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信心銘解説

底本 「筑摩書房禅の語録16信心銘」による

信心銘

至道無難 唯嫌揀擇 但莫憎愛 洞然明白 毫釐有差 天地懸隔 欲得現前 莫存順逆

違順相爭 是為心病 不識玄旨 徒労念静 円同太虚 無欠無餘 良由取捨 所以不如 莫逐有縁 勿住空忍 一種平懐 泯然自尽 心動帰止 止更弥動 唯滞両辺 寧知一種 一種不通 両処失功 遣有没有 従空背空 多言多慮 転不相応 絶言絶慮 無処不通 帰根得旨 隨照失宗 須臾返照 勝却前空 前空転変 皆由妄見 不用求真 唯須息見

 

二見不住 慎勿追尋 纔有是非 紛然失心 二由一有 一亦莫守 一心不生 萬法無咎 無咎無法 不生不心 能隨境滅 境逐能沈 境由能境 能由境能 欲知両段 元是一空 一空同両 斉含萬象 不見精麁 寧有偏党

大道体寬 無易無難 小見狐疑 転急転遅 執之失度 必入邪路 放之自然 体無去住 任性合道 逍遙絶悩 繋念乖真 昏沈不好 不好労神 何用疏親 欲取一乗 勿悪六塵 六塵不悪 還同正覚 智者無為 愚人自縛 法無異法 妄自愛著 将心用心 豈非大錯 迷生寂乱 悟無好悪 一切二辺 良由斟酌 夢幻空華 何労把捉 得失是非 一時放却

眼若不眠 諸夢自除 心若不異 萬法一如 一如体玄 兀爾忘縁 萬法斉観 帰復自然 泯其所以 不可方比 止動無動 動止無止 両既不成 一何有爾 究竟窮極 不存軌則 契心平等 所作供息 狐疑浄尽 正信調直 一切不留 無可記憶 虚明自照 不労心力 非思量処 識情難測

真如法界 無他無自 要急相応 唯言不二 不二皆同 無不包容 十方智者 皆入此宗 宗非促延 一念萬年 無在不在 十方目前 極小同大 忘絶境界 極大同小 不見辺表 有即是無 無即是有 若不如是 必不須守 一即一切 一切即一 但能如是 何慮不畢 信心不二 不二信心 言語道断 非去來今

至道無難 唯だ揀擇を嫌う

悟りへの道は難しいものではない 取捨選択をしなければよいのだ

但だ憎愛莫ければ 洞然として明白なり

好き嫌いさえしなければ すっぱりとすべてがはっきりしている

毫釐(ごうり)も差有れば 天地懸(はる)かに隔る

毛の先ほどのずれがあると 天と地ほどもかけ離れる

現前せんと欲得(ほっ)すれば 順逆存ること莫れ

悟りを得たいのであれば 賛成反対などと言ってはならぬ

違順相ひ争う 是れを心病と為す

つくの離れるのというそういう思いが 心の病気になるのだ

玄旨を識らざれば 徒らに念静に労す

ものの本質を識らなければば 心が無駄に乱される

円かなること太虚に同じ 欠くること無く余ること無し

道は大空のように円かで 欠けたところも余すところもない

良(まこと)に取捨に由る 所以に不如なり

選り好みをするからこそ 本質から外れてしまう

有縁を逐うこと莫れ 空忍に住すること勿れ

対象を追いかけてはならない 空という考えに留まってもいけない

一種平懐なれば 泯然として自ら尽く

一つのものとして心が落ち着くと あとかたもなく自然と何もなくなる

心動いて止に帰すれば 止更に弥よ動ず

心が騒ぐといって静止させることになれば 静止させるほどますます心が騒ぐ

唯だ両辺に滞る 寧ぞ一種を知らんや

動と静の両方に惑わされて どうして一つの事が判ろうか

一種通ぜざれば 両処に功を失う

一つのところに達しなければ 動か静かという二元対立の中で自由を失う

有を遣れば有を没し 空に従えば空に背く

有を否定しようとすれば有にとらわれ 空についてゆけば空を見失う

多言多慮 転た相応せず

説明が多く分別が多いほど 愈々真実から離れる

絶言絶慮 処として通ぜざる無し

言葉を断ち分別を尽くせば 真実に通じないものはない

根に帰すれば旨を得 照に隨えば宗に失す

根本に立ちもどると真理を得るが 映つされたものを追うならば大本を見失う

須臾も返照すれば 前空に勝却す

ただちに自らを照らし観れば、空という観念も越えてしまう

前空の転変は 皆な妄見に由る

現前の空虚な世界がくるくる変わるのは すべて迷いのせいだ

真を求めること用いず 唯だ須く見を息むべし

真理をさがすには及ばない、ただ相対的な見方をやめよ

二見に住せず 慎んで追尋することなかれ

相対の考えにとらわれるな それをを追い求めてはいけない

才かに是非有れば 紛然として心を失す

善し悪しが現れた途端、入り乱れて本心を見失う

二は一に由て有り 一も亦た守ること莫れ

相対は絶対から出てくるものだ その絶対をも固持してはならぬ

一心生ぜざれば 萬法咎無し

心が起きさえしなければ どんな存在にも罪はない

咎無ければ法無し 生ぜざれば心ならず

罪が無ければ存在はないし 分別が生じなければば心は存在しない

能は境に隨て滅し 境は能を逐て沈む

主観は客体が消えるとともに消え 客体は主観が無くなるに伴ってなくなる

境は能に由て境たり 能は境に由て能たり

客体は主観に対して客体であり 主観は客体に対して主観である

両段を知らんと欲すれば 元是れ一空

両者の区別を知りたければ もともと同一の空だと知れ

一空は両に同じ 斉しく萬象を含む

同一の空がそのまま二つの部分と変わらず あまねく無数の相を包んでいるのだ

精麁を見ず 寧んぞ偏党有らんや

精緻と粗雑の差もないのに どうして一方だけの偏りが認められようか

大道は体を寬く 易無く難無し

大道はそれ自体が広々としており 歩きやすいとか困難だとかいうことがない

小見は狐疑す 転た急なれば転た遅し

考えの小さい人は細かい事ばかり気にして 道を急げば急ぐほどいよいよ道が遠くなる

之を執すれば度を失し 必ず邪路に入る

ものにとらわれると尺度を失い 必ず間違った路に迷い込む

之を放てば自然にして 体に去住無し

手を離せばもともと自然で 道そのものは行く事も住まることもない

性に任せて道に合し 逍遙として悩に絶す

本性のままで大道と一致し ゆらりゆらりとのんびり歩いて何の悩みもなくなる

繋念すれば真に乖き 昏沈して不好なり

心を一つの対象に括り付けると真理にはぐれ 心が沈み込んで自由がきかない 

不好なれば神を労す 何ぞ疏親を用いん

自由を得ぬから精神をすり減らす どうして道から遠ざかったり近づいたりする必要があろう

一乗を取らんと欲せば 六塵を悪むこと勿れ

同じ一つの乗り物を手に入れたいと思うなら 六官の対象に逆らってはいけない

六塵を悪まざれば 還て正覚に同じ

六官の対象に逆らわなければ もともと釈尊の悟りを変わりはない

智者は無為なり 愚人は自縛す

智者はことさら何もしない 愚者は自分の縄で自分を縛る

法に異法無し 妄りに自ら愛著す

存在はおよそ変わったものなぞないのに 人はわけもなくくっつきたがる

心を将て心を用う 豈に大錯に非ずや

自分の心で自分を使うことは とんでもない間違いではないか

迷えば寂乱を生じ 悟れば好悪無し

心を見失うから寂と乱の対立を生み出すが 気付けば何の好し悪しもない

一切の二辺は 浪りに自ら斟酌す

全ての対立は わけもなくこちらが物を計るからである

夢幻虚華 何ぞ把捉を労せん

夢と幻想と空虚な華を どうしてわざわざつかもうとするのか

得失是非 一時に放却す

手に入れるとか失うとかそういうことは 一挙にさっぱり手放すことだ

眼 若し睡らざれば 諸夢自ら除く

眼が覚めているときは どんな夢を見ることはない  

心 若し異ならざれば 萬法一如なり

自分の心が変化しなければ 様々な存在はさながらにひとつである

一如体玄なれば 兀爾として縁忘ず

さながらに一つであるその本体は不可思議で ごろんとしていて手掛かりがない

萬法斉しく観ずれば 帰復自然なり

そこでは様々の存在が同じに見られて 自然の状態に帰るのだ

其の所以を泯じて 方比すべからず

自然にはその根拠が消えてしまって 何も比べることが出来ない

動を止むれば無動く 止を動ずれば止無し

動きをとどめようにも動きがなく 静止を動かそうにも静止がない

両つながら既に成らずんば 一 何ぞ爾ること有らん

二つの立場が成り立たないのであれば 一つの立場がどうして成り立つであろう

究竟窮極 軌則を存せず

とことんまで突き詰められて そこには手本というものがない

心の平等に契えば 所作ともに息む

心がぴったりひとつになって 作為はすべて尽き果てて居る

狐疑尽く浄きて 正信調直なり

ためらいは完全に底を払って 純なる精神が調和を保つ

一切留めず 記憶すべき無し

すべて何を留めず 思いを起こすことはない

虚明自ら照して 心力を労せず

形のない光明がちゃんとものを映し出して こちらの意識を働かせるまでもない

非思量の処 識情測り難し

思慮分別を超えたその世界は 知識や情意で測れない

真如法界は 他無く自無し

真なる世界は相手も無ければ自分もない

急に相応せんと要せば 唯だ不二と言う

急にそれにぴたりとありたいならば ただ相対であるなというばかりだ

不二なれば皆な同じ 包容せずということ無し

相対でないからすべてひとつであり 包み込まぬということはない

十方の智者 皆此の宗に入る

世界中の智者は みなこの原理に帰着する

宗は促延に非ず 一念萬年

真理は時間的に伸びたり縮んだりするものではないから 一瞬に掴めば万年も変わらぬ

在と不在と無く 十方も目前

真理は在るところとないところの区別がないから 世界中が一様である

極小は大に同じ 境界を忘絶す

小さい事物を押し詰めていくと 大きい原理と一つになって その分かれ目を忘れてしまう

極大は小に同じ 辺表を見ず

大きい事物を押し詰めていくと 小さい原理と一つになってその終わるところが見えない

有は即ち是れ無 無は即ち是れ有

存在がそのまま非存在であり 非存在がそのまま存在である

若し此の如くならざれば 必ず守ることを須いず

もしそうでなければ 決して固守する必要はない

一は即ち一切 一切は即ち一

ひとつがそのまま総てであり 総てはそのままひとつである

但だ能く是くの如くならば 何ぞ不畢を慮らん

もしこれがその通りであれば 何も心配はいらぬ

信心不二 不二信心

信じる心は相対するものではなく 相対するものではないから信じる心だ

言語道は断え 去來今に非ず

言葉はすべて断ち切られ 過去現在未来というような限定はない

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