脳性マヒの治療手技
 について

2002年11月18日

脳性マヒについては、治療法として様々な考え方もあり、論争の対象にもなっています。ここでは、それぞれの治療法の紹介をしたいのですが、各治療法について、私自身それほどわかっているわけではないので、どの方法がいちばん効果あるかという話ではありません。しかし、脳性マという障害をどのような考え方で治療するかという点については知っておくと、訓練の方法が広がることになると思います。前半は、主な訓練法の考え方の紹介で、後半は実際に訓練で使える方法をできるだけ具体的な方法として伝えていきたいと思います。

 主な訓練法の考え方

1、ボバース法

神経生理学的アプローチと言われる方法の代表的なものです。神経生理学的アプローチは従来の整形外科的な方法に対してという意味で言われています。脳性マヒに対しては神経発達学的アプローチとも言われています。脳性マヒ児の運動の主要な問題点として、異常姿勢トーン、相反神経支配の異常、定型的な姿勢・パターンをあげ、それに対しては異常なものを抑制し、正常なものを促通することを行っています。

 また、脳性マヒをタイプ別に分類し、それぞれの特徴的な異常発達をとらえ、それをできるだけ防ぐ方法を具体的に考案しています。方法としては常に個別的な対応であり、ハンドリングを重要視しています。そのとき、キーポイントオブコントロールを用いています。訓練の時間に修得した動作を、日常生活でも行えるように介助の仕方、課題の設定や、道具などの工夫も行っています。

2、ボイタ法

移動運動を@姿勢反射能A持ち上げ機構B相動運動の3つの要素が必要であるとみている。手技としては、誘発帯を用いて刺激を与え、反射性寝返りと反射性腹這いを行う。それによって、必要な筋収縮が得られるという効果があります。

検査の方法としてもボイタの7つの姿勢反射があります。

3、上田法

なぜ効果があるかははっきり解っていませんが、頸法、体幹法、上肢法、下肢法があり、そのケースによっていくつかを選んで毎日行うと、痙性が落ちるという効果があります。痙性が落ちることによって、今までできなかった動作ができるようになったり、バランス反応が向上したりします。

4、動作法

自分の体を意図的に弛緩させたり、緊張させたり、動かしたりするという体の体験を通して、行動の主体者としての自己意識を確立し、こころの活性化やコミュニケーション活動の活性化をはかるもの」(「障害児の発達を促す動作法」より引用)です。方法としては、慢性緊張を処理するための弛緩訓練、正しい動かし方を学習するための単位動作訓練、重力に対して自分の体を適切に位置付けるタテ系動作訓練があります。

5、静的弛緩誘導法

心理的な要素と身体的な仕組みを考慮に入れた方法で、脳性マヒの共通する課題としての不当緊張に対して、自己コントロールさせるようにします。方法としては、訓練者が緊張している部分に手を当て、力を抜いて広くするように指示しながら、姿勢をとっていきます。

6、その他

ドーマン法、カーランド法等があるが、ここでの説明は省きます。

 もちろん、上記のような何々法というものを用いなくても、一般的な方法として、姿勢をとったり動きを促したり、関節を動かしたり、筋を伸ばしたり、筋力をつけたりすることができます。また、姿勢のとり方、動きの促し方、関節の動かし方などに次のような方法も提唱されています。

 具体的な方法

以下の2つは、主にボバース法の考えに基づいた方法です。

     プレイシング

プレイシングとは、運動をある位置で止めておくことで、例えば、腕を動かしていくとだんだんその腕が軽くなり、ある位置でとめることができるようになっていきます。このことによって、さらにその位置から自由に動かすこともできるようになっていきます。これは正常な姿勢トーン(姿勢筋緊張)に裏付けられています。

     タッピング

タッピングは、プレイシングの手段として用いられることが多いです。固有感覚(関節、筋などの感覚)と触覚(皮膚の感覚)を刺激することによって筋の反応を引き出す方法の一つです。刺激の方法は、最初は短い間隔で刺激が薄れないよう加重されるようにします。反応が出やすくなってきたら、徐々に間隔を長くしていき、自発的に保持する力を発揮させていきます。姿勢筋緊張を高めていったり、アテトーゼや失調の姿勢を安定させるのに使います。ただし、これによって緊張が高まり過ぎないように注意する必要があります。

ここでは圧迫タッピングを用いて、肘立て位を安定させるためのタッピングとして、頭部と背部に同時にタッピングをしてみましょう。また、座位で肩に下の方向へ向けてタッピングをしてみましょう。また、四つばい位で前後から、上下からタッピングをしてみましょう。歩行をしながら肩を下の方向へタッピングしてみましょう。

     筋膜リリース

筋膜の癒着による運動性の低下を改善することを目的にしています。方法としては、緩やかな圧迫と伸長を用いてその状態をしばらく保ち、そして組織の軟化を知覚したらゆっくりと離します。

  AKA(関節運動学的アプローチ)(図参照)

関節の構造に焦点を当て関節を無理なく動かす方法です。たとえば、図にあるように関節の固定する近位部が凹になっていて、動かす方の遠位部が凸になっているときは、動かす方向とは逆の動きが関節の中で生じます。従ってこのときは、関節の近いところをこの関節内の動きに合わせて動かしてあげるとスムーズに動きます。関節の形が、この逆で、固定する方が凸で、動かす方が凹の時は、関節内の動きは、関節の動く方向と同じになるので、方法も異なります。例えば肩関節を外転するときは、動かす方が凸なので上腕骨の近位部をやや下に滑らせながら遠位部を上にあげます。ただしこのとき肩甲骨は肩甲上腕リズムというもので、自然に上に上がりますので、これを妨げない注意が必要です。肘関節を伸ばすときは動かす方の尺骨の関節面が凹なので、肘関節の近位部を押しながら肘関節の遠位部で肘を伸ばします。

ただし、関節可動域を無理に広げようとして行うといためる場合があります。

     マッサージ

マッサージといってもいろいろな手技があり、例えば、筋を横断的にマッサージする方法と、筋に沿って平行にマッサージする方法があります。さする強さによっても、様々な方法があります。

     触圧覚刺激法(図参照)

「特定の関節周囲部位に触圧覚刺激を加えることで、筋スパズムを減少させ、関節可動域の増大を図ることを目的とする」(系統別治療手技の展開より引用)ものです。触圧覚刺激を関節の周囲(関節によって決まったところがある)に加えることによって、関節の位置情報を適確に加えることになるという考えです。刺激の程度は、図のように、皮膚の感覚受容器があるところまでの刺激、つまり、表皮をひずむように押して、真皮の弾力を感じることができるところまでです。思ったよりも軽い刺激になるようです。感覚障害がある場合には効果がないし、過度の可動域が生じてしまう危険があります。

まとめ

最後にどのような方法を用いるにせよ、用いる人が豊かな感受性を持ち、常に子どものかかわり方、触り方、動かし方について、向上心を持つことが最も大切です。また、効果があったかどうかについて、できるだけ客観的な目で見られるようになることも大切だと思います。
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