呼吸についてーその3

城北養護学校で行われた呼吸についての4回
シリーズの3回目の内容です。

2002年9月

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はじめに

呼吸についての学習会で、今までにどのようなことを行ってきたかというと、第1回目は、気道確保と胸郭を動かすこと、呼吸器の構造。第2回目は、とか、生理学的なこと、例えば、1秒率とか、肺胞低換気とか、換気血流比とか、呼吸不全の定義まで行ったと思います。今日は、呼吸の評価について主に行いたいと思います。そのあとで、医学的な治療と、呼吸疾患の種類について話したいと思います。

T、評価 

これは、実際の呼吸の評価に非常に役に立つと思います。ただし、子どもによって正常な範囲は違います。ですから、この子はこのような基準でみるというように分かっていくと良いと思います。これだけ多くの項目があるので、先生同士の共通理解にも使えます。 

1、自覚症状

自覚症状で評価する方法もあります。これは、自分で歩ける子に使えると思います。

2、視診

@ 姿勢

苦しい呼吸の時は、できるだけ楽な呼吸をとります。例えば、起座呼吸というのは、喘息の患者が、寝ていると呼吸が苦しいので、起きた姿勢をとることです。

A 筋緊張の亢進または低下

普段の状態と比べて、緊張が強くなっているときは呼吸が苦しいと考えられますし、緊張が低下しているときは呼吸する力が出にくいと予想される場合もあります。

B チアノーゼ

チアノーゼというのは、唇の色をみます。ただし、チアノーゼは還元ヘモグロビンの量なので貧血の人には出にくいことになります。

C 呼吸数

呼吸数は正常は20ぐらいです。胸郭の動きで観察するのが最も簡単ですが、観察する練習が必要でしょう。胸郭が動いていても、上気道の閉鎖で空気が入っていないか脳性があるときは、鼻に手やティッシュを当て、空気の流れで、確かめるのがよいでしょう。

D 呼吸のリズム

無呼吸というのは、呼吸が一過性に止まってしまうことで、原因は様々ですし、止まる時間や回数も様々です。

頻呼吸は、回数が増えることですが、呼吸が浅く増えるときは、肺炎などの時です。一生懸命胸郭は動いているのに、呼吸できていないのは、どこかで閉塞していると考えて良いと思います。しっかり入っていてしかも回数が多いのは、過呼吸です。

呼気の延長とは、閉塞性の呼吸障害のうち呼気でつまりやすいもの、気管支炎や喘息のときに、気道の形が速く吐くと詰まってしまうようになっているので、ゆっくりしか吐けなくなります。意図的に呼吸ができる人は口すぼめ呼吸といって、胸郭の圧を高めながらゆっくりと吐く呼吸をします。

呻吟呼吸とは、呼気に声帯を閉めて肺胞の虚脱を防ごうとするものです。新生児で、肺のサーファクタントが不足している場合に見られますが、この学校の子にも見られます。

E 胸郭の動き

まず正常な動きを見てみましょう。均等に胸部と腹部が上がります。ただしこれは個人差があります。男女差もあります。姿勢による差もあります。

異常な呼吸パターンをいくつか見ておきましょう。

シーソー呼吸は、胸部と腹部の動きが逆になります。このシーソー呼吸にも吸うときに腹部が上がるものと吸うときに胸部が上がるものがあります。これは原因としては上気道の閉塞ですが、閉塞していなくても、胸郭が柔らかい子にも起こります。シーソー呼吸は気道を確保すると改善することが多いですが、それでも多少残り、普段の呼吸もシーソー気味な場合もあります。普段からの様子を観察しておくことが大切です。

陥没呼吸は、シーソー呼吸と似ていますが、鎖骨の上の部分がへこみます。肋間がへこむこともあります。原因は上気道の閉塞です。また、次にいう努力呼吸によって起こることもあります。

努力呼吸とは、呼吸に使う筋、横隔膜、肋間筋以外の筋を多く使う呼吸です。これも上気道の閉塞や、気管支の閉塞などによって、いっしょうけんめいに呼吸しなくてはならないことが一つの原因です。また、本来の呼吸筋が使いにくいことが原因になることもあります。具体的には上のほうの呼吸補助筋を多く使います。そのために、首のところに常に力が入っていたり、肩と首が接近していたりします。

鼻翼呼吸は、文字通り鼻翼が開く呼吸で、少しでも空気を多く取り入れようとするためです。

下顎呼吸は、下顎を動かして取り込もうとする呼吸です。

呼吸筋疲労は呼吸筋のエネルギーの需要が供給を上回った状態で、具体的には横隔膜が働きにくくなります。横隔膜というのは呼吸の主動作筋で、本来疲れにくいはずの筋なので、これが疲れるというのは大変なことになります。吸うときに胸部が上がるシーソー呼吸になったりします。

全体的な見方としては、正常な呼吸と比べて、動きにくい所を見つけていく必要があり、それに対する姿勢変換や呼吸介助といった対策が必要になってきます。ます。これも普段との比較が大切です。普段から悪いのならば、その対策も必要です。全体に悪いのか、部分的に悪いのかという判断が必要です。動きの悪いところの原因を考えることができます。筋の緊張、胸郭が固い、変形、痰がたまっているなどです。

3、聴診

視診だけではわかりにくいことが多いので触診も行います。肺の動きとともに関連つけて評価します。正常呼吸音のうち、肺で聞かれるのは、低い穏やかな音で、肺胞呼吸音といいます。リズムがあり、吸気の方が音が大きく長いです。副雑音とは、正常な呼吸にはない音のことを言います。

まず、正常な呼吸音の大きさを聞きます。大きい、小さい、左右差、上下差を見ます。正常な人はこれくらいなんだということを知っておきましょう。どこを聞けばよいかですが、何のために聞くかによって違ってきます。のどのあたりだと喉頭や気管の痰のたまりが聞けますが、肺に空気が入っているかどうかを聞くには、肺胞のある部分を聞くと良いでしょう。弱くなっていたらその部分には空気があまりは行っていないということです。ガーガーという音が聞こえたら、喉頭や気管での痰の音が響いていることがあります。その部分に痰があるとは限りません。痰がどこにあるかはわからないことがあるので注意が必要です。このときは、下顎を介助してガーガーという音が消えた状態で聞くとその部分の肺の音が聞こえることがあります。それでも肺胞呼吸音が聞こえないときは、その部分に空気が入っていないことがあるので、何らかの対処が必要です。

副雑音はいくつかの種類がありますが、大きく分けて乾性ラ音と湿性ラ音があります。乾性ラ音は、英語ではwheezeといってピーギーという音です。喘息の時に聞かれることが多いです。呼気時に多い。湿性ラ音は、英語ではcracklesといって、液体の所に空気が入る音です。痰があるところに空気が入ると聞かれます。吸気でも呼気でも聞かれます。

喘息の発作がはっきりしていたら、乾性ラ音が聞こえます。

4、咳

咳も重要です。感染していたり、痰が多いと咳が出ます。この学校の重度のこの場合、咳が出なくて心配ということがむしろ多いです。咳を出すには、いくつかの要素があります。まず、痰がある程度上がってこなくてはなりません。咳が出せない場合は、むしろ、呼吸介助で呼吸の量を多くするのがよいでしょう。また、余裕がないと咳も出すことができません。

5、痰

痰は、量、色、粘調度が大きな要素です。この子どもはいつもどんなときに出すのかを知っておく必要があります。

6、呼吸機能検査

@ スパイロメトリー

1回換気量、予備呼気量、予備吸気量 努力肺活量 1秒量 1秒率がわかります。これらの説明は、呼吸についてその1,2を参考にしてください。

A パルスオキシメーター

これは普段使っています。注意することは、正確な値を見ることです。つけている部分が動いていると、正確な値ではありません。

B カプノメトリー 

二酸化炭素の濃度を測る機会です。私は見たことはありませんが高価なものです。

C 動脈血ガス 

血液を直接採って酸素や二酸化炭素の分圧を測る方法です。

D 喀痰

 痰の成分を検査します。

E コンプライアンス

肺の気量変化/圧力変化を測定します。肺のふくらみやすさを表し、コンプライアンスが小さいと肺が膨らみにくいです。

F 気道過敏検査 

喘息などの時に過敏に反応する物質を吸わせて、どのような反応が出るかを見ます。

G 運動負荷テスト 

軽度の呼吸障害には必要。例えば時間を決めて歩いて、そのときの距離、脈拍と酸素飽和度を見る方法などがあります。ただし、循環の障害によることもあるので、区別が必要です。この学校の子どもでも歩ける子どもには使えますが、注意が必要です。

H 胸部X線 

肺炎、無気肺、肺の中の異物などないかどうか調べます。いろんな情報が入ります。他の検査の結果も合わせて判断します。

V 呼吸不全の治療

医療的な分野の治療です。

1、薬物

@ 気管支拡張剤 

気管支平滑筋のレン縮を改善し、気道を拡張します。

A       去痰剤 

痰の粘調度を低下させます。ただし多すぎると痰の量も多くなり出すぎて困る場合もあります。  

B       鎮咳薬

咳を止めるのは危険なことがあります。去痰剤と混ざったものもあります。

C 抗生物質 

D 副腎皮質ステロイド 

抗炎症、免疫抑制の作用があります。


E 呼吸促進剤

2、加湿 

気道の粘液の粘調度は調整されているが、炎症など気道の浄化作用が阻害された状態では、加湿が必要です。注意することは、気道分泌物の増加による気道閉塞、刺激による気道のレン縮、水分の過剰投与、気道感染などです。

3、酸素療法

酸素中毒や高濃度の酸素による障害、酸素によって肺の毛細血管上皮を傷害することなどに注意します。また、CO2ナルコーシスになる場合もあります。

4、気道確保

@       エアウェイ 

エアウェイ自体が詰まることもあります。また、それより下で閉塞しているときは効果がないこともあります。

A 気管内挿管 

B 気管切開

 気管内挿管が2週間以上の時には、気管切開となります。喉頭分離術を行う場合もあります。

C       排痰

 薬物、吸入、吸引などで排痰をします。肺理学療法や体位排痰を併用します。

5、              陽圧呼吸

圧をかけて肺胞を膨らませる方法です。自発呼吸だが、肺胞の虚脱を防ぎ、酸素化が改善します。持続的陽圧呼吸法のことをCPAPといいます。マスクを通じて陽圧をかけます。

6、              人工呼吸

@       調整換気

患者の状態に無関係に設定された方法で肺を膨らませます。

A       補助調整換気

患者の吸気の開始を検知して合わせて、肺を膨らませる方法です。

B       間欠的強制換気

患者の自発呼吸の何回か1回に、患者の吸気の開始に合わせて肺を膨らませる方法です。

C        プレッシャーサポート換気

より高度な機能で患者の自発呼吸をサポートする方法です。

E       高頻度換気

1分間に603000回の換気を行うことによって気道内圧を安定させる方法です。

W、疾患別

 呼吸疾患がどのように分類されているのかを簡単に説明します。この学校で、呼吸障害のある子どもは、このようなはっきりわかる疾患を持っていなくても、筋緊張の異常、変形、筋力の低下、中枢性の障害、その他の合併症によって呼吸障害がある場合が多いです。このような疾患があると、さらに呼吸障害が重くなります。

1、急性疾患

@       成人型呼吸窮迫症候群−ARDS

 種々の原因に続発して起こる急性呼吸不全の状態で、肺の炎症と微小血管透過性亢進が特徴です。

A       肺水腫

肺組織に体液が異常に貯留した状態です。

B      肺梗塞

肺の血管が詰まることによって、その部分の肺での酸素交換ができなくなります。

C       肺炎

2、慢性疾患

@ 慢性気管支炎

A       慢性肺気腫

肺の部分の拡大、隔壁の破壊があり、気道が閉塞しやすいのが特徴です。

B       喘息

発作的な呼吸困難、喘鳴、咳嗽の反復、気道狭窄、気道過敏性が特徴です。

C       気管支拡張症 

気管支の破壊と拡張が特徴です。

D      肺繊維症

繊維性結合組織の増殖による、肺の硬化、萎縮です。原因は肺炎、結核、けい肺などです。

3、新生児の疾患

@     新生児仮死

A     胎便吸引症候群

胎内で大量の羊水とともに便を吸ってしまうことによって起こります。

B     新生児呼吸窮迫症候群

肺のサーファクタントの不足により、肺胞が膨らまない状態です。コンプライアンスが低下します。人工的なサーファクタントを注入することによって劇的に改善します。これによって低体重出生児の命が助かることが多くなりました。

C    無呼吸発作

呼吸中枢の未熟に伴うものです。

D     乳児突然死症候群

原因不明ですが、防御反射の未熟性が原因と考えられます。うつぶせ寝との関連はありそうです。

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