脳性マヒについて(総論)

2002年11月

 城北養護学校で行われた学習会の内容です。脳性マヒについて1回目の学習会で、全般的な見方、考え方について行いました。

総論では、脳性マヒの障害の全般的な特徴を理解し、そのことから評価、目標設定、方針をどのように考えていけばよいかについて話します。

1,定義

CPとは、受胎から新生児期(生後4週間)までの間に生じた脳の非進行的病変に基づく、永続的なしかし、変化しうる運動及び姿勢の異常である。その症状は満2歳までに発現する。進行性疾患や一過性の運動障害または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外する。」

 4週以降の障害は、原因がはっきりわかりやすいので、脳性マヒという障害名でなく、その原因を元に障害名をつけることが多い。症状はCPに似ている。例えば、脳炎後遺症、頭蓋内出血後遺症、急性脳症後遺症など。早期に障害をもったという点では似ているので、アプローチの方法も共通するものが多い。しかし、違う点もある。

非進行的病変であるが、変化しうる運動及び姿勢の異常というのは、学校で見られる様子を考えるとわかる。これは、未発達な状態で障害を受けたことによる。発達の方向として、よい方向へ進んでいく場合と、異常な方向へ進んでいく場合と、これが混ざって発達していく場合がある。

ここで資料の写真の例を見てみましょう。上の方のケースでは、変形が進行したりしながらも、手術をしたり、杖歩行を獲得したりして、成長とともに機能を獲得していった様子が分かります。下の方のケースでは、アテトーゼによくあることですが、幼児期はそれほど異常な姿勢の固定化は進んでいないのですが、だんだん、姿勢が左右非対称になってきています。それでも、おそらく生きていく中で、いろんなことをやってきたのだと想像できます。だからこそ、緊張も強くなったり異常な姿勢が出てきたりしたのだと思います。

2,原因

@     胎生期

原因は様々だが、胎生期が原因の障害は増えている。胎生期の場合は胎内で成長していく過程なので、脳の神経の障害だけでなく、その他の部分や体の障害も伴っていることもある。原因として考えられるものに、遺伝子、染色体、感染症、放射線などの化学因子、胎生期の妊娠中毒などによる低酸素症。また、胎生期に問題を持った場合に、周産期でも問題を持ちやすい。

A     周産期

以前は、周産期の新生児仮死、核黄疸、鉗子分娩が、脳性マヒの3大原因だったこともあるが、現在はこれだけの原因での脳性マヒは非常に少なくなっている。

早産で低体重出生児が、呼吸障害によって脳に損傷を受けることがある。多胎出産の増加と医療の発達によって、低体重出生児が増加したので、この原因によるものは増えている。特に脳室周囲白室軟化症(PVL)が増えている。

その他、新生児低血糖症、周産期の中枢神経感染症などがある。

B     新生児期、生後

中枢神経感染症、急性脳症、頭部外傷、呼吸障害、心停止、痙攣重積症、脳血管障害などがある。前に述べたように、4週以降にこのような原因で障害を生じた場合は、脳性まひでなく、その原因の障害名がつけられる。

3,症状、合併症

@     運動機能の障害

脳性マヒの主症状ですが、これについては評価のところで詳しく説明します。

A     知的障害

脳の障害が、運動に関する部分だけでないことがあるので、知的障害を合併することが多いです。肢体不自由養護学校へ来る子どもには特に多いです。知的障害の合併は近年増えているといってよいでしょう。

B     てんかん

てんかんによる発作そのものだけでなく、いろいろな面で影響することが多い。例えば、覚醒がはっきりしない、生活リズムが不規則になる、活動の制限があるなどです。

C     言語障害

運動機能の障害としていわゆる構音障害があります。聴覚障害が、影響することもあります。また、知的障害として、言葉の概念が発達しない、理解できない、発音が広がらないなどがあります。

D     視覚、聴覚障害

単に視覚の障害だけでなく、視覚を分析、統合する機能としての視知覚の障害をもつことがあります。聴覚障害はアテトーゼ型に合併することが多いといわれています。

4,発達の障害であるということ

@     後天的な障害ではないこと

体ができていない時期に受けた障害なので、筋肉、皮膚、肺の組織、神経組織などが、元々十分でなく生まれてきた上に、その後も十分に発達していかないことがあります。例えば、筋肉も十分に組織として発達していないので、ストレッチや筋力の強化も方法に工夫が必要になってきます。重度の障害になると肺の組織も未熟さを残して発達してきているので、肺理学療法も成人の方法とは違ってきます。

大人になってからのアプローチの方法がそのまま当てはまらない場合があります。例えば、姿勢バランスを獲得するときでも、初めて学習するわけですから、時間がかかる上に、学習していくきっかけや機会も作らなくてはなりません。また、経験したことのないことを新たに学習するので、言語指示で訓練をすることが難しくなります。

障害をもった状態で生きてきたので、感覚も障害を持って生活してきた状態で作られてきます。従って、正常な姿勢や筋肉の感覚というのは、経験していません。従って、正常な姿勢や筋肉の状態を学習していくのは工夫が必要といえます。

障害の部位や程度によっても、生まれてからの生活の送り方によっても、子どもそれぞれの様々な臨床像を持ちます。つまり、同じような障害部位であっても、そこから障害を受けていない部分を使って脳は成長していくのだから、発達の仕方は、どのような環境でどのように活動したかによって異なる発達をしていくということです。

 A     発達の可能性。(発達の難しさ)

どのように道を開いていくのか。普通の子育てとどう違うか。

発達の可能性は大いにあるが、限界もあり、時間がかかり、また異常発達や、二次的な障害等の困難が生じることがあります。普通の子育てと同じようにやっていかなくてはならないが、子どもの今の状態をしっかりと捉え、成長・発達のための必要な援助をしていくことが大切になってきます。このことは、中心となる親にとっても大切なことだが、同様に関わる専門家や周囲の人にとっても大切なことです。

あらゆる可能性を求めるのか。制限付の可能性を求めるのか。

上記の発達の可能性の限界というのをどう考えるかということですが、障害があるから、最初から限界が見えるのではなく、生活の中での必要性や希望というところで捉えていくべきではないでしょうか。必要性や希望があるのならば限界にチャレンジするべきでしょう。チャレンジしつつ、できることを着実に増やしていくことが大切でしょう。

正常な発達の順を追うのか。

正常な発達においては、首座り→寝返り→お座り→四つばい→はいはい→膝立ち→立位→伝い歩き→歩行という順序がありますが、これはできるようになる順序であって、この順番に練習しているわけではありません。実際の子どもの発達をよく見ると、次から次へと同時並行的にいろんなことをやっています。例えば、寝返りができる前から立位をとることを好み、親に立たせてもらっています。脳性マヒ児の発達を考えるときに、正常な発達の要素をできるだけ獲得していくことは大切ですが、歩行まで獲得する場合はかなり少ないといえます。その子にとってその時期に必要なことを行っていかなくてはなりません。また、健常児の発達は自然に環境の中でできるようになることが多いですが、脳性マヒの場合、必要な時期に必要なことを意図的に導入していかなくてはなりません。例えば、立位をとることは全身に体重を負荷し、抗重力筋をよい状態で発達させるには、できるならば、是非必要なことになるでしょう。そのときは、適切な介助をしたり、道具を使ったりしながら、機会を作っていく必要があります。

       代償をどのように用いていくのか。

代償という考え方にはいくつかの異なるレベルがあります。まず、神経回路自体が代償として新しく回路を形成し、できなかったことができるようになること。これが、一番レベルの高い代償と言えるでしょう。次に、その動きではできるようにならなかったが、他の動きでできるようにしたことです。例えば、鉛筆の持ち方は通常の持ち方はできないが、違う持ち方で字が書ける場合です。そして、次が、他の動きを用いてもできるようにならないが、道具など別の手段でできるようになることです。例えば書字の変わりにパソコンやコミュニケーションの道具を使うことです。できるならば、最初に述べた代償ができればよいのですが、どれを用いるかは考えていく必要があります。

環境が不利に働くことがある。

この場合の環境とは、重力とか、周りの刺激とか、成長に伴う生活の変化などです。例えば、地球に生きている限り重力に抗した姿勢をとらなければならないのですが、その中で姿勢をとったり動いたりすることによって、緊張をつよめたり、変形が起こったりする場合があります。また、学習、日常生活動作の獲得や職業につくことによって、努力を強いられることが、障害を重くすることがあります。これらの中には避けられないものもあるので、どのように対処するかが重要になります。

B     知的障害と運動障害

知的障害によって、運動発達が阻害されることがあります。運動や姿勢をとることに対する意欲の不足があります。

運動障害によって知的発達が阻害されることがあります。これはまったく影響がないこともあります。重度重複の場合は、姿勢をとったり動くことが困難なことによって、周囲の環境から学んだり、人間関係を獲得していくことがさらに不利になることがあります。

C     行動上の障害

       自傷、自己刺激、常同行動、注意を引く行動

外界(環境や人)にうまくかかわれないことによって、自分の体に向かってしまったり、関わり方を誤学習したりすることが考えられます。

対人関係の問題

いろんな要素がありますのでここでは説明を省略します。

D     二次的な障害

脳性マヒに成長の過程で起こる、脊柱の変形、脱臼、可動域制限、呼吸障害、消化器の障害などのことを言いますが、もともとは脳の障害なので直接これらの問題は起こらない訳なので二次障害(二次的な障害)といいます。

早い場合は、乳児期から起こってきます。脱臼、可動域制限は軽度の障害でも起こります。

E     加齢による障害(資料) 

二次的な障害とも関連します。特に成人期以降に健常者よりも早く体力の衰えがやってくることによって、起こります。また、特に、社会生活を送るに当たって、過剰な努力をすることによってさらに起こりやすくなります。例として出ている資料の人は、かなり重い障害にもかかわらず松葉杖歩行を獲得し、さらに食事動作も自立するようになった。しかし、頚椎症により寝たきりとなってしまった。

元々の障害に加え、加齢に伴う障害の変化に体が対応できなくなる。

緊張が強くなることによって、今までできたことができなくなる。

障害の変化によって体調を崩す。

アテトーゼによって頸椎症になる。頸椎症の症状としては、脊髄損傷に似ているので、脳性マヒと合併した症状になる。

疲労や体の痛みによって活動が不活発になる。

・ これらの加齢による障害が、本人にとって予想できない。このことに対しては少なくとも、本人にもこのようなことが起こりうることは知らせていき、今までの療育の経験を生かして、できるだけ加齢による障害が負担にならないよう、周囲も配慮していく必要がある。医療機関でチェックを受けていくことも必要です。

5,家庭、社会

脳性マヒ児は、家庭の全体の生活に影響します。家族が障害の受けとめを早期にできるかどうかが大切になります。子育て自体も難しいのですが、親も成長していくことも難しい課題になります。

教育や就職など社会参加の機会が限られがちになります。以前に比べて改善されたといっても、様々な困難があることには変わりありません。

いろんな場面で役割を果たすことが制限されます。どんな小さいことでもよいから、役割をはたすことによって精神的な自立が得られるし、相手も関わり方に変化がみられてきます。

6,評価 

評価は何のために行うかというと、どのような目標を目指してどのような取り組みをするのかを見つけるためです。細かい評価よりもまず全体像をとらえることが大切です。まずありのままに見て、そこから、今、または将来に必要なこと行うべきことを見つけていき、それを行うための問題点と解決の方向を探ります。そのときに、研究や実践の蓄積から学ぶことが有効になります。これについては、次回からの説明で行います。

姿勢・動作 

どの姿勢・動作ができていて、どの姿勢・動作ができないのかをみます。また、それぞれの姿勢、動作の特徴を上げます。資料にはパターン化された姿勢というのがあります。その子にとって限られた姿勢しかとれないと、変形が起こりやすく、また、筋肉も均等に発達していきません。

 ビデオの例をみてみましょう。この子は、背臥位では、反り返りの緊張が強く、上肢は屈曲の姿勢になります。また、左凸の側弯が強く出ます。腹臥位は、床の上では難しいのですが、このように高くなったところならばとることができ、側弯の短縮部分も伸ばしやすくなります。座位は床座位を自分でとることができません。ビデオではみられませんが、立位をとることができません。寝返り、四つばいといった姿勢変換や移動もできません。

筋緊張

筋緊張の評価は、まず、他動的に動かしてみることから始まります。動かして抵抗が普通より強かったら、筋緊張が高く、逆に抵抗が弱かったら筋緊張が低く、筋緊張が変化するようだったら、緊張が動揺しているといいます。筋緊張が高いというのを詳しく調べてみると、動かしたときの最初に抵抗があるときは痙性といい、最後まで抵抗が残る場合を固縮といいます。筋緊張は触って確かめることができる場合もあります。筋緊張は、場所によって違います。また、姿勢によって変化することがあります。正常な筋緊張でも、寝た姿勢よりも起きた姿勢の方が高くなります。ただし、高すぎることはありません。また、動作の時に変化することがあります。姿勢や動作が難しいことと筋緊張の異常は関連が深いので、よく考える必要があります。

 ビデオの例をみてみましょう。上肢や下肢を動かすときに抵抗があります。

筋緊張は高いといえます。最初だけでなく、最後まで抵抗があるので、固縮の方でしょう。背臥位よりも腹臥位の方が少し低くなりますが、それでも正常よりは高いです。

姿勢反射(図参照)

姿勢反射は、正常なものは姿勢がうまくとれるためのものです。逆に、姿勢がうまくとれることを阻害する反射もあります。それは原始反射としていつまでも残存していたり、異常な反射として存在していたりする、姿勢が上手にとれません。図では、上の自発的な運動の条件として、下の姿勢反射があるという考えに基づいています。例えば、足の把握反射があると立位がうまくとれません。座位での保護伸展があることによって座位が上手にとれます。

 ビデオのケースでは、座位の平衡反応を調べていますが、出ていません。保護伸展については、左側は出ているようにも見えますが、伸展の緊張が強い状態で上肢が伸びているというように見た方が妥当でしょう。

関節可動域

関節可動域は、姿勢や動作に大きな影響を与えます。

ビデオのケースでは、肩の屈曲制限(上肢が上に上がらない状態)があります。筋緊張が強いときはさらに制限が強くなります。肩の屈曲制限があると、うまく腹臥位がとれなくなるので、可動域の確保は大切になります。

感覚

触覚が過敏だったり、逆に鈍麻だったりすると姿勢や運動に影響を与えます。

関節がどんな位置にあるかとか、筋肉の収縮の度合いなどの固有覚も影響を与えます。

 ビデオのケースでは、感覚についての評価は難しいようです。

視覚、聴覚

視覚や聴覚も、何に頼って外界と接しているのか、環境を認知しているのか、課題を理解しているかなどに大切です。

 ビデオのケースは、視覚は眼鏡によって少し改善されますが見にくいことは確かです。ボールを落とす課題では視覚だけでなく触覚にも頼っているようです。また、転がるボールを追うことはできないようです。

上肢の発達

上肢で何ができるかを知る必要があります。

ビデオのケースでは、手は握りこんでいることが多く、この映像では、握ったまま手を動かしてボールを落としています。

認識

課題において、または生活においてどれくらい物事を理解しているかの評価です。

ビデオのケースでは、課題の理解ができているようです。 

対人関係

ビデオのケースでは、この時間について、担当の意向を理解しているようです。

コミュニケーション

ビデオのケースでは、言語理解では名前はわかっていますが、その他についてはどれくらい理解しているかわかりません。発語はありませんが、発声で意思表示をすることがあります。ただし十分に意思を伝えることは難しいようです。

食事

ビデオでは写っていませんが、初期食や中期食を舌の前後運動で食べています。痰がからんでうまく食べられないことがあります。

呼吸

ビデオのケースは痰がからみ喘鳴が聞こえることがあります。

日常生活動作

ケースでは全介助です。

生活・社会性

ケースでは、家庭や学校における生活や人との関わりを楽しめています。

 7,目標設定(資料参照)

資料では、脳性マヒ児を障害の程度でクラスに分け、それぞれについての目標を提示しています。いずれも、これから運動のレベルが上がる可能性と同時に、低下することも予想し、それに対する目標が書いてあります。下に書いてある目標は私が共通するものとしてまとめたものです。個々のケースにおいて、本人や家族の希望を元に具体的に決めていく必要があります。

健康の維持、向上。

変形の予防。

日常生活動作の向上。

コミュニケーションの向上

課題ができるようにする。

社会参加できるようになる。

ケースでは、筋緊張の高さや、姿勢がとりにくいことから、変形が強まったり、呼吸食事などの問題が生じたりしないようにすることが一つの目標になるでしょう。また、何らかの形で意思表示できるようになることは本人家族の希望でもあります。

 8,方針

目標を達成するための方針としては次のようなものが考えられるでしょう。

様々な姿勢が上手にとれるようにする。

抗重力姿勢がとれるようにする。

動きを促す。姿勢変換、移動ができるように。

関節を動かす。普段と違う動きを経験していく。

周囲の環境に適応できるようにする。環境の側の整備も必要。

手を使った動作、探索活動。外界への積極的な関わり。

ケースでは、筋緊張が高まらず、変形が強まらないように、姿勢をとり、関節を動かす必要があります。具体的には、側弯、体幹の反り返り、肩の屈曲制限を改善しながら姿勢をとり、体を動かすことです。そのことが呼吸や食事によい影響を与えるようにしたいと思います。また、コミュニケーションに役立つような手を用いた課題を、姿勢や視力障害に配慮し、行っていきたいと思います。

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