2018年度9冊目 
Stapledon, Olaf - Sirius (1944)
オラフ・ステープルドン『シリウス』

 

読書期間18.8.07-9.15 18.09.16記


 オラフ・ステープルドンのSF小説『シリウス』を読了。なかなかはかどらず、40日もかかってしまった。
 この小説、、まったく予備知識なしに読み始めたのだけれど、すぐに文体がしっかりしていて、気品があって、受験文法的に正統的な(笑)ことがとても気に入った。 で、あまりに格調高い文章なものだから、改めてググって調べてみたら、これ、1940年代のイギリス小説だったのでビックリしてしまった。古典だったんだ・・・てっきり、60年代くらいのパルプ小説かと思っていたんだけど。ステープルドンという人も専業のSF作家ではなくて、哲学者だったらしい。それはこの小説の内容からしても十分納得がいくことだった。
 話はタイトルから連想されるスペースオペラ的なものとはかけ離れていて、ある科学者の実験によって生まれた、人間と同等の知性を持つ犬シリウスの一生を描いた話。ほぼ同時期に生まれた科学者の娘プラクシーと兄妹のようにして一緒に育てられることから、プラクシーとの愛憎半ばした強い繋がりを主軸に、人間社会との相克や観察、さまざまな経験を描いていく。
 猫が主人公の話はいくつか読んだことがあるが、犬の話は初めてかも。猫が主人公ならば人間様を餌をくれる都合のいい相手くらいにみなして皮肉な目で観察する、超然としてのどかなお話になりそうなものだけど、これが犬だと人間社会になんとか溶け込もうとあがいて果たせない、愛憎の振幅も大きくて、まったく疲れる話になってしまうのだった。
 個人的に私は犬とはほとんど接した経験がないので、あまりぴんとこなかったけど、犬好きの人の琴線に触れる描写も多いのかもしれない。最後のほうなど、犬的な行動の描写を猛烈に力を入れて描いている。犬を飼っていた人は泣いてしまうかもしれないね。
 変な点もかなり目に付いた。まず、西欧人的だなぁ〜と感じてしまったのは、愛情や信頼を、言葉にして発さないと相手を信頼できないところ。これは人間のなかでも西欧人的なのだから、犬がこうなるのはおかしいと思ってしまったよ。相手の感情を嗅覚で察知できるという描写があるのだから、この上言葉にばかり頼って愛と是認の言葉を求めるのは犬としておかしいんじゃないだろうか。あと、最後のほうはキリスト教徒の狂った一面が生々しく描写されていて気持ちが悪くなった。このあたりの展開は「知性を持った犬」という設定よりも現実味に欠ける気がしたけど、魔女狩りとか、こういう集団心理って向こうにはよくあることなのだろうか。というか、最後のほうは動物小説というより、人種問題を扱った小説みたいだったね。黒犬って何かの暗喩なんじゃないかと思ったよ。ルイス・サッカーの『穴』にもこういうの、あったよ。
 最後の場面はなんともいえなかった。増村保造監督梶芽衣子主演の『曽根崎心中』を思い出してしまったよ。
 教訓としては「馬鹿者をバカにして甘くみると手ひどいしっぺ返しを食うから気をつけろ」ってことかな。
 とはいえけっこうよかった。機会があったらこの著者の本、また読んでみよう。

★★★★☆


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