脳性マヒについてーその3ー
痙直型四肢マヒについて

2002年11月28日
城北養護学校で行われた、学習会の内容です。脳性マヒのタイプ別について行った第1回目です。

1,痙直型とは

筋緊張の評価で、動きにくくて抵抗があるときは、痙性、痙直といいます。

痙性、痙直が体のどの部分に広がっているかで、大きく分けて四肢マヒ(Qaudriplegia)、両マヒ(Dyplegia)、片マヒ(Hemiplegia)の違いがあります。

 四肢マヒとは、全身にマヒがあるタイプ、両マヒは下半身(骨盤から下)にあるタイプ、片マヒは半身にあるタイプです。今回は四肢マヒについてです。

 

2,痙直型四肢マヒの様子

同じ痙直型四肢マヒでも、いろいろな障害像があります。障害が重いと、重度重複障害の状態になります。障害が軽くなっていくと、上肢が使えるようになり痙直型両マヒの状態になってきます。逆に、痙直型両マヒの子どもの障害が重くなっていくと上肢も使いづらくなり、痙直型四肢マヒの状態になっていきます。両マヒと四肢マヒの境目はわかりにくいです。

筋緊張の状態も様々です。体の部分で全ての緊張が強いとは限りません。逆にある部分の緊張が低いこともあります。例えば、四肢の緊張が高く、体幹の緊張が低いという場合もあります。また例えば、同じ肘関節でもそのときによって、曲がる緊張が強くなっているときと、伸ばす緊張が強くなっているときがある場合もあります。基本的には低緊張だけれども、痙性も持っている場合もあります。

痙性、痙直というのをよく見てみると、痙性が強い筋があり、その拮抗筋というのは、筋が働きにくいのが特徴です。例えば、下腿三頭筋に痙性があると、その拮抗筋である前脛骨筋が使いづらくなります。反対に下腿三頭筋の痙性が抑制されると、その拮抗筋である前脛骨筋が使えてきます。痙性のある筋というのは必ずしも強く働くというのではなく、痙性がある筋なのに力は弱いという場合が多いです。また、痙性のある筋は、力が入って短くなっているときは支持力があるが、伸ばされると力が入らないということもあります。これは例えば、膝が伸びきっていると体重を支えられるのに、膝が少し曲がってくると支える力がない場合です。

痙性の状態は、ある程度の範囲を動かすと力が抜けることが多いのですが、動かしてもなかなか力が抜けない場合もあります(固縮)。また、拮抗筋とともに緊張が強くなっていて、過剰な同時収縮の状態になっている場合もあります。同時収縮とは、主動作筋、拮抗筋ともに収縮している状態で、姿勢を安定させたり、手や足をある位置で止めたりするのには大切な役割で、正常な筋の働きですが、異常な状態として同時収縮が過剰になると、動かせない状態になってしまいます。

 痙性の程度も様々で、様々な臨床像があります。

     重度の場合

重度の場合は、動きにくい、動かしにくい状態になっています。同じ姿勢や肢位をとることが多く、そのことによって環境からはいる刺激が少なくなります。環境の変化にも適応できにくくなります。姿勢反射の影響を受けることもあります。例えば、緊張性迷路性反射によってあおむけで反り返りの緊張が強くなったりします。このような状態ですので、早期から変形や脱臼などが進んできます。

     中等度の場合

それほど重度ではない場合は、自分から動くことが課題になっています。動くことによって、痙性が高まったりします。例えば、寝返りをすると足が交差してしまったりします。座位でバランスをとるときにやはり足が交差したり、膝が曲がって椅子の内側に入ったりします。連合反応といって、例えば、下肢の動きによって上肢の痙性が高まったりします。いつも同じような動きしかできないことが多いです。例えば、四つばいの時は両足を引きずったりします。ある筋肉をある関節を選択的に動かしにくいです。変形や脱臼は、成長するにつれ、動いたりすることによって、痙性が強まり、骨の成長に筋肉が追いつかないということもあり、徐々に進んでいきます。

 3,アプローチの考え方

 一般的に痙直型に対しては、動きを入れることを大切にして、同じ姿勢で固定することを避けるようにします。これはアテトーゼ型に対するのと違うところです。痙性に対しては抑制するようにします。動きを入れていくのですが、動けるようになった結果、痙性が、高まるのではなく、痙性が落ちていることが目標になります。

      重度の場合

重度の痙直型の場合は、動く、動かすことが大切なので、動かしやすいところから動かします。痙性が少なくて、抵抗の少ないところからです。動かす範囲も急に大きく早く動かさないで徐々に拡大していきます。動くことを好まず、受け入れが難しい場合があるので、配慮が必要です。体幹に痙性があり、短縮している場合は、まずこの部分を伸ばす動きを入れていきます。回旋の動きも大切です。体を動かすときの姿勢は、異常な姿勢反射が起きにくい姿勢で行うとよいでしょう。日常生活では、介助が多くなってしまいますが、できるだけ自分の動きや力を発揮するにはどのようにしたらよいかを考えます。このときは、すべて異常なパターンを抑制するのは無理だと思います。

     中等度の場合

それほど重度ではない場合には、まず評価のところで述べたように、その子どもの筋緊張や運動のパターンの特徴をみます。動いたり、いろんなことができるようになっていったりするのですが、運動発達や日常生活の向上を促すときに、できるだけトータルパターンの動きでない分離した動きを出すようにします。トータルパターンをいうのは、全身的な動きが出てしまうような動きで、例えば、座位でバランスをとろうとすると、全身が伸展とともに股関節の周辺の緊張が高まり、足が交差してきて、結果的にバランスをくずしたりする動きです。それに対して、分離した動きというのは、座位で体が伸展しながらも、股関節が外転したり、外旋したりする動きが出ることです。

また、連合反応が出やすいので、それを防ぐことを考えます。そのためには過剰な努力にならないように注意する必要があります。連合反応とは、ある部分の動きを努力して行うことによって、その部分だけでなく、別の部分も痙性が高まる動きが出てしまうことをいいます。例えば、車椅子をいっしょうけんめいこいでいると、下肢が緊張してピーンと伸びてしまったりすることです。また、例えば手を使った腹這いで下肢を引きずっていくと、上肢、下肢ともに緊張が強まったりします。

抗重力の姿勢をできるだけ早くからとることも大切です。

 4,実技

     臥位

バルーン上の腹臥位

ロールの上での背臥位で体重移動

側臥位で左右の体幹を引き伸ばす。

     座位

椅子にまたがった座位。

後ろや横にもたれた座位。

床座位で上肢の支持

     立位

バルーンから、足をつけて立位になる。

後ろにもたれた座位。

     生活の中で

床から起き上がるときは、側方に手をついて体重をかける。

寝返りのとき、うつぶせになるときに、肘立てになる。

立つ時、足に体重がかかるようにする。

 5,変形について

 痙直型に変形が多いことは述べましたが、次のような部分に変形が起こりやすくなります。首は、重度の場合に回旋の左右差があったり、後頸部の短縮があったりします。肩は肩甲骨が内側に入り込んでいる場合があります。肩関節は、外に開きにくく、上に上がりにくいです。肘は屈曲になりやすく、前腕は回内の変形が多いです。手関節は、掌屈の場合と背屈の場合があります。手指は屈曲で変形しやすいです。体幹は後湾と側弯があり、胸郭は樽状になることがあります。股関節は、脱臼を伴うことがあり、伸展、屈曲両方の制限がありえます。外転、外旋の制限が多いです。ハムストリングスが短縮していて、座位では骨盤が後傾し、膝関節は伸展の制限が多いです。足関節は、内反尖足か外反尖足になります。背屈位に変形している場合もあります。

 これらの変形、拘縮、脱臼に対しての予防は、基本的には関節を無理なく動かしたり、いろんな姿勢をとったりすることです。立位がとれるときは立位が大切です。椅子や姿勢保持具、車椅子の工夫も必要です。さらに、痙性が強まらないような姿勢や動きを獲得していくことが必要だと思います。

 6、症例

 ビデオで様子を見てみましょう。

ひとりは、自分で動くことはできない子です。座位もとれません。呼吸障害もあり、とる姿勢は限られています。痙性は全体に強いです。特にそり返りの緊張が強く、股関節の内転、上肢の内転を伴います。片方の股関節が脱臼しています。呼吸の楽な姿勢をとり、肩から動かすようにしています。体幹は腰椎が短縮しているので伸ばすようにしています。リラックスして緊張が自分でコントロールできることが目標です。

もうひとりは、寝返りで動くことができますが、動くことによって股関節の内転が強まります。しかし、体全体にとってはよい動きです。筋緊張は両下肢で高く、体幹は低いです。上肢は左にマヒが強いです。座位バランスが十分でなく、下肢の内転、伸展の動きが出てしまいます。これを抑制しながら、座位がとれるようにしています。上肢で支持した床座位の練習もしています。
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