脳性マヒーその4
痙直型両マヒについて

2002年12月18日

城北養護学校で行われた学習会の内容です。脳性マヒのタイプ別についての第2回目です。

1,痙直型とは

筋緊張の評価で、動きにくくて抵抗があるときは、痙性、痙直といいます。

痙性、痙直が体のどの部分に広がっているかで、大きく分けて四肢マヒ(Qaudriplegia)、両マヒ(Dyplegia)、片マヒ(Hemiplegia)の違いがあります。

 四肢マヒとは、全身にマヒがあるタイプ、両マヒは下半身(骨盤から下)にあるタイプ、片マヒは半身にあるタイプです。今回は両マヒについてです。

 

2,痙直型両マヒの様子

痙直型両マヒは、前回話したように、四肢マヒと状態が重なることがあります。両マヒが重度になると四肢マヒになっていきます。逆に四肢マヒが軽くなると両マヒになっていきます。両マヒになると、重度でなければ独歩まで至ることが多いです。

     発達の経過

骨盤から下が動きにくく、健常児が赤ちゃんのとき行う背臥位のキックでは、動いても十分な範囲を動かすことができません。腹部の筋緊張が低いことも特徴です。動くパターンも股関節が内転、内旋し、膝は屈曲し、足関節は底屈の動きになってしまいます。つまり、いろんな動きができません。這い這いも下肢を引きずるか、片方の下肢だけでキックします。立つようになると、先ほどの下肢の動きのパターン、つまり股関節の内転、内旋、膝の屈曲、足の底屈の状態で立ちます。左右差が出てきて、片方の足に多く体重がかかります。片方が内反し、もう片方は外反になります。下肢の変形拘縮が出てきて、そのため立てなく歩けなくなり、手術をすることがあります。手術するのは、股関節の屈筋(腸腰筋)、内転筋、ハムストリングス、アキレス腱または下腿三頭筋などの延長術です。内反、外反を直すために、後脛骨筋、腓骨筋群などを手術することもあります。一度だけでなく何度か手術を繰り返すこともあります。

座位は、腹筋が弱く骨盤も固定できないで後傾または前傾位になります。このとき上肢を使おうとしても、骨盤後傾の場合は手が前に出ず、骨盤前傾の場合は体が支えきれず前に倒れてしまいます。上肢の動きは、使えたとしても前腕は回内位になり、手指の伸展、拇指の対立がしにくかったりします。

     立位、歩行の評価

立位をとると、股関節の内転、内旋、膝の屈曲、足の底屈になり、重力でつぶれたような姿勢になってしまいます。歩行すると、下肢と骨盤の分離がなく、骨盤、体幹と下肢を同時に振り出しています。

     伸展タイプ

両マヒを伸展タイプと屈曲タイプで分けることができます。伸展タイプは、より機能がよいので、歩くときに骨盤を前傾位で固定し、腰椎の過伸展を用いて体幹を伸展させて、左右に体重を移しながら、歩くことができます。ただし、回旋を用いた歩行はできません。

     屈曲タイプ

屈曲タイプは伸展タイプに比べて、伸展の力が弱く、骨盤を前傾、腰椎を過伸展位にもっていくことができず、体幹が伸展できません。体重を左右に移すことが難しく、後にしりもちを着くか、前に倒れてしまうことがあります。独歩はできても不安定で、杖歩行にとどまる場合も多いです。

 3,アプローチの考え方

 子ども自身が、自発的な運動をするようにしていくことが大切です。

まず、屈筋痙性が強い場合は、動きが出にくいので、これを抑制します。

そして、伸展、外転の動きを出すようにします。特に股関節の伸展は大切です。

ここまでは、抗重力姿勢でなく、臥位で行う方がうまくいく場合が多いです。その上で、抗重力活動の促進を行います。しかし、必要がなければ最初から抗重力姿勢で行ッ手も良いです。

回旋の動きが苦手なので、座位や立位や歩行で、骨盤と体幹、骨盤と下肢、上肢と下肢等の間に回旋の動きが入るようにします。

立位では、体重が前にかかってしまうので、伸展しながら後に体重を移すようにします。このとき、骨盤は前傾から後傾にもっていくようにします。その上で、前方、後方、側方の体重移動ができるようにします。

次に一側下肢での体重支持の練習をして、歩行の準備をしていきます。抗重力の活動が十分できることが必要です。また、発達のところで述べたように、左右差が生じやすいのでこれをできるだけ防いでいきます。

上肢は、引き込んで使うことが多いので、上肢の使い方を学習していく必要があります。座位で上肢を使うときに、体幹、骨盤が固定できるようにします。適切な上肢の動きによって、よい姿勢や動きを引き出すこともできます。

両マヒは日常生活でできることが多いのですが、立位も座位もバランスが不安定で、そのため、上肢も使いにくかったり、連合反応が起こったり、痙性が強まったりすることがあります。日常生活動作の方法を指導する必要もあるでしょう。

4,実技

     四肢マヒのときと同じようにバルーンを用いた痙性の抑制。支持の促通。

     腹臥位で、股関節、体幹の伸展。腹部、肩甲帯、上肢の支持性を高める。

     背臥位で、ブリッジ。片足で支持したブリッジ(図)。膝伸展位のブリッジ(図)。

     座位で骨盤の前傾(膝を介助して)

(骨盤を前後からはさんで持ち上げるように)

(一度後傾させてから前傾へ)

     立位で、手で支えながら骨盤を前傾位から後傾位にもっていく。

     立位で、後方にもたれて体重を後ろに移す。左右の体重移動。

     足を前後に開いて立ち(ステップ肢位)、前側の足を介助者の膝の上にのせる。

     上肢の使用。両手でボールを持ち上げて入れる。筒を机の上で転がす。鉛筆削り。

5,変形について

 脊柱は、屈曲タイプだと後弯、伸展タイプだと、特に腰椎の前弯。一側または両側の股関節の亜脱臼。股関節、膝関節の屈曲変形。下肢全体の内旋、内転。内反、または外反尖足。

 6、症例

     まだ、独歩には至らない例

PCW歩行器での歩行が可能です。上肢は使えますが、あまり応用的な遊びはできません。肩甲骨が内側に入っていて上体は屈曲気味です。歩行器では下肢が内旋気味ですが、外転や外旋の可動域は正常です。足関節は両足に尖足内反の緊張が強く、とくに左に強いです。訓練内容は歩行器での歩行の他に、座位でのバランスの練習をしています。骨盤の動きを用いてコントロールできるようにしたいと思います。立位での訓練もしたいのですが、なかなかやってくれません。

     実用的には杖歩行だが、独歩も可能な例

自分の担当ではないので、歩行の様子を紹介するのみです。体幹を伸展で固定できています。回旋を用いず、左右の体重移動を用いての歩行です。右の方が尖足と膝の屈曲が強く、支持が十分できません。杖歩行では杖をつくタイミングに左右差があります。手術をすでに2回行っています。

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