2020年度5冊目

Silverberg, Robert - The Second Trip (1972) 

 

読書期間20.4.27-5.28 06.04掲載


 シルヴァーバーグ5冊目。前回の'To Live Again'と合冊の電子本で読んだ。

 近未来のアメリカ。重罪を犯した人間は、元の人格を完全に抹消され、代わりに人工的に合成された安全な新しい人格を注入されて、新たな名前と経歴も与えられ、「リハビリ」センターで数年間におよぶ職業訓練を受けてから、全くの別人として社会復帰するようになっている。

 天才彫刻家として一世を風靡したナット・ハムリンは、連続レイプ事件を起こして逮捕され、人格を抹消されて新しい人格「ポール・メイシー」としてテレビ局で働くことになる。出勤初日、ポールは会社に向かう途中、彼をナットと呼んで縋り付いてくる奇妙な赤毛の若い女と遭遇する。過去の人格と関わりがあったらしい彼女との出会いがきっかけとなり、彼の内部では消滅したはずのハムリンの人格が蘇り、奪われた肉体を奪還しようと、様々な攻撃を仕掛けてくるようになって・・というようなお話。

 'To Live Again'と合本になっていることからも窺えるように、脳に新たな人格を移植して、複数の人格が共存するようになるというアイディアが共通しており、主たる人格に対し、もう一つの人格が攻撃を仕掛けて乗っ取りを図るというシチュエーションも一緒で、物語につながりはないもののほぼ同一テーマの再話と言えるだろう。
 とはいえ登場人物がたくさん出てきてプロットも複雑かつよく練り込まれていた前作とは異なり、本作は主要登場人物がメイシーと、ハムリンの元モデル兼愛人の赤毛娘リサ、そしてメイシーの内部に巣食うハムリンの3名(2名?)にとどまり、メイシーが脳内の戦いで消耗し続ける傍ら、リサは望まぬテレパシー能力によって他者の意識の浸食を受け続け(ここは同年の『内死』と共通する)、文字通り廃人に近くなっている。ハムリンの犯罪のいきさつと言い、すべてがとにかく暗鬱で、読んでいて気が滅入ってくるような作品だった。

 洋書の場合、本当につまらない、あるいは自分に合わない、あるいは難易度等の関係でまだ読む時期ではない本だと、日本語のように斜め読みでしのぐという技が使えず、途中で放り出す結果となりがちなのだけれど、この本はそれなりに面白く読み終えることができたのだからさすがの才筆である。でも、話は暗鬱で単調、クライマックスもありがちで、まあ駄作の部類と申す外なかろう。

 英文もかなりラフで、文になってない名詞句を並べただけで状況を描写したり、分詞構文単体がフル活用されていたり、言語は違えど日本の安手のエンタメ系小説と共通する文体が用いられている。英語学習者にもちょっとこれはお勧めしかねる。
 同年の『内死』とは同じ作者と思えぬほどすべてにおいて雲泥の差。これじゃ未訳なのも致し方ないかな・・

★★☆☆☆


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