姿勢変換と移動

東京都肢体不自由研究協議会 運動学実習と
その研究部会で話された内容です。

2001年5月

1、はじめに

昨年は関節の動かし方を主に行ったので、今回は体をもう少し大きく動かしていくようなことを行っていきたいと思います。他動的に動かしてもらうのではなく、子ども自身が動くのを援助するということを強調していきたいと思います。これによって、子どもの力を伸ばしていくことができます。

2、姿勢や移動の種類

さて最初に姿勢にはどんなバラエティがあるのかを知っておくとよいと思います。その

名称もいろいろとあります。また、姿勢には流れがあり、その流れに従って姿勢変換ができます。例えば、あおむけから起き上がって、横すわり、膝立ち、片膝立ち、立位、という方法で立ち上がることもできるし、腹臥位、肘立て、手支持座位、四つばい、高ばい、立位という方法もあります。

移動についてですが、移動をするには姿勢変換が絶対必要であることがわかります。歩くには立つことが必要です。例えば、四つばい移動をするときでも、あおむけからうつぶせに寝返ってから、四つばいになってから始めます。伝い歩きも、まず起き上がって、四つばいで机のところへ行って、つかまって膝立ち、片膝立ち、つかまり立ちとなって伝い歩きになります。

姿勢変換についてこのようにまとめてみました。

@     寝返り

A     床座位への起き上がり(背臥位から、腹臥位から)

B     四つばい姿勢へ(腹臥位から、座位から)

C     立ち上がり(床から、椅子から)

D     台や椅子の上に座る。

移動についてこのようにまとめてみました。

@     腹ばい移動

A     四つばい移動

B     伝い歩き

C     歩行

D     階段などの段差の移動

E     いざり(shaffling)や寝返りを移動に用いることがある。

3、介助―ハンドリングの方法

以下のことについて、このあとの実技で実際に行いながら説明します。

@     予告する(言葉かけとは限らない)

A     相手の動きを予想し必要な介助―ハンドリングをする

B     子どもが自分で動き始めるのを待つ

C     子どもの高さに私たちが合わせる。

D     支持面と重心の関係

     安定した姿勢から、動ける姿勢へ

     支持面の変化

     動いたあとの安定

E     関節の可動域を知っておく

F     筋緊張の特徴と変化をつかむ

4、実技

四つばい姿勢になるには、腹臥位からと座位からがありますが、ここでは座位

から四つばい姿勢になる方法をやってみましょう。いろんな方法がありますが、肩を持ってやってみましょう。まず、本人がその気になることが大切です。言棄かけでもよいし、上手にきっかけを作ってあげるのもよいでしょう。また、このとき、どのような動きになるのかを予想します。そして、相手が姿勢を変えていくところにうまく誘導できるように自分も動きます。四つばい位から戻るときも、相手に動くことをうまく伝えて、自分で動く気にしていきましょう。

次に、肘立て位から座位にする練習もやってみましょう。そして、座位から肘立て位ですが、やり方が違うと四つばい位になってしまいます。なぜでしょうか。どの位置に移動していくかで決まってくるようです。

先ほど上げた、介助−ハンドリングの方法のうち、Eの関節の可動域を知っておくということですが、四つばいから座位になるときに横座りの姿勢を経由します。横座りでは、股関節の可動域が関係してきます。下になった方の足に股関節の外旋の制限があるとこちらの方向の横座りはできません。

次に起き上がりをやってみましょう。起き上がりにもいろんな方法がありますが、ここでは、背臥位から片肘をついて起き上がる方法です。重心を動かして新しい支持面を作ることによって姿勢を変えていくことになります。これは、Dの支持面と重心の関係で、支持面の変化を作っていきます。片方の肘が新しい支持面を作ることになります。この新しい支持面を使って起き上がってきます。方向が合っていないとうまく起き上がれません。具体的には、手をつく側と反対側の肩と腕を持って起き上がるようにします。介助者は、起き上がってくる側にいます。肘を着くところに体重が乗るようにもってきます。このとき、Fの筋緊張の変化を感じ取ることが必要です。姿勢が変わることによって、筋緊張は変わっていきます。筋緊張というのは、いろんな定義がされますが、筋の活動のしやすさといってよいのでしょうか。姿勢の変化に対応した筋緊張の適切な変化が必要です。私たちは、このように姿勢が変わることによって、変化していきます。それをうまく引き出してあげたいものです。何度か行ううちにだんだん適応しやすくなります。さて、やってみましょう。モデルになっている人にうまく、筋活動が起こるかどうか、やってみてください。

次に立ち上がりの練習です。姿勢を変え移動するというのは、安定した姿勢から、動ける姿勢に変わることです。ここでもDの重心と支持面の関係があります。安定した姿勢のとき、支持面のどこかに重心があるのですが、しかし、安定した姿勢の中にいたままで動くというのは難しいことなのです。そこで、重心を移動します。支持面から外れようとすることもあります。立ち上がるときにはどうしたらよいでしょうか。重心をいったん思い切って前に持ってきて、そこから重力に対して立ち上がります。では、座るときはどうしたらよいでしょうか。自分で立つ気になる、自分で座る気になるような介助が必要です。ただ、みんながこのように立てるわけではないということはわかると思います。例えば、足の関節に制限があった場合は、体をあまり前に持ってくるとかかとがついていられなくなります。また、立ち上がる力が十分でない場合は、やはり体を前に持って来すぎると前に崩れてしまいます。その子どもに合わせた方法が必要になります。

次に歩行です。歩行の場合は、うまく前進するようにしなくてはなりません。回旋の動

きを入れることによって、スムーズに歩行ができます。これをうまく介助してみましょう。

一つには適切に重心を前に落とすことです。もう一つは、回旋の動きを誘導することです。

相手の動きを予想することが、大切です。

5、姿勢変換と移動が難しい子どもたちの
問題として

難しい子どもは何が間題になるのでしょうか。

@     変形拘縮

いつも同じ姿勢だと変形拘縮になりやすいです。ただし、呼吸や消化などの理由があって、その姿勢をとっている場合があるので、このような時は、配慮しながらできる姿勢を増やしていきます。

A筋緊張の固定化

一つの種類の姿勢だけをとると、その姿勢で用いる筋ばかりが使われることになり、筋

緊張の固定化になります。

B感覚の固定化

感覚の固定化ということもあります。決まった姿勢で決まった感覚ばかりが入ります。触覚、圧覚、前庭覚などです。その結果、変化を好まなくなってしまったりします。

C呼吸への影響

姿勢変換が少ないと、同じ肺の部分でばかり呼吸するので、深い呼吸ができなくなってきます。消化にもよくない場合があります。

D体力や筋力の低下

変換や移動が少なくなると体力や、筋力が使わなくなり落ちてきてしまいます。

E心理的な面

     どのように姿勢を変えたらよいのか、動いたらよいのかわからない。

     姿勢を変えたり動いたりすることに対する不安

     普段と異なる姿勢をとることに対する不安

     動作を援助してもらうことに対する不安

5、まとめ

 最後に、その子にとって、姿勢変換や移動がどんな意味をもつのかを具体的に考えていきましょう。例えば、寝たきりの子どもが寝返りをすることによって腹臥位になれると、背中が伸び、胸が広がります。肺の背中の部分に空気が入りやすくなります。寝返りのときに上肢を動かすので、上肢の拘縮の予防になります。例えばこんなことを確認しながら、姿勢変換や移動を行っていくとよいでしょう。

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