運動学の基礎について

東京都肢体不自由教育研究会
「運動学実習とその研究」部会夏季協議会の内容です。

2002年8月

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@ はじめに

さて今日は、運動学の基礎ということですが、子どもの主に運動機能についてどう見ていくのかということがあります。実際の子どもに生かすことができるようにこのような視点が必要なのかと考えました。子どもについての評価をまとめて、アプローチの方法を検討していくという作業が必要になってきます。いろいろな基本的なことをばらばらに考えていくのではなく、まとめて行けたらよいと思います。

A どのような考え方で子どもを見ていくか。

(ア)複数の視点

 複数というのは、まずその子どもにかかわる人が複数います。保護者、教員、医療、福祉、地域の人などいろんな立場からの見方が必要になります。また、その子どもが生活しているいろんな場面を想定する必要もあります。

(イ)相互関連性

 相互関連性というのは、どちらかというと最近言われてきた考え方といってもよいでしょう。運動というものは、因子を1つに凝縮させてしまうのではなく、多くの因子が関与しているという考え方です。このことによって、視点を広げることができます。従来の考え方は、どちらかというと因子を一つに絞って考える方法でした。例えば、この子どものマヒの状態はこうだから、このような歩き方になるとか、この子の発達のレベルはこれくらいだから、このような動きになるというような考え方です。そうではなくて、いろんな因子がからんできます。例えば、筋肉の性質もそうです。筋肉が柔らかだったり固かったりそのようなことが運動に影響を与えます。生体力学というのは例えば、赤ちゃんの発達がそうです。初期歩行というのがなぜできなくなるかというと、従来の考え方は神経が成熟して反射的な動きが押さえられてしまうというのが主な学説でしたが、最近、体重が増えていくからできなくなるという考え方が出てきました。このようにいろんな視点で運動がきまってきますので、分析も複雑になってきます。しかし、一方では、いろんな因子で変化するということなので、いろんな方面からのちょっとしたアプローチで改善できる可能性もあるということです。例えば、生体力学を利用して、歩行器の角度を変えただけで、歩行の機能が改善するということもあります。

(ウ)重点的

障害をもっていると、機能に様々な問題点を持っているのですが、その問題点をすべてあげていき、それに対する課題をすべて行っていくというのは、時間的にも不可能だし本人の負担にもなってきます。重点的課題を選んでいくのがよいでしょう。 

(エ)課題指向的

課題をはっきりさせ、具体的に何ができるようにするという目標をもつこと大切です。その方が本人も周りの関わる人たちも何をやっているのかわかり、かかわりやすくなります。

(オ)  チームアプローチ

 今まで述べてきたことと重なりますが、関わる人たちが協力し合って行っていくということです。

(カ)QOLの向上、ICF−国際障害分類の改定

 国際障害分類が改定され、障害というものをマイナスと見るのではなく、中立的な表現を用いるようになった。具体的には、「機能障害」に変わって「心身機能・構造」、「能力障害」に変わって「活動」、「社会的不利」に変わって「参加」を用いるようになった。また、表において関連を表す矢印が、一方向でなく両方向となり相互作用的にとらえられるようになった。また、背景因子として、環境因子と個人因子が加えられた。例えば、一人の子どもについて、脳性マヒという機能障害があるから、歩けないという能力障害が生じ、社会的不利になるというのが従来のとらえ方であった。それに対して今回の考え方では、「心身機能・構造」「活動」「参加」それぞれのレベルでその子どもの可能性を関連づけながら考えるという方法である。従来よりも可能性が広がってきている。

(キ)中枢神経系の階層構造、新たなネットワークの構築

中枢神経系は、様々なレベルの階層から成り立っていて、それぞれの階層で姿勢、運動を制御(コントロール)している。例えば、筋や関節や皮膚からの情報が、脊髄に入り脊髄のレベルでコントロールします。またその情報は、脊髄を上がって前庭神経からの情報と共に小脳に入り、小脳で情報処理することによってコントロールされます。また、大脳にも入り、視覚や聴覚の情報とともに大脳でもコントロールされます。このように、様々な階層の中から最も適切なものを用いてコントロールされます。もし、中枢神経のどこかに障害があっても、

 新たなネットワークの構築というのは、中枢神経というのは、神経単位(ニューロン)が、シナプスによってつながっていますが、あるニューロンが損傷されても、他のニューロンが新たなシナプスを形成していくことによって、機能が代償されます。また、あまり使われていないニューロンやシナプスが使われ始めることがあります。違う動作で代償されることもあります。

このように、中枢神経に損傷があっても、様々な方法で回復があり得ます。

 

B 立位、歩行が課題となる子どもをどう見るか

例として、立位、歩行が課題となる子どもを上げて、評価、分析、アプローチを考えていきたいと思います。

(ア)筋緊張

筋を触ったときの固さや動かしたときの抵抗によって評価します。痙性は、動かすときに通常よりも抵抗がある状態です。低緊張は逆に抵抗が少ない状態です。アテトーゼは、筋緊張が高くなったり低くなったり動揺している状態です。

通常の筋緊張の場合は、例えば、私たちは手を挙げて空中で止めることができます。また、その位置から動かすことができます。また、姿勢のよって変化します。臥位よりも座位や立位のときに筋緊張が高くなります。また、何か動くときの構えとしての筋緊張もあります。実技として、一人が手を挙げようと構えるときの筋緊張をもう一人が背中を触って感じてみましょう。

筋緊張が高すぎたり、低すぎたりすると、うまく立位をとることができなくなります。とれたとしても無理な形になります。できるだけ、良い筋緊張の状態で立位をとるために、例えば筋緊張の低い場合には、バルーンの上で腹臥位になり、上下左右に揺らして、それに対する反応で筋緊張を高めていきます。筋緊張が高い場合、特に体を屈曲する緊張が強いときは、バルーン上で背臥位になり、体全体を伸ばして、筋緊張を調整していきます。

(イ)  筋力

 筋力といってもいろいろな使い方があります。
筋の収縮の種類には次のようなものがあります。

・等張性(isotonic)収縮 ―筋の張力が変化しないで収縮する。

・等尺性(isometric)収縮=静止性(static) 収縮―筋の長さが変化しないで収縮する。

・求心性(concentric)収縮―筋の長さが短くなりながら収縮する。

・遠心性(eccentric) 収縮 ―筋の長さが長くなりながら収縮する。遠心性の収縮は、例えば、立っている状態からゆっくりしゃがむときの大腿四頭筋の収縮に当たります。どちらかというと難しい収縮の仕方です。立った姿勢から椅子にゆっくり座る実技をやってみましょう。

同時収縮とは、ある筋肉とそれに対する拮抗筋が同時に収縮することを言います。姿勢保持の時には同時収縮が大切になってきます。例えば、体幹の前側の筋と後ろ側の筋が同時収縮することによって、座位や立位が保たれます。

(ウ)関節可動域

正常な関節の可動域に対して、その子どもの可動域がどれくらいあるかということを調べます。立位や歩行が課題になっている子どもの場合は、立位をとり、歩行をするにはどれくらいの可動域が必要なのか知っておくとよいでしょう。例えば正常の歩行には、股関節の伸展の可動域がある程度なくてはならないし、足関節の背屈の可動域も必要です。階段を下りるときには、上に残った方の足が十分背屈する必要があります。

(エ)   バランス

立位のアラインメントとは、立位をとったときの位置関係です。正常な立位に対して、アラインメントがくずれた立位をとってみて、どのように直したらよいか実際に実技でやってみましょう。

また、立位を生かして、歩行へとつなげるには重心移動が上手にできる必要があります。

例えば、尖足が強い場合は、重心が常に前にかかってしまいます。このような時は、バルーンにもたれて立ち、重心を後ろに移動する練習があります。うまく後ろにかかったら、左右に重心移動をします。

逆に、前に重心がかからず、立っていることはできるけれども動き出せないタイプの子どももいます。そのような子どもに対しては、前にあるバルーンに手を置いて、手で支持しながら前に重心移動することを練習するのがよいでしょう。このような子どもは手で体を支持するのが上手でないことが多いです。

立位や歩行でのバランス反応には、ステッピングやホッピングがあります。また、転んだときに手をつくパラシュート反応が必要です。

(オ)歩行

歩行するときには体はどのように動いているかを知っておきます。例えば、体の回旋を使って歩行しています。この回旋の動きを後ろからの介助で練習する方法があります。

 歩行ができるようになってからも、応用歩行を練習しなくては実用的になっていきません。また、歩行を始めることによって、手を支持することが少なくなってしまう場合もありますので、例えば手すりを持って階段を上るとか、階段を四つばいで上るなどを意図的に行った方がよいでしょう。スロープや階段は、関節の可動域を保つのにもよい方法です。後ろ歩きや横歩き、平均台などはバランスの練習になります。トンネルをくぐったりする練習は、自分の体を環境に合わせて動かす練習になります。

(カ)   日常生活動作

立位や歩行は、生活のいろんな場面で大切ですので、その力をできるだけ生活に生かすことによって、さらに力をつけていきたいと思います。たとえば、更衣動作も立ちながら行えると便利です。物を持って歩くことによって、遊びや作業、学習が広がっていきます。公共交通を利用して、買い物に行くには、周りの人に合わせて歩くという判断力も含めた総合的な力が必要です。

C まとめ

 アフォーダンスという言葉があります。これは、人が環境に対して自分の体を働きかける力という意味でしょうか。立位や歩行だけでなく、本人が周囲の環境に適応し、自分の体を動かしたり活動したり表現したりする力をつけていきたいと思います。そのための評価であり分析であり、様々な方面からのアプローチだと思います。

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