ここでは、最初に簡単に実技を行い、呼吸の基本的な機能を維持、向上させるにはどうしたらよいかを考えましょう。詳しいことは呼吸について−その4を見てください。ここでは導入としての実技を行います。呼吸に必要なことは基本的に@呼吸の道の確保と、A胸郭の動き、さらにB肺胞での空気の交換です。
気道が狭くならないようにするにはどうしたらよいでしょうか。気道が狭くなるには、いろんな原因がありますが、いくつかの実技をしながら考えましょう。
のどの所にたまっている痰と気管支にある痰では、出し方は違ってくると思います。のどにたまっている痰は、吸引ができる場合は吸引でとるのが確実です。その他の方法として、うつぶせにする、せき込みを利用するなどがあります。
気管支など奥の方にある痰は、出てくるのに時間がかかります。肺の奥の方まで達する深い呼吸が必要です。それには、十分な吸気が必要です。また、姿勢を変えることも大切です。胸郭の部分を軽く揺することによって、筋の緊張がほぐれ肋骨が動きやすくなり、深い呼吸になる結果として痰が上がりやすくなります(実技)。
下顎を引き出すように前に上げることによって、舌根沈下による気道の閉塞を防ぐことができます。ただ上にあげるだけでは、首が後屈してしまい、それが気道を狭くすることもあります(実技)。
頭の位置を調整することも大切です。通常は体幹に対して首が少し前屈するぐらいがちょうどよいのですが、個人差が非常にあります。やや、後屈気味のほうがとおりやすい場合もあります。また、姿勢によって違ってきて、座位や抱っこは起こした方がよい場合と、寝かせ気味のほうがよい場合があります。これは普段の様子を観察し、保護者からも情報を得て、それぞれに応じた方法を見つけてください(実技)。
まず、正常な呼吸の動きを観察してみましょう。
次に、適切な姿勢をとりましょう。背臥位では、枕や膝の下のクッションをその子に応じてセットすることによって楽に呼吸しやすくします。姿勢変換で側臥位や腹臥位にするときにも、クッションの工夫が必要です。特に腹臥位は、体の部分を高くするととりやすいです。
背臥位で吸気を介助する方法です。背中を持ち上げる方法と手を上に上げる方法があります。側臥位では、胸郭の前後を両手で介助して行います。
呼気の介助は、背臥位では方向に注意します。真下ではなく、斜め下の方向です。側臥位では、吸気の介助の持ち方で行うことができます。呼気の介助を強く行いすぎると気道が閉塞しやすい場合があるので注意が必要です。
深い呼吸によって痰が出やすくなり、呼吸の道が確保されることによって胸郭の動きが大きくなるというように、@の呼吸の道の確保と、Aの胸郭の動きは切り離せない関係です。
最終的にはこれが必要になります。これについては、直接関わることはできませんが、肺の全領域に空気が十分入るようにすることによって、交換しやすくすることはできます。
・鼻腔―ほとんどの場合主に鼻で呼吸している。
・咽頭−舌があるために狭くなりやすい。
・喉頭―喉頭が柔らかいとふさがりやすい。
・気管―軟骨で覆われている。
・気管支―平滑筋が収縮すると狭くなる。分泌物を出す。繊毛が分泌物を上に送る。
・肺胞―適度の膨らみと縮みが必要
・運動してもほぼ同じ酸素分圧と二酸化炭素分圧に保たれる。
・呼吸中枢によって無意識にコントロールされている。
・センサーによって情報が入力される。センサーは、肺、呼吸筋、延髄腹側、頸動脈小体にあり、血液中の二酸化炭素の濃度が高くなったり酸素濃度が低くなったり、呼吸の量が少なくなったりすると、それを感知し、呼吸中枢に伝え、呼吸が増える仕組みになっている。
・本人にとってそのときの状況に応じてもっとも効率のよい方法を自然に選ぶ。
・呼吸に障害のある場合、調整が難しいので、調整しやすいような援助が必要です。例えば、酸素濃度が落ちているのに、呼吸がうまくできないのでそれに対して調整できない場合、本人が調整しやすいような援助として、普段から排痰を行い空気が通りやすくしておき、その上で空気が通りやすく胸郭が動きやすい姿勢をとらせてあげる。それでも十分呼吸できないときは動きにくいところを動かしてあげるとか、部分的に呼吸の介助をするなどができます。
ガス交換、つまり酸素を取り込み二酸化炭素を排出する仕組みについて知り、その異常の原因を考えます。
肺気量は、区分の図を説明しますが、特にこの中で大切なものについて述べます。
残気量というのは、努力して吐ききったときに残る空気の量ですが、機能的残気量は、普段の呼吸のときに呼気の後に残っている量です。これが多い方が、必要なときに深い呼気ができることになり、呼気に余裕があることになります。また、機能的残気量が少ないと、呼気の時に肺胞がつぶれすぎてしまい、次の吸気のときにふくらみにくくなります。
死腔とは、酸素交換に関与しない換気のことで、具体的には咽頭、気管、気管支の部分に入る量のことです。一回換気量が、死腔の量に近づくと、酸素交換に関与する換気が少なくなってしまい、後で説明する肺胞低換気の状態になります。人工呼吸によって、換気量を増やすか、気管切開によって死腔を減らすかが必要になります。
努力性の呼吸を行うときに1秒間に排出できる呼気の量を言います。1秒率は努力肺活量に対する1秒量の割合です。いずれも、呼気の時に閉塞しやすい場合に低下します。すると吐きにくい状態になります。吐くのに時間がかかるため、十分に吸うこともできなくなります。
肺活量の平均に対するその人の肺活量が70%以下のときは拘束性の障害といいます。
1秒率が70%以下のときに閉塞性の障害といいます。この学校の呼吸障害のある子どもたちは合併していることが多いです。最初に説明した通り、拘束性と閉塞性の障害は密接な関係があります。例えば、閉塞性の障害があると普段から浅い呼吸しかできないので、胸郭の動きが少なくなっていき、呼吸に関わる関節の可動域が低下し、関わる筋力も低下し、拘束性の障害になっていきます。
肺動脈中の二酸化炭素が肺胞に出されて、肺胞から酸素が取り入れられて肺静脈に入り、心臓を通して体中の組織に供給されます。このことによって、酸素濃度と二酸化炭素濃度は適切に保たれる。しかし、このようにならない原因として代表的なものが3つあります。
このうちのどれが原因でガス交換の異常が起こっているのかがわかると、適切に対処しやすくなります。
読んで字のごとく、肺胞に空気が入りにくい状態です。閉塞性でも拘束性でも起こります。酸素濃度の低下だけでなく、二酸化炭素の濃度が上がることが特徴で、そのことによるCO2ナルコーシスという意識障害などの症状が出ることがあります。また、PHが低くなり、酸性に傾きます。対処法としては、人工呼吸など全体の換気量を増やすしかなく、酸素吸入だけでは十分でなく、かえって悪化することがあります。それは、酸素が供給されると、酸素濃度の低下に反応するセンサーが働かなくなるからです。
この学校の場合だと、強い閉塞性の障害があるときに起こります。また、筋力低下や、高度な側弯による拘束性の呼吸障害のときに起こり得ます。
換気血流比とは、肺胞に入ってくる空気の量と、肺胞を流れる血液の量の割合のことです。空気がたくさん入ってきても、血液の量が少なければ、十分にガス交換ができません。逆に血液の量が多くても空気の量が少ないと十分なガス交換ができません。例えば、背臥位をとっていると、背中側には血液が多く流れ、空気は少なくなります。胸の側は逆に血液が少なく、空気が多くなります。このようにある程度しっかり空気を取り入れることができていても、血液との関係が不均等になり、十分にガス交換ができない状態を換気血流比の不均等といいます。姿勢を例にあげましたが、痰がたまっていることによっても換気血流比の不均等は起こります。
対策としては、姿勢を変換すること、痰を出すこと、胸郭の動きにくいところを改善することです。医学的治療としては酸素吸入が有効です。この場合、肺胞低換気と違って、二酸化炭素がたまることはありません。なぜならば、二酸化炭素は、血液とのガス交換が酸素よりもずっとしやすくて、ある程度の換気があれば、十分ガス交換できるからです。
シャントは、完全に一部の肺の部分に空気が入らない状態に起こります。シャントというのは、短絡という意味で、肺動脈から二酸化炭素を多く含んだ血液が肺胞でガス交換されずにそのまま肺静脈に流れ込み心臓へ行ってしまうということです。換気血流比不均等との違いですが、換気血流比不均等は、換気の量が少ないところがある状態で完全に入っていないのではありません。完全に空気が入らない部分があるシャントでは、酸素濃度がかなり低下します。二酸化炭素濃度は正常を保ちます。原因としては、気管支に痰がつまり、その部分の肺にまったく空気が入らなかったり、肺の病変によって空気が入らなかったりが考えられます。
対処法としては、酸素吸入は効果がありません。シャントの部分に、空気が入るようにすることが必要です。姿勢変換、排痰、呼吸介助などを用います。この学校の子どもでも急激に酸素濃度が下がるときは、シャントだと考えられます。もともと胸郭が動きにくいことに加えて、痰が詰まったりすることによって起こるのではないかと想像できます。それほどでもない低下のときは換気血流比の不均等と思われます。
呼吸不全は、自覚的、他覚的に呼吸が十分に行われていない状態です。自覚的に呼吸困難な状態になることを息切れとも言います。呼吸不全は日本では、「呼吸不全とは、動脈血ガスが、異常な値を示し、それがために生体が正常な機能を営み得ない状態」と定義されています。正常な生活を営み得ない状態という判断については、Hugh−Jonesの分類があります。
また、厚生省は、次のような基準を定めています。
(1)室内気吸入時の動脈血酸素分圧(PaO2)が、60torr以下となる呼吸障害、またはそれに相当する呼吸障害を呈する異常状態を呼吸不全と診断する。
(2)呼吸不全を動脈ガス炭酸ガス分圧(PaCo2)が、45torrをこえて異常な巧緻を呈するものとそうでないものに分類する。
(3)慢性呼吸不全とは呼吸不全の状態が少なくとも1ヶ月持続するものをいう。
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