量の十分の一にもなるそうです。
しかも多くの場合、自分の田畑の残留農薬や残留ダイオキシン類
の検出をほとんど行っていないのが実情だから、実際には100%安全
だという保障を誰もできないのです。
また自家配合飼料で飼育の有精卵や放し飼いの鶏肉にしても、飼
料に農薬やダイオキシン類がまったく含まれていないことが明らか
でない限り、100%安全なものはなく、卵や鶏肉にも少なからず農薬
やダイオキシン類が残留していることを否定できない。
このようにダイオキシン類は、水、大気、土壌、河川や海の底質
などの自然界に放出され、放出された農薬やダイオキシンが、田畑
の農作物に蓄積し、それを食べた家畜やほかの動物・昆虫の体内に
蓄積し、川の水に混じったダイオキシンが、川の生物に蓄積し、海
に流れたダイオキシンが、魚介類に蓄積しているのが確認されてお
り、海草にも蓄積されていることは確実です。
さらに地下水や水道水に混じったダイオキシンと、人間の食物に
混じったダイオキシンが、めぐりめぐって少しずつ少しずつ人間の
体に入って、母乳や人体組織にも蓄積が確認されていることを見る
と、わたしたちの体には、すでに微量ながらもダイオキシンは入り
込み、蓄積されていると見ていいはずです。

まだまだ増えるダイオキシン

 しかもおめでたいことに日本では、現在もゴミ焼却炉や産業廃棄
物処理場からダイオキシンは煙とともに毎日散布され、わたしやあ
なたが塩化ビニール類を他のゴミに混ぜて小型の焼却炉などで燃や
した時にも、ダイオキシンを発生させているのです。
 ダイオキシンは、プラスチック・紙・木材・残飯などが不完全燃
焼した時にできるベンゼン環と、ポリ塩化ビニール(有機塩素系プ
ラスチック)や残飯に含まれる塩分の塩素が化合して発生していま
す。炉の中でできるダイオキシンは、 800°を超えるとほとんど分
解してしまうそうですが、炉の燃焼温度が低いと発生するダイオキ
シンは多くなるそうです。この時、炉の中ではダイオキシン前駆物
質も生まれているそうです。
 このダイオキシン前駆物質は、塩素や灰といっしょに煙突の方へ
流れていきながら温度を下げ、 300°ぐらいになると灰を触媒にし
て化学反応が活発になり、再びダイオキシンの発生が盛んになる。
そして、多量のダイオキシンが、非常に細かい微粒子に付着して、
煙突から出ているのです。
最近の発表で、ゴミ焼却炉のダイオキシン発生率は、焼却炉の燃
焼温度が 300°の時最高になり、 800°の時完全分解するので、ゴ
ミの焼却温度を 800°にする対策で、厚生省は決着をはかろうとし
ていますが、それでもダイオキシンは発生し、その一部は周囲の環
境に撒き散らされていることに変わりはありません。
 厚生省は、ダイオキシンの発生率を抑えればすむ問題(人体に影
響はない)であるかのように処理していますが、産業及び一般廃棄
物の焼却場から出る有害物質はダイオキシンだけでなく、ヘキサク
ロロベンゼン(HCB)が放出されているのが確認されており、日
本では産業及び一般廃棄物の焼却場がHCBの汚染源となって、環
境汚染・人体汚染を引き起こしているのです。
 また、少ないダイオキシンが蓄積されていく状態での毒性につい
ては無視しているのが実情です。一定の許容量(この数値は判って
いない)を越えてダイオキシン類を体に取り込んだ時、わたしたち
の体はいのちの営みのバランスを失い、これが子供のいのちにまで
影響を及ぼすことになるのです。いや、すでに影響を及ぼしている
と言っていいでしょう。
 九州大学・長山淳哉さんの調査では、母乳を通してダイオキシン
を摂取した赤ちゃんの一年後の血液中の生長に欠かせない甲状腺ホ
ルモンの一つ・チロキシン濃度を測定したところ、ダイオキシン摂
取量が多いと、チロキシン濃度は低くなるという結果が出た。
 また、免疫系(体に異物が入ると、ヘルパーT細胞がリンパ球B
細胞に指令を出して抗体を作り、作り過ぎるとサプレッサーT細胞
が抗体を作るのを抑える指令を出している)への影響では、ダイオ
キシン摂取量が多くなるとヘルパーT細胞が増加し、サプレッサー
T細胞が減少するという結果が出た。
いま日本は長寿国だと言っていますが、実際には日本の大気・大
地・水は、人間が早死にするのにとても良い環境になるレールを突
っ走っていると言えるでしょう。皮肉にも、これからの世代は、老
後を心配する必要がなくなる人が増えることでしょう。肝臓病が増
え、さらに肝臓がんになること間違いないからです。また、免疫機
能の低下から感染症にかかりやすくなり、これまでなんともなかっ
た細菌の感染によっても死に至るケースが増えることでしょう。
これまで蓄積されたダイオキシンが、日本中に充満している事態
は、いまさら変えようがありません。でも、いのちを危うくするダ
イオキシンなどの物質を、これ以上この地球上に増やさないように
することは、今からでもできます。それでもあなたは、せっせとダ
イオキシンを地球上に溜め込む努力をつづけますか?
 塩ビ(塩化ビニール)燃やして吸い込むダイオキシン。
 塩ビ(塩化ビニール)燃やして大地も水もダイオキシン。
 ダイオキシンこれで老後の憂さも消え。
 ダイオキシン増やしてあなたも早死にを。
それでもあなたはダイオキシン?

参考資料・「農薬毒性の事典」三省堂刊
 今回のレポートでは「農薬毒性の事典」三省堂刊から文章やデー
タを多く引用しています。そこで、多用したデータの中には、現在
では検出されない数値があると思います。その点ご承知おきくださ
い。また気づかれた点があったり、最近の検査データをご存知の方
はお教えくだされば幸いです。
 

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